背中が焼け付くように熱かった。
まるで灼熱の地獄に投下されたようにアキラはもがき、 そして生死の淵を彷徨い、それから1週間後 目を覚ました時には以前のアキラではなかった。
「塔矢くん、堕天使を滅ぼすために行ってくれるね。」
「はい。」
表情もなく返事したアキラの背には翼が羽ばたいていた。
気づいた時アキラはサイに一人で載っていた。
高度がかなり高い。アキラが見上げた空は真っ暗で足元はどこまでも
澄んだ青だった。
その先にその青よりももっと美しい球体があった。
「地球・・。」
アキラはサイの床部分のパネルモニターをすべて開けた。 足元に地球が浮かび上がる。
その青い地球のあちこちで赤い輝きが生まれては消えていっていた。 そのたびに悲鳴が思念となってアキラに伝わる。
「・・・僕は一体今まで何を・・?」
「アキラ、ようやく目覚めたのな。」
背後ではっきりと聞こえた声にアキラは振り返った。 そこにはヒカルがいた。
「ひ・・・かる」
アキラがヒカルに触れようとするとそれは1枚の羽に変わり落ちていった。
「あっ、」
アキラは驚いて手を放した。
よく見るとアキラの背にヒカルと同じ白い翼が羽ばたいていた。
「これは・・!?」
アキラがそれに触れるとヒカルが笑った。
「それ・・・・オレの翼だぜ。今はお前のだけどな。」
「どういうことだ!!」
アキラは本当は聞かなくてもそれがどういうことかわかっている 気がした。
「オレ人間に殺されたんだ。それでその人間がオレの翼をお前に 移殖した。お前は堕天使の血を受け継いでるから拒否反応が少ないだろうって。」
「そんなことの為に君は殺されたのか!!」
「ん。・・・けどオレが望んだんだ。アキラとずっと一緒に居る為にな。」
アキラは自身の体を両手でぎゅっと抱きしめた。
「君はバカだ!!これじゃあ僕は君を抱きしめる事もできないじゃないか。」
「アキラ・・オレは幸せだぜ。お前と一緒にいられて・・。」
ヒカルは本当に幸せそうにそう言って笑った。 アキラは以前見た夢を思い出していた。 ヒカルは確かにあの時もそういった。アキラとずっと一緒にいられれば 幸せなのだと。
サイは地球の引力に引かれているのを感じさせないほどゆっくりと 地球に向かって降下していった。 堕天使と人間の戦いはやがて眼下にはっきりとモニターに映し出された。
「アキラ・・・サイの本当の力をお前は知ってるか?」
アキラが首を振るとヒカルが笑った。
「そっか。お前はサイ自身じゃねえからな。」
「それはそういう意味!?」
ずっと気になっていたことだった。 アキラがサイの生まれ変わりではないかということ。 だがヒカルはそれに笑っただけだった。
「サイはさ。人と天使の2人の命で作られたんだ。 人と天使が争うためじゃない。一緒に暮らせる日を願ってな。」
アキラは以前サイのビジョンを通じてみたヒカルとサイの映像を思い出していた。
「君は彼の転生者ということを知っていたのか?」
「ううん。残念ながら気づいたのはお前の一部になってサイに載ってから。」 長い長い眠りについてたから忘れちまってたんだ。オレがうまれた意味も そしてお前に出会った意味も・・・。 人と天使その二つが一つになった時サイの真の力が発揮されることもな。」
得意げにヒカルがそういうとアキラはサイの周りに思念となった光の玉が
浮かんでいることに気づいた。 それはよくみえると仲間の思念体だった。
「和谷くん!!ナセさん!!」
そこにはヤシロやフクやオチやアシハラさん、それに倉田・・・。それに伊角の思念体もあった。
「伊角さん・・。僕は・・・。」
アキラが伊角に向かって何か言う前に和谷が口を挟んだ。
「塔矢お前、目覚めるの遅すぎだっての。オレたちずっと待ってたんだからな。」
思念の一つがサイの中に入ってくる。 それは伊角だった。すると次々と思念体がサイの中に入ってきてアキラの肩に 手を添えた。 そうするとサイは金色に輝きだした。
空から美しい金の粉が大地に降り注いだ。送り届けたのは仲間の思念体だった。
それはやせ劣れた大地にも。焼け爛れた街のビルにも。 生きることに失望した人の心にも。そして憎悪にかられた
天使の心にも、すべての生きとし生けるものに降り注がれた。
やせ劣れた大地の中からやがて緑の草木が芽吹いた。
焼け続いた街の火は鎮火し、人々の心の中に希望がうまれた。
地球に進軍していたオガタは遥か彼方空を見上げた。 オガタは降り注ぐ光のカケラを握り締めた。
「サイ・・・お前もヒカルもまたオレを置いて行ってしまうのか。」
サイは長い眠りについている間、大地に宿った生命と地に還った生き物から エネルギーを蓄えていた。 蓄えられた力が今再び地上に還っていく。
地球を再び生ある星にする為に。
その力のすべてを使いきった時、サイは地球の重力に引かれるように堕ちていった。
『またサイは眠りにつくんだな。できればもう2度と目覚めたくねえけど。』
「いや、今度目覚めた時は必ずこの手でキミを・・・。」
ヒカルはそれに微かに微笑むと思念体となった体でアキラの目の前に現れた。 その体を抱き寄せアキラはヒカルと唇を重ねた。
大地に再び日が昇ろうとしていた。
完
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