SAI〜 この手が君に届くまで 4





異常を知らせる警報音が鳴り響く。
「今度は何があったんだ?」
僕は格納庫にある回線を開いた。

「誰かそこにいるのか?」

声の主は副司令官の芦原さんだった。

「芦原さん!?」

「その声はアキラくん?」

「はい。」

「なぜアキラくんがそこに・・?」

「それは・・。」

理由はとても一言で説明できそうにはなかった。

「理由は後で聞くよ。
それより、格納庫の入り口がロックされパイロットが入れない。
司令室からもサイにパイロットが転送できないんだ。
マザーが急にダウンして、ヤシロくんをはじめテレポーターたちが全力を尽くしてくれてるんだが
手立てがみつからない。だが、サイは起動しているんだ。」

僕は一瞬それもヒカルの仕業ではないかと思ったが彼にそこまでの
所業が可できるとは思えなかった。

「アキラくん、そこにいるのならサイに搭乗してくれないか?」

僕はヒカルをチラッと伺った。
ヒカルはまだサイを見上げたままだ。

「構いませんがパートナーは・・。」

『パートナーを転送できる状態じゃないんだ。ごめん、アキラくん。』

この時僕の中に堕天使に襲われる街のビジョンと芦原さんの苦悩するような
心の声を聞いた。
会話をしなくてもその状況を相手に送り込む芦原さんの能力。
だが、時にその能力は残酷だ。

パートナーがいないとサイのコントロールはもって5分。
だが映し出された街の状況からは1分1秒だって猶予はない。



「わかりました。」

僕は自身の判断でヒカルの事を報告するのはやめた。
これ以上のロスはあってはならない。
僕は覚悟を決めるとヒカルを見据えた。

サイに一人で載ってもかまわない。
が、彼と・・・試してみるのもいいかもしれない。

普段の僕ならそんな風に思わなかっただろう。
訓練も受けていない能力も明らかじゃない子供と一緒にサイに載るなんて
一人で搭乗する以上に危険な行為だ。

それでもヒカルとならやれるかもしれない、この時の僕はそんな直感めいたものがあった。

「ヒカル、僕とサイに載ってくれないか?」

ヒカルの表情に満面の笑みが浮かびあがる

「マジ?やった〜!!」

それに杞憂を抱かなかったわけじゃない。
彼には言いたいことが沢山あった。
だが、僕はそれをすべてのみ込むことにした。

サイに念を送るとハッチが開き僕たちは吸い込まれるように別々の場所に
迎え入れられた。
サイはまるで僕たちが搭乗するのを待っていたようにすべてが万端だった。

別々のコックピットにいるというのに僕はヒカルのすべてを感じることができた。
これならいけるかもしれない。


「ヒカル、絶対に僕の言うことを聞いて。無茶はするな。」

「わかってるって。」

急速に体のオクから湧き上がってきた何かが全身に駆け抜ける。
この感覚・・・始まる。




サイは急速発進するとまるで空のてっぺんまで行くのではないかと
思うほどに雲をつきぬけた。

サイが飛び立ったと同時に僕は今まで感じたこともないほどの
感覚に襲われていた。
まるで僕がヒカルと一つになってしまったような感覚。


僕はともすると大声で叫びそうになってしまいそうな自分を制する
ので精一杯だった。
そう思っているとヒカルの喘ぐような叫び声が響いた。


「や・・なんだよ。このヘンな感じ。」

「ヒカル大丈夫か?すぐ街に到達する。もし無理なら
君はテレポートで脱出したらいい。」

「・ああっ・・ヤダよ、アキラがオレの中に入ってくる。」

「受け損ねると君の精神が傷つく。大丈夫だ。ヒカル・・・僕は何もしないから。」

そう声をかけると暴れてたヒカルの感覚がやがて穏やかになっていった。
あがっていた息も少しずつ取り戻してる。

『そう・・今は君を信じて受け入れるしかない。だから君も僕を信じて欲しい。
でなければ君とサイに搭乗することなどしかなったのだから。』
サイを通じてそう念を送るとヒカルは呼吸を整えてから小さく笑った。

「へへ・・ごめん。取り乱して、オレ大丈夫だから。」

「ああ。ヒカル気を引き締めて、まもなく射程距離に入る。」


サイは高速で軌道を修正しながら堕天使たちを攻撃できる射程距離へと入っていく。
もうすぐだ。
僕は体は焼け付くように熱いのに心は研ぎ澄まされていくのを感じた。




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