モノトーン

18

 

17話との繋がり悪いです。いきなりロケ地での撮影に入ってます(苦笑
     





暑さは殆ど感じない。風が方々に通るからだ。
木の校舎はヒカルが知ってる学校とは違ってどこか優しかった。


「カチンコ」を持ったスタッフがアキラとヒカルに目で合図を送る。
ドキドキ鳴り始めた胸に手を充て、清々しいほどの空気をすっと吸い込んだ。

「カン」と音が鳴ったと同時にヒカルは息を吐きだし顔を上げた。


SCENE 11




早朝の教室にはアキラしかいない。
アキラは朝はいつも一番の登校で、一人机に向かってもくもくと
勉強していた。


「アキラ見てくれよ」

ヒカルは手に封筒を握りしめていた。
その握りしめた手はわずかに汗ばむ。
ノートに何か書き留めていたアキラが顔を上げた。

「どうかした?今日は随分早いじゃないか」

アキラの表情は柔かい。

「お前とオレが作ったモノトーンがさ、1次オ―ディションに
通過したんだ」

封筒を手渡すと、アキラが中を確かめる。

「なっ、すごいだろ?」

ヒカルの嬉々にアキラは声をやや荒げた。

「どういう事、オーディションに通過って」

「この間撮ったデモテープをオーディションの選考に送ったんだ。ダメ元でさ」

「デモテープは君が個々で練習するためのものだと言ったじゃないか。
誰がそんな勝手なこと、僕はいいと言わなかったはずだ」

アキラの静かな怒りにヒカルは「でも・・・」と詰め寄る。

「1次審査通ったんだぜ!!次の2次審査はオレとアキラで
観客の前で演奏するんだ」

椅子に座っていたアキラが立ち上がり、突然ドンと机を叩いた

「僕は出場しないし、曲を使う事も許さない!!もうこの話はしないでくれ」

「なぜだよ。だったら何のために作ったんだよ」

ヒカルは泣きそうに顔を歪めた。
すでに演技であって演技でなかった。

アキラはヒカルを置いて教室を出て行こうとする。

「待てよ、アキラ。本当にダメなのか!!」

アキラは一瞬足を止めたがそのまま何も言わずに教室を出て行った。

1人残されたヒカルは茫然と立ち尽くす。

「何の為にお前はあの曲を作ったんだ!!」

もう1度誰もいなくなった教室に叫び、ヒカルはわなわなと
震えた。

「モノトーン」の曲を作ったのはアキラだった。
それに歌詞をつけたのはヒカルで、

ヒカルが歌詞を持って来た時、アキラは嬉しそうで
一緒にギターとキーボードを鳴らして口づさんだ。
そうして何度も2人でリズムを作り、音を足していったのだ。


アキラが置いて行ったノートが机に置かれていた。
パラパラとめくると、それは五線譜で
アキラは別の曲を書いている最中だった。

「アキラ・・・お前・・・」

ヒカルはアキラを追う事が出来なかった。

『モノトーン』はアキラが「ヒカル」の為に作った曲だ。





SCENE 15




オーディション会場でヒカルは一人待っていた。
もう出場は無理だった。
アキラはリハーサルには来なかった。
人数が揃わずリハを受けなかったチームは
オーディションに出場することは出来ないと「ディレクター」から
きつく言われていた。

それでもヒカルは諦めきれずアキラが来るのを待っていた。

屋外の会場には若い女性を中心に席が埋まって行く。
大半はこのオーディションの司会進行を務める「SPARKLE」が目的の客たちで、その「SPARKLE」はこのオーディション出身
だった。

ぼんやりと出番待ちの楽屋から客席の映像をヒカルは見つめた
僅かな望みに祈るように、アキラが来るかもしれなかった。


楽屋に伊角が顔を出す。

伊角は人気バンド「SPARKLE」のメンバーだけに出場者の目も引いたし、ただ歩いているだけでもアイドルとしてのオーラがあった。
そんな伊角が楽屋を見回しヒカルを見つけると手を上げた。

「君の相方は来ないのかい?」

「たぶん・・・もう」

ヒカルは湿っぽくならないように笑おうとしたが、かえって引き攣った笑いになった。

「そっか、もしギリギリでも来たら言ってくれよ。
君たちの番が来るまでは待つようにお願いしてるから」

ヒカルは驚いて伊角の顔を見上げた。

「えっ、でもいいんですか?オレたちリハに出てないのに!!」

「ディレクターに何とかならないかって頼んだんだ。君たちが作ったモノトーンって曲、デモ聞いた時からいいなって思っててさ。
だからどうしても生で聞きたかったんだ。
その代り、音響や照明はその場で合わせるからうまく行かないかもしれないけど、勘弁しろよ」

ヒカルは床までつくぐらい頭を下げた。

「ありがとうございます」

「礼は演奏を聞かせてくれよ」

そう言われてもヒカルには頭を下げることしか出来なかった。




あれからアキラと学校でもまともに話していない。
今日の事もメールで送ったぐらいだ。

オーディションに一次通過したこともこれ以上ないほど嬉しかったのに、
憧れの伊角がオレたちを認めてくれた事が嬉しくないはずがない。

涙が出てきそうだった。この喜びをアキラと分かちあいたいのに
傍にいないことが、一緒に演奏出来ない事が辛かった。
1次オーディションが決まってからヒカルは1人でも練習を続けていた。

「アキラ来てくれよ!!」

伊角の背を追いながらヒカルは返信の来ない携帯を握りしめた



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次の19話まで?(多分)こんな感じでお話が進みます。緋色





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