ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 

5章 地下へと続く道3



普通に会話できてほっとはしたものの、この先どうすればいいのか?

「君は何か気になるブースや催しはないの?」

「あっ、えっと」

直にもらった校内図の案内にとりあえず目を落としたが、
思いつくものはなかった。

「特にねえかな」

「じゃあ少し歩こうか」

アキラと他愛ない話をしながら、時間を持て余す。
以前のような距離感を保ちつつ、でもそれはやはりどこか
ぎこちなくて、お互いが意識してる、そんな感じだった。

「そろそろ時間だね」

直と約束した12時にはまだ20分程あったが、
お昼前で混み始めたブースもあり買いだしていたらそれくらいには
なるかもしれなかった。

「手分けしねえ」

「わかった。12時には教室に行くようにしよう」

ヒカルは焼き立てピザという店に並んだ。本格的なかまどで焼いており
行列ができていたが一端焼きあがると順は早かった。
それを手にし、約束の校舎に行く途中ヒカルは急ぐ空を見かけた。

何か慌てた感じで裏手の方に向かっていた。
ヒカルは背後から声を掛けたが空は気づかず、というよりも何か
を追っている?それとも追われている?
ヒカルは一旦諦めようと足を止めたが、直感のようなもので追いかけた。

空の速いこと、背は見えるのに距離は全く縮まらない。
人混みの中もすいすい抜けて行き、その間2度声を掛けたが、
その声からも逃れるように、
まるで追いかけるヒカルから逃げているようにも感じる。

そうしてヒカルが気付いたときには人もまばらな校舎裏まで来ていた。
賑やかだった、喧噪が遠のく。
そうして唐突に空を見失った。忽然と消えたように、

立ち入り禁止区域。行き止まりになったエリアにヒカルは足を止め、
20メートルほど先に立つ古い建物を見上げた。
窓はところどころ割れ、そこにビニールテープが張り巡らされてる。

視覚だけでも胡散臭さがあった。

「こっちに来たはずなんだけどな」

そうつぶやき、もう1度建物に目を凝らす。
どうしてこういう時に佐為がいねえんだよ、と心の中で悪態付きながら、
ヒカル自身で感じ取れるものはないか集中した。

「どうかしたのかい?」

いきなり背後から話し掛けられただけでなく肩を叩かれヒカルは驚いて振り返った。
気配を全く感じなかったのだ。寒気のような悪寒が走る。

だが立っていた白衣を着た男は柔らかな笑顔を浮かべており、
少しほっとする。

「あの、いえ、なんでもないです」

「すごく集中してなかったかい?部外者だよね?
ここは立ち入り禁止になってるんだよ」

相手に行動を見透かされたようでヒカルは頬を染めた。

「すみません」

「僕の方こそ、いきなりすまなかったね。旧校舎は肝試しに、って
学生や外部者が後を絶たなくてね。君はそういうタイプじゃなさそうだね」

染めた髪が少しチャらく若そうに見えたが、物腰は柔らかで
会話からして学生ではなさそうだ。

「あっそうなんですね」

とりあえず言葉を合わせ、これ以上ここにいるわけにいかず、
ヒカルは軽くお辞儀してその場を離れた。
後で空に聞けばいい事だ。そして脳裏に過ったのが、もしあれが空
でなく、『夜』だったらという疑念だった。




約束だった部室棟に戻り、部屋に立つ。12時は回っていたが、中か
ら声はしない。ノックして入ると、部屋には仕切りがあり、
思っていたより狭い部屋の窓辺にアキラがひとり佇んでいた。

合いそうになった視線を反らし、場の悪さに探すまでもないピザの置き場に
視線をさまよわせ、端にあった小さなテーブルに置いた。アキラもそこに
買い出しを置いていた。

「空と直はまだか?」

見ればわかることをワザとらしく言ってしまったような気がした。
どうにもアキラと二人(しかも部屋の中)になると意識してしまう。
勘のいいアキラには察されているだろうと思うとますますだった。

「さっきここに上がってくる前に空がもう少し掛かりそうだからと言ってたよ」

「さっきって?それいつ?」

「えっと、12時前、僕がブースに並んでいる時だから、11時50分くらいかな」

「それで、そのあと、空がどうしたかわかるか?」

「空は何でも屋のブースに戻っていってたよ。僕が並んでいた粉ものブースと何でも屋の
ブースは斜め向かいだったから。購入した後も直くんと一緒にいたのを目視してる。
何かあったの?」

「えっと、」

ヒカルは先ほどの事を話す。

「旧校舎の方に?時間的に合わないな、本当に空くんだった?」

「そう言われると自信がなくなるよな」

そう本当に忽然と消えたことを考えても、あれが空だったのかヒカルは
わからなくなっていた。

「でもわからないよ。空には後で聞いてみよう。それと旧校舎もね、」

「ああ、佐為が戻ってきたら空たちになんとか理由付けて行ってみようぜ」

そう言ったあと、会話が途絶えた。

何か言い出さなければ、と会話を探していると、ぽつりとアキラが言った。




「パートナーを、解消されると思っていた」

アキラは切り出すタイミングを見計らっていたのだろう。
ドクンと胸が鳴る。やはり、避けるわけにはいかないのだろう。

「そうすればよかったか?」

アキラがヒカルを真正面から捉えていた。
心の奥まで見透かされたようで、ヒカルは息を呑んだ。
腹を据えるしかない。

「いいか、一度しか言わねえからな!」

怒鳴るように言ったその声は自分でもわかるほど震えていた。

「佐為が戻ってきてくれてオレほっとした。
あいつはオレにとってすげえ大切っていうか、一心同体っていうのか、
上手く言えねえけど、だけど、お前だってオレは、その大切だから」

そう言っていったん深呼吸をしたら、過呼吸になりそうだった。

「お前とまた一緒に居られてよかったと思ってる。オレもお前が好きだから」

怒鳴っていた声が最後は消え入りそうで、
胸がバクバク悲鳴を上げてる。アキラの顔が見れなかった。
近づいてきた足音にひるみそうになる。
そして何かを期待してる自分が嫌になる。
あと1メートルという距離でアキラの歩が止まる。

「ヒカル」

「も、もういいだろ!」

『これでわかれよ、』と心の中で叫んだ声はアキラに、伝わってる。
そう思うともう顔まで真っ赤になり、
アキラに掴まれた腕は震え、繕うことなど出来なかった。

抱きしめられ、アキラの顔が息が体温が、これ以上ない程近くなる

「な、いきなり、なんだよ」

抗議したが、体は動かなかった。
抱きしめられた体は深く強くまるで一つになろうとしてるようで切なくなる。

「僕も君が好きだ」

アキラの声もまた震え、泣き声のようだった。

「見られたらどうするんだ!」

「二人は僕らよりも僕らを知ってる。それは佐為もじゃないのか?」

見透かされてる。完敗だと思う。
わずかに緩んだアキラの腕にヒカルが放れようと試みると、腕をもう1度引き寄せられ
アキラが落ちてくる。

触れた唇に、胸が鷲掴みされる。切なくて苦しい、
アキラを好きだと思う気持ちが溢れてきて、 もうどうしようもなかった。
はなれた唇が名残惜しくて、無意識にアキラにしがみついていた。

「オレ…も」

一度しかいわねえ、って言ったのに・・・。

再び重なった唇に舌が割られる。背に回された腕から触れたそれから
全身にしびれが伝染していく。

心も体もすべてアキラに囚われる。
アキラが好きだ・・・。



地下へと続く道4へ

一言
結構展開が強引だったような気がしてきた(笑)
そうしないとくっつかないのよ。この二人(笑)緋色