ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 

4章 正体7



 

ヒカルを待つ間がとても長く、アキラはどうしようもな
く沸き上がってくる緒方への怒りと不甲斐ない自分へ後悔で唇
を噛み腕をきつく握る。
押さえきれない想いで立ち上がりヒカルのいる寝室に行こうとして
思いとどまり。それを繰り返し、やがて寝室の扉が開いた。

ヒカルはふらつく体を気力で押さえているようだった。

「ヒカル!!」

アキラが駆け寄るとヒカルは小さく首を振ってアキラの前で手を止めた。
これ以上来るな、ということだ。
それに少なからず傷つきはしたが、構わずヒカルの体を支えるとヒカルは
体を震わせ顔を顰めた。

「大丈夫だって」

「まっすぐ歩くことも出来ないじゃないか!」

「・・盛られたんだ」

僅かに開いた口から洩れた声に
アキラの体内の血が沸騰したような気がした。
何の薬かなんて聞かなくてもわかる。
一度は抑えこもうとした怒りが、爆発しそうになりヒカルを支える手に
力が籠もる

「アキラ、ちょっ痛いって」

アキラはもうどうしたって感情を抑えることが出来ずヒカルを思い切り抱きしめた。
立つのもやっとというヒカルはアキラにただ体を預けるしかない。
仕方ないというようにヒカルはアキラの背に手を回した。

「お前が心配してくれてるのも、怒ってるのもわかるんだけど、
生理的なものはどうしようもねえだろ?」

困ったように離れようとしたヒカルの言いたいことはわかった。

「それより佐為を探さねえと!!」

ヒカルをそういわせたのは気力だろう。

「佐為はここにいないのか?」

「事情はここを出て話す」

ヒカルが自分の体の無理を通してもここから出たいのはそのこともあるの
だろう。
ヒカルの事情を察しながらも、アキラはヒカルを介助してマンションを出た。
タクシーを拾ったアキラは行先場所に組織から与えられたマンションを告げた。
が、ヒカルは何も言わなかった。


「オレ携帯も鞄もなんもねえんだった」

「それは大丈夫。信頼のできる人に頼むから」

2人が車内で会話をしたのはそれだけだった。

ヒカルは車内でも、必死に何かを探していた。
日がまもなく沈む。ネオンが付き始めた街を、目は追っていた。
おそらくそれが佐為なのだろう事は想像がついたが。
いつから佐為がいないのか?
佐為がいなかったから今回の事回避できなかったのか?

マンションに着いてアキラがカギを回した瞬間ヒカルはアキラを
払うように扉を開け靴を放り投げ部屋へと駆け出す。

「ヒカル!!」

扉という扉を開けるヒカルは無我夢中だった。
その尋常じゃない様子にアキラもただ事じゃないとわかる。

「ヒカル、少し落ち着いて!」

「佐為どこだ?俺の声聞こえてるんだろ!!」

アキラなど見えていないように。
やがてヒカルは呆然と立ちすくむ。

「事情を話してくれると言っただろう。ヒカル何があったんだ!!」

ヒカルの肩を抱こうとしたが、アキラに意を解せずヒカルは
今度は突然ベランダへと駆け出す。
その勢いは恐ろしくアキラはヒカルがその先に広がる夕闇の空に
風に身を任せてしまいそうな気がしてベランダで背後からきつく抱きしめた。

「放せよ!!」

「事情を聞かせて欲しい。僕にも出来ることがあるかもしれない」

「あいつここからの景色が好きだったんだ。だからここだと思ったのに」

ヒカルの独り言のような言葉にやはりアキラの声は届いていないのだと知る。
その証拠にここにきてヒカルはアキラの名を呼んではいない。

「もういい加減にしろ!!」

腕の中で暴れるヒカルをこちらに強引に向かせる。
震える体も、この不安定な情緒もまだヒカルの中に残っている薬のせいかもしれない。

ならと、アキラはヒカルの唇を奪った。
目を大きく見開いたヒカルは一瞬何が起こったのかわかなかったようで僅かの後
アキラの腕の中で思い切りもがきその腕を払いのけた。
顔は怒りのせいか、耳まで赤に染まっていた。


「バカアキラ何で、」

アキラはヒカルから自ら少し離れた。

「よかった。君が僕を見てくれた」

「なんだよ、それ!!」

「ごめん、君がどこか行ってしまいそうな気がしたんだ」

「だからってなんでキ・・・スなんて、女じゃねえんだし」

「女性にだってこんなことはしない」

君にだからするのだと、言いたかったがそれは今はいい。

視線をさまよわせ困ったように唇を拭うヒカルに少しほっとしてる。
ようやくアキラと向き合ってくれたのだ。

「佐為の事話してくれるね」




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進んでいないですねm(__)m緋色