ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 

暗闇の中で20



 


佐為に聞いていたが、部屋を出ると芥が待っていた。

「悪いな。遅くなっちまって」

「いや」

芥は首を振った。

「最後にもう一つ頼まれてはくれぬだろうか?」

そういうと芥は手のひらに収まる程度の小さな小瓶をアキラに差し出した。

「夜とらんに渡して欲しい」

それを受け取るアキラの手がわずかに震えて見えたのは気のせいでは
ないはずだ。

「中身を、聞いても構いませんか?」

「そうだな、少なくともお前たちには話しておくべきだろう。
それは人外である人格を破壊し消滅させる薬だ」

「人外の人格を破壊し消滅させる?不死に近いヴァンパイアの夜やらんを消滅させる
という事 ですか?」

「そうだ」

アキラが一瞬言葉を失ったのも解る。
わかに信じられるものではない。
一般的伝説になっているようなヴァンパイアの苦手なものというのは
おとぎ話でしかない。
数も減り弱体化していると言われているヴァンパイア
だが、生命力も能力も人のそれとはまったく別次元のものだ。

「これも相沢が作ったものですか?」

芥が僅かに首を横に振った。

「これは学が作ったものだ」

「学くんが?」

「そしてその検体にオレがなった」

それはアキラにとってもヒカルにとっても驚愕的な事実だった。

「成功した・・・という事ですか?」

「ああ、少なくともオレはもう2度と狼にはならないだろう。
あいつはあの風体だが、オレよりも科学者としてずっと優秀だ。
あの年で特許もいくつも取得してる」

「じゃあなぜ、学はそれを飲まなかったんだ!?」

ヒカルはまだふらつく体を壁に支え、思わず声を上げていた。

「学の体力がすでに衰えていたからだ。
あいつが飲めば狼だけでなく人の生命を落としていたろう。それほど強力な
ものだ。
それに、あいつは、それでもどこかで狼でいたかったのかもしれない」

ヒカルは言葉を失った。

学の葛藤をヒカルは知ってる。
芥と生きたいと願った学、芥を兄としてではなく愛していた学、
狼になってもそれが叶うのなら本懐であったのだろうか?

「オレがオレがこんな事言える立場じゃねえのわかってるけど、」

ヒカルの言葉は体はわなわなと震えた。

「お前たちが言いたいことはわかってる。それを夜とらんに渡してくれ、
あいつらなら人として生きていけるだろう」




ふらつくヒカルを庇うようにアキラが寄り添う。
上へと向かう間、アキラも佐為も無言のままだった。

上に上がると夜とらんが二人を待ち受けていた。

「どうだった?」

らんが心配そうに歩み寄り、ヒカルを支えた。そうして傍にあったベッドに腰かける
ように導いたあと、今度はヒカルの隣にアキラも座らせた。

「学は命は取り留めたけど、」

そういうのがヒカルには精一杯だった。

「そっか、けどそれがあの二人の想いなんだよね?」

らんは顔を震わせ夜の方を振り仰いだ。

「ああ」

夜も思うところがあったのだろう。
そういえば夜の人間の人格の『空』の事を学は好きだったと言っていた。
アキラは何も言わずそれを差し出した。

「やはりまだあったんだな?」

夜もらんも小瓶の中身の事を知っているようだった。

「まだって?」

「この薬の製造方法を学は残していないと言ってたんだ」

それは相沢に悪用されるかもしれないからだとヒカルは解釈した。

「けれどそれが必要な者もいるのでは?」

アキラの質問に夜は苦笑した。

「オレたち以外にか?ハンターのお前がいう言葉とも思えないが」

返せないでいるアキラに夜は小さく『すまなかった』とつぶやいた。

「アキラ、ヒカル、」

らんは突然二人を一緒に抱くように腕を回した。

「お願いがあるんだ。空と直の友達でいて欲しいんだ。ずっと、ずっと
ずっと・・・・」

ヒカルはらんの背に腕を回すと頷いた。

「ああ、約束する」

アキラもらんの腕を返す。

「僕も約束しよう」

「ありがとう、ヒカル、アキラ」

らんの涙が頬を伝う。それはあたたかだった。

「それと、二人ともさっさと素直になりなよ?」

今まで泣いていたらんが、舌を出し、二人から離れる。
何の話だろうと思ったが、たぶん直が言ってた、ヒカルとアキラが付き合ってるなどという
あの事だろうと思いヒカルは、そんなじゃないと言おうとしたが、
言い返すことが出来なかった。それはアキラも同じだったようで、困ったように未だ触れていた
互いの肩を外した。

「僕、二人にお別れは言わないからね」

「ああ」



学との別れも辛かったけれど、
満面の笑みを浮かべたらんはあまりにも美しくて・・・。



夜が消えても、直の記憶にらんがなくても、オレもアキラはずっと覚えてる。
この命が消えるまで、



3章終わり
4章正体1へ



お客様へm(__)m

なかなか更新できずで、すみません
このお話しは1章ごとに終わりがあるので、ここで終わってもよいのでしょうが、
もう少し描きたいことがあります。でもちょっとこの先描けるか自信もなくm(__)m
とりあえず書き進めるところまで頑張ってみます。ちなみにすきしょ!のお客様で
読んで下さった方いらっしゃるかしら?夜とらんは今度展開上登場は難しいですが、空と
直は予定ありです。芥、学は??マッドな相沢パパさんも描けたらいいなあ、と思っては
いるのですが。。。緋色