ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 

  人ならざるもの2



 


監獄というと人間扱いされないんじゃないか、とか。ひどい扱いをされるのかと
思ったがそういうことはなかった。

ただ・・・決められた規則正しい生活の、静かすぎる監視された独房で長い時間に
ヒカルは数日で うんざりしていた。
佐為がいなければ、もう発狂してしまいそうだった。

その佐為もここにきて数日はかなり大変だったのだ。

成仏できない禍々しい呪縛霊がそこはかにいて、佐為に寄ってきては嘆くのだ。
今までもそういうことはあったのだが、『ここはそれらの比』ではなかった。
それをいちいち聞いてやる佐為は仕事の為というよりも、気のいい性格が祟ったもの
だと思う。


ヒカルも彼らの「存在」は感じるのだが、佐為ほどでなく、おそらく佐為が憑いてることで
自身は守られてるのだろうと思う。

佐為が少し落ち着いてきたのは、彼ら霊は『見えない鎖』に呪縛されてるということだった。
佐為のように憑いてるわけじゃないので、そこから動くことが出来ないのだ。
そうして幸いだったのが、この独房にはそういった霊がいなかったことだ。

そういうわけで、数日は佐為は使い物にならなかったが、ようやく霊たちと顔見知り(?)
になって少しづつ情報も仕入れてくれてる。

独房は監視カメラがあって、用もないのに動作することは許されていないが、声までは拾われて
いなかった。

「・・・にしてもあいつこねえな」

あいつとはアキラの事だ。声が拾われてなくても万が一があるので名前は出さない方がいい。

『私は見かけましたが。彼はまだ、新人なので、なかなか自由には行かないのですよ。
アキラくんが接触してくるまでには私たちももっと情報を集めておいた方がいいでしょう』

「それで、何かわかったことはあったか?」

『いえ、まあその、少し・・・』

「なんだよ。」

含むような佐為のものいいにヒカルは唇を釣り上げた。

『あの・・・』

佐為はいいにくそうに口をつぐむ。

「言いたいことがあるならいえよ」

『ヒカル、怒りませんか?』

「もう怒らねえよ」

『この部屋だったようです』

「何が?」

『だから、殺された二人ですよ』

「ええっ!?」

佐為が言いにくそうにしてた理由がわかってヒカルは頭を抱えた。怒らないといった手前
怒鳴ることも出来ず大きなため息を吐くしか出来なかった。

「そういう事オレにいうか?普通?」

『だから言いたくなかったんですよ。でも知らないでいるよりはいいでしょう』

ヒカルは再び盛大なため息を吐いた。ここに来たときから腹をくくってたはずだ。
それに佐為のいう事も一理ある。知っているのと知らないとでは対策も違う。
だがこの情報はアキラも知ってるだろう。

「この部屋に霊がいない事とは関係ないよな?」

『さあ、それはなんとも』

「霊たちは他に何もみてないのか?

『ええ、人外のものを呪縛霊が感知することはなかなかできることではありません。彼らは
自分たちのことばかりです』

「けどお前は見えるだろ?」

『私はヒカルが人と認識しても『人でない』とわかるのです。彼らの実態は虚ろです』

そのあたりは佐為に聞いてもよくわからない事だった。とにかく佐為にはわかるという事を
信じるしかなかった。

「今のところ囚人、看守にはいねえんだよな?」

『はい、私が見回ったところ思しきものはおりません!』

力強く言った佐為にヒカルは『わかった』と頷いた。
だが、このまま手がかりがなけらばずっとここに居続けなければならない。
焦る思いは胸にある。




その日の夕方、看守が一人ヒカルの部屋にやってきた。
それはヒカルがここに来たときに迎え入れた和谷という名の若い刑務官だった。

『看守』はいかつい、ごついイメージがヒカルにはあったが和谷はさわやかで、ヒカルの看守のイメージを変えた一人かもしれない。もちろんアキラが看守でもそうだろうが。
初日から和谷とは数回会っており、ひょっとしたらヒカルの担当なのかもしれなかった。


「どうだ?来てから1週間になるけど少しは慣れたか」

「はい まあ、暇すぎてどうしようもねえけど」

「そろそろ作業をしてもいいころかな。
ところで明日 司祭がくるんだが、会ってみるか?」

「しさい?」

「ああ、一人ずつ時間を取って話を聞いてくれる。キリスト教徒やカトリック教徒じゃなくてもいい
んだぜ」

佐為がひそひそとヒカルに耳打ちをする。

『罪を償う、祈りを捧げたり。悩みをきいてもらったり、そんなところでしょうね』

なるほどと思いヒカルは少し考え込む。ヒカルの罪と罰は作られたものだ。そのあたりは組織が
上手くはやってくれてると思うが外部と接触してバレやしないかとも思うのだ。だが情報を得るためにはここから出ていく必要もある。


「人気の司祭で、明日も朝からきて1日1人ずつ話を聞いてくれる」

「少し会話する程度でもいいのか?」

「もちろんだ」

「じゃあ会ってみようかな」

「わかった。じゃあ予定に入れておくぜ?」





翌朝ヒカルは食事を終え、長い1日の始まりにすでにうんざりしそうになっているころ、隣の部屋から壁ぎわに鈍い音が響いた。

「なんだろう?」

傍にいた佐為に聞くと佐為は頷き、すっと壁を抜けていった。しばらく壁にその音は続き、
時折うめくような声が混じる。
壁に直接耳をつけるわけにいかず、様子を伺っていると佐為が戻ってきた。

「どうだった?」

『看守が来ました』

「暴れたとか?」

『いえ、この時間は死刑執行が言い渡される時間のようです』

佐為の言葉に心臓が凍てつく。

「ひょっとしてこれからなのか!?」

佐為が『いいえ』と首を横に振る。

「大丈夫だったのか?」

『ええ ただ執行日は決まった曜日や時間などあるようで、今朝は囚人たちが怯えてます』

執行がないとわかり、ほっとしてヒカルは胸を下ろしたが、
改めて自分が置かれてる『この場所』を理解したような気がした。
他の囚人との接触はほとんどないがすれ違うことぐらいある。

彼らには表情がない。うつろで下向きで生きるも死ぬも自分の意思はない。


「罪を犯したものは、笑うことも許されないのか」

『人の命を奪ったのですから、その重みは、ヒカルとは立場が違います』

「でもオレだって、奪おうとしてる」

『ヒカル、気持ちはわかりますが、そういう持ちようでは危険ですよ』



割り切れない思いに苛まれる。もう少し気がまぎれる事
でもあればいいのだが、ここは負の感情が渦巻いてる。
どうしても悪い方に気持が向いてしまう。



目を閉じ、思わず手を合わせたのは何を祈ってだろう。
ヒカル自身わからないが、そうせずにいられない思いが胸に溢れてた。

    
      
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一言
倫理観とか、そういうのを描こうと思ってるわけでなくて。すべてフィクションです。
もし不愉快な表現等があればお許し下さいね。緋色