2重らせん 6





     
「アキラ、お前・・・ひょっとしてまだオレの事、」

「好きだよ。君が、」

ヒカルは胸がドクンと高鳴るのを感じた。

「君には辛い思い出ばかりかもしれないけれど僕は
君と施設で暮らした頃が一番幸せだった。
君が施設を出て言った後、僕は寂しさと悔しさでまるで魂が抜け落ちた
ようだった。
そして現実には会えない君を夢中で追っていた。
夢で会う君さえも僕はつかめなくて追いかけて。昨夜なんて
夢の中で命さえ落とした。」

自傷するようにアキラが笑う。

「そして思ったんだ。
もし一目でも本当の君に会えたなら僕はもう何もいらないだろうって」

「アキラ・・・」

そんなにもヒカルを想ってくれていたアキラの告白が胸を熱く・・・そして
痛くする。
ヒカルはそんなアキラの想いを利用しようとしている。

「でもこうやって君に再会した今、僕の中の貪欲な想いがあふれ出
してる。そんなものでは足りないんだ。君を知りたい。君に触れたい。
そして僕は君を・・・。」

ヒカルはさ迷うアキラの腕に自身の指を重ねた。
アキラの指はかすかに震えていた。

「お前オレが施設出てく時に告ったろ?
あのときのことオレ昨日のように覚えてる。」

そう一語一句、アキラの表情もしぐさもすべて。

「オレ、お前のことそんな風に思ったことなかったからあのときはよく
わからなかったんだけど。
あの時のことを思い出して巻き返えすたびにオレ・・・。」

ヒカルは言おうとした続きの言葉に体中熱くなって思わずアキラの腕を
離した。
とてもじゃないがそんな告白は流石に恥ずかしすぎた。

「なに・・・?」

真顔のアキラが迫ってくる。

「いや、だから・・・・ってオレ何言ってんだ。」

ヒカルが頭を抱えると逆にアキラは落ちついたようだった。

「それは君も同じ気持ちでいてくれたってこと?」

「いや、違うかな。
あの時お前は『オレを必ず探す』って言ったけど、オレはもう2度と
お前には会うことはないだろうし、その方がいいって思ってた。
だからお前のことは思い出っていうか。
そのうち時がたてば忘れるだろうなって。」

再びアキラの表情が揺れてヒカルは慌てた。

「ほら、お前の能力と行動力があればどこの企業からも
引く手数多ろ?
いずれそこでトップにだって立つんだろう。
俺みたいな日陰者とは違う。」

「どうして君は自分を卑下するようなことをいうんだ。
この4年間のことが関係してるのか?」

声を荒げるとアキラはヒカルの腕をぎゅっと掴み自身の方に向かせた。
激しい瞳がヒカルを捕らえていた。
アキラはヒカルを量ろうとしてるようだった。

「・・・どうだろう・・・。」

掴まれた腕からお互いの想いがあふれていくようだった。

「それでも、オレは今日お前に会ってゆれた。
お前に告白されて、あれから4年たって・・・。
大人になっちまったけどあの頃のままのお前でよかったって。
オレお前のこと・・・好きだ。」

偽りの気持ちなんかじゃない。
アキラがずっと好きだった。

「ヒカル!!」

アキラはソファにヒカルを押しつけると唇を奪った。












アキラの体温が肌が熱い。
ヒカルは自然を装って寝返りをうつことでアキラの腕をはずした。

鈍痛と倦怠感が体全体を覆っていた。
べッドから起き上がると今度は腹部に引きつるような痛みが走る。

『いてて・・・、』

それでもヒカルはゆっくり立ち上がった。
このままだといろいろまずいことがある。

ヒカルがベッドからでた気配を瞬時に悟って
アキラが飛び起きた。

「ヒカル!?」

「わりい。起こしちまったか?」

「いや、寝てたわけじゃないんだ。」

アキラが言ったとおり、ヒカルが寝た後もアキラは眠れずにいたよう
だった。
それはアキラの肌に抱きしめられていたヒカルも感じていた。

「シャワー借りるな。」

「ああ、うん、でも一人で大丈夫?」

そのまま風呂場にまでもついてきそうなアキラにヒカルは怒鳴った。

「大丈夫だって。だから絶対覗くなよ!!」



アキラは神妙な面持ちだった。
ヒカルはアキラに背を向けると赤面した。
今更ながらもっと言葉を選ぶべきだった。

『覗くなっ』て自分が今からすることを仄めかしているようで
はないか。
アキラがそこまで気づいたかとはおもえないが、
ヒカルは逃げるように風呂場に飛び込んでいた。



アキラのマンションの浴室は本当に狭いものだった。
1人暮らしといえばこんなものが妥当なのだろうが。

今ヒカルが住んでいる、マンションの半分もない
浴槽に湯を溜めながらシャワーをひねった。

思うように出てこない湯にやむ得ず風呂の湯を止めた。
吹きこぼれだしたシャワーとともに大腿部を濡らしはじめた
露を流し落とす。


ヒカルは深呼吸して力を抜くと感じないようにそこへ指を差し入れた。
思った以上に簡単に指が入ったのは
アキラのそれが自分のなかにあふれていたからだ。

『アキラ・・・。』

それだけで先ほどのことを思い出しヒカルはまた欲情してしまいそう
になる。
あんなにアキラとヤッた後だというのに。

ただの処理だと割り切ってヒカルはもう1度指を差し入れた
その時だった。
風呂場の外でアキラの気配を感じたのは、


「バカ、絶対に、・・・、」

『くるな』と最後まで言うまえに扉が開いていた。

「バカやめろ!!」

戸を閉めにかかったが片手ではうまくいかなかった。

「バカ野郎、絶対くるなっていっただろ!!」

あまりの恥ずかしさに何度もバカを連呼した。
アキラの顔を見ることさえできなかった。

黙りこくったアキラがようやく一言口にした。

「ヒカル・・・、」

泣き出しそうに震えたアキラの声にヒカルはアキラの顔を見た。
崩れ落ちそうなアキラがそこにいた。

「お前、なんで・・・?泣いてんだ?」

「また君がどこかに行ってしまうんじゃないかって、」

ヒカルは張りつめていたものが切れたような気がした。



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