わんこそら物語



2話




     
ワンコそらは暗くなっても降りしきる雨を見つめながらほけ〜としてため息を
ついた。

その様子を夜は珍しいもんでもみたように眺めてる。

「たくよ。らしくねえぞ、へんなもんでも食ったか?」

拾い食いでもしたんだろ?って決め付けるように
言った夜をそらは不機嫌きわまりない表情でにらんだ。

「そんなじゃねえ〜」

「だったら発情期か?」

「はゆ・・じょ・・き・・??」

聞いたことのない言葉に舌を噛みそうになったそらを夜はバカにしたよう
に笑った。

「おこちゃまのてめえにはまだ早え話だったな。」

「なんだよ、よる、その、「はゆじょき」ってのは?気になるだろ。」

そらはいつも夜にガキ扱いされるのが嫌だった。
だってたったの半年歳が違うだけなんだぜ?
それなのにいつも保護者面されてガキ扱いされるなんてよ。

「バカ。はゆじょきじゃなくて、は・つ・じょう・き。
てめえも大人になったらわかるって。」


にやにやしながらぽんぽんと頭を叩いてくる夜は今日は
やけに機嫌がよかった。

たく、なんでこんなに今日は機嫌がいいんだよ?

オレは今大事な事を考えてる時だってのに
直の事考えてるのに・・。


あれから・・・直はまったくらしくはなかった。

うわの空でぼけ〜としてるかとおもったら急に「くぅちゃん」ってオレの名を呼んで
ぎゅっと抱きしめたり。
そしたら今度は熱があるのかと思うほど真っ赤になったり。

オレが心配して直の唇をペロッと舐めるとくすぐったそうにしてたけどでも
オレもいつもみてえに満たされたような気持ちにならなかった。

だって直あんな寂しそうに笑うなんて。


やっぱりあの羽柴空が悪いやつなのか?
オレ直のこと守ってやりてえのに、犬のオレじゃダメなのか?

窓の外を眺めたそらは盛大にため息をつくと直のことを思ってワンと
一声吼えた。



「バカそら何たそがれてんの?」

そういったのは夜のコイビトのうさぎのらんだった。
らんはなぜか真っ白のふりふりのエプロンをつけてた。
それになんかいいにおいをさせて・・。ってあれこの匂い直と同じ
匂いじゃねえ?
すげえ温かくてふわふわでいいにおい。

オレは不覚にもその匂いにつられてらんに擦り寄りそうになったが
宿敵のらんの顔をみた瞬間ぷるぷると体を震わせた。

そうだ。こいつの顔や匂いに騙されちゃいけねえんだ。
こいつはとにかく意地悪でヤなやつなんだ。


「オレだって考え事ぐれえすることあんだからな。それよりなんでらんが
うちにいんだよ。」

「ふ〜ん。そんなコト言うんだ。僕がせっかく美味しい手料理をご馳走して
あげるって いうのに・・。」

「げえ!らんの手料理!?」

らんの料理は何度か食った事があるんだけど、すげえ独特の料理なんだ。
にんじんとかキャベツとかの生野菜がお皿にごろごろとのってる全くありがたくない
やつ。
育ち盛りのオレとしては肉とか魚とかもっとこう精のつくもんが
食いたいんだけど。

「なに?そら不服なの。」

オレの表情からそう読み取ったらしいらんの目は据わってる。
そしたら隣で様子を伺ってた夜が口を挟んだ。

「そんなわけねえだろ。らんの作ったものだったらなんだってうめえし。
オレは喜んでくうぜ。」

オレは心の中で夜の裏切り者!!って叫んだ。夜だってらんの作る料理は
そんな好きじゃねえのをオレは知ってる。なのに一人だけいいカッコしやがって。


「ホント?よるぅ僕うれしい!!今日はね夜が好きなカレーにしたんだよ。
腕によりをかけたんだから。」

らんは夜に飛びつくと二人はじゃれ合うように抱擁をかわす。
ああ〜全く公衆の面前でいちゃつきやがって。

「そっか、そりゃ楽しみだな。」


横目でいちゃつく二人を眺めながらカレーだったらもオレも好物だし
今日はいけるかもって思ったんだけどその甘い考えは後で後悔する
ことになった。


らんが作ったカレーは辛くて舌がひりひりしてやっぱり食えたもんじゃな
くて。


けど、夜がいうには「これが大人の味」らしい。
オレにはちっともその大人の味はわからなかった。

なんだかオレだけ取り残された気分。
大人になるってなんだろ?

コーヒーが飲めるってことか?
「はつじょき」がわかるって事か?




わんこそらにはわからない事だらけだった。


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す・・すみません。前後編で仕上げるはずが・・・;
次回完結させます。

 2006 7月 緋色