暗闇の中で 5





               

高い鉄格子の窓から小さな青空が覗いていた。
その空に白い鳥が自由に飛び回ってる。

あれって海鳥(カモメ)?

まだぼんやりした思考のまま
オレは藤守を起こさないようにゆっくり起き上がって部屋を見回した。

やっぱ都合よく昨夜のことが夢ってわけにはいかねえよな。


がらんとした部屋にはかろうじてトイレと洗面所と小さなベットが一つ
あるだけだった。
部屋と廊下を仕切る扉も下半分はコンクリ 上半分は鉄格子になってて頑丈な
鍵がかかってる。
どう考えてもオレと藤守はここに監禁されたってかんじだ。

「この状況やべえよな。なんとかしねえと。」

そう口にしたものの一体どうしてオレと藤守がこんな目にあわされてるんだか
見当もつかなかったし あいつらの目的もわからなかった。

それでも今傍に藤守がいることは確かで、それはよくも悪くもオレを勇気づけた。

「オレが弱気でどうするっ!!」

気合を入れるように両手で頬をパンパンと叩くと
背後でジャランという鎖の音がしてオレは振り返った。


「藤守起きたのか?」

声をかけたが藤守からの返答はなく
寝返りをうった藤守は寒そうに肩を震わせてた。

オレがベットの上にあった毛布をかけてやると藤守は丸まって「くぅちゃん」って
毛布を握り締めた。

藤守、って寝てる時は素直だよな。
こんな状況だってのにオレは胸が熱くなってそっと藤守の手を握りしめた。

「藤守、オレちゃんとここにいるからな。」

するとすっと優しい寝息をたてて藤守はまた深い眠りへと落ちていった。

藤守はまだ寝てた方がいいもな。
優しい夢なら今の現実よりもいい。



けど・・・だからといってこの状況・現実から目を背けるわけにもいかねえか。


そんな事を考えながらオレは藤守の右足に繋げれてた
鎖がなんとか外せねえもんかとそっと持ち上げてみた。

「なんだ。意外とかんたんじゃねえか。」

昨夜は暗くてわからなかったけど足首の所にかけられた輪っかは内側から引くと
簡単に外れる構造になってて俺はそれを外した。

外した途端ジャラジャラと音がして、もそもそっと藤守が起き上がった。

「羽柴・・・?」

「わりい。藤守起きたか。鎖今外してやったからな。この鎖はずさねえと
トイレにもいけねえだろ?」

オレがわざと明るく話しかけると、まだ寝ぼけ眼の藤守がゆっくり立ち上がった。

「んんん?」

瞬間ふあさ〜と毛布が落ちて・・・
オレはみてはいけないものを見てしまったっているのにそこに目が釘づけになっていた。
っつうか藤守・・お前・・今の状況わかってる?

オレが唖然として全裸の藤守を見てると唐突に藤守も目が覚めたらしい。

「な・・・な・・な・・バカみるな!!」

慌てて毛布で隠したけど俺はバッチし見たあとだって。
藤守は真っ赤な顔してオレを叩いてくるけど。


「いいだろ別に俺たち恋人どおしなんだし、それに朝●ちなんて男の生理現象だろ?
オレだってっさっきまでは・・・。」

オレが言い終わらぬうちに
藤守から強烈なパンチを顔面に食らっていた。

「痛えなあ〜。」

「バカ 羽柴!!」

に・・しても藤守これだけ元気があるって事はとりあえず大丈夫ってことだよな?

オレは悪かったって謝りながら藤守を観察するようにみると、藤守は部屋を見回して
戸惑ったように目線をさ迷わせてた。




「藤守・・大丈夫か?」

「えっ?」



やや間があって「うん」と藤守が頷いたあと奇妙な沈黙が流れた。
普段と同じように振舞おうとしてっけど藤守やっぱ無理してんだって思った。





「羽柴ごめんね。変な事に巻き込んじゃって。」

「藤守のせいじゃねえって。それよりもさ、藤守あいつらのこと
なんかわからねえか?」

「ごめん。連れて来られ時何か嗅がされてそれで、オレ気づいたらここにいて。」

「そっか藤守もオレと同じか。とにかくこの状況を把握するためにも
あいつらが接触して来るのを待つしかねえな。」




藤守とオレはあいつらの事やここから抜け出す方法をいろいろ話し合った。
けどどれも実際には可能にならない事ばかりだった。

事実俺たちは連れ去られるまで持っていた荷物やカバン・携帯にいたるまで全て
取り上げられてて完全に丸腰状態だった。

しかもこの部屋を見回してもここから抜け出せるのに役立つとは到底おもえねえ
代物ばかりだった。

そのうち兄ちゃんたちが心配して探しに来てくれねえかなんてことも話したけど
そんなのいつになるかわからねえし・・・・・。





それから・・。

一体どれぐらいの時間がたったのか俺たちにはわからなかった。


二人だけの部屋、時間・・・すごく長い時間が過ぎたような気もしたし
全然時間がたってないような・・そんな気もした。

監禁された部屋には誰も来ねえし、耳をすませても館内には物音一つなかった。

ただ時折、高い窓から波の音や強い風の音、鳥のの鳴き声だけが別の世界の
出来事のように伝わってくるだけだ。

ひょっとしてここには俺たちしかいねえんじゃないかと思わせるほどにここは
静かで何もなかった。

オレの腹が空腹でぐう〜と大きな音を立てると藤守が苦笑した。

「腹へったな。」

「ごめん。オレのカバンにはお菓子が入ってたのに。」

「藤守、いつもカバンの中にそんなもんいれてんのか?」

「わ わるかったな。」


藤守は間が悪そうに膨れっ面をしながら、服のポケットやら上着のポケットやらを
ごそごそと探してる。

そして何かを見つけ出すと嬉しそうに俺に差し出した。

「羽柴、ほら、お腹すいたんだろ?」

それは小さな飴だった。

差し出された飴をオレは素直に受け取ることは出来なかった。
だって藤守だって昨日から何も食べてねえんだぜ。

「それは藤守が食えって。」

「オレはお腹すいてないからいいよ。」

それが藤守の見えすいた嘘だってことぐらいオレにだってわかる。

「バカだな。藤守は。」

「バカって何だよ。」

藤守が怒り出してオレは苦笑した。

「ならもういいよ。」

藤守がまた飴をしまいこもうとしたのでオレは慌ててそれを取り上げた。

「ほら藤守。」



オレはキャンディを口に含むと藤守の唇に押し付けた。

甘いキャンディがオレの舌から藤守の舌へと転がると藤守は
バカバカってオレの胸をポカポカ叩きだした。



とうとう泣き出した藤守をオレはぎゅっと抱き寄せると宥めるようにキスをした。

キスは甘いキャンディの匂いが残っていた。






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出来るだけ痛くならないように書いてみたんですがどうでしょうか。
次回は夜とらんがようやく(?)登場。