If ・・・(もしも)6章 
   トライアングル2



風太が部室を出てまもなく、かわるように廉が化学室にやってきた。

学は物思いにふけるようにぼんやりと窓の外を見ていた。
普段だったら子犬がしっぽをふるように廉を迎えいれる学が
廉が来たことにさえ気づかないほどだった。


「ガク、」

廉に声を掛けられて学は慌てて笑顔をみせた。

「思ったより早かったな。って風太に会わなかったか?」

廉は視線を彷徨わせた。

「背中をちらっとみたけど・・。。」

廉の歯切れの悪さに学は首をかしげた。
がそれを誤魔化すように廉が机に並んだ実験道具に視線を
向けた。

「それで今日は何の実験?」

「えっと気圧による温度の変化を見る実験だぜ。」

「気象の授業の?」

「まあな、」

今日の学は言葉少なく実験を進めていった。
廉も助手を務めながら実験過程をメモった。

なんとなく今日の2人にはあからさまではなくもよそよそしいものがあった。
お互いが自覚なくそうなので違和感を感じているもののその理由がわからなくて
今日の実験が終わって廉を先に返した学は化学室で一人長い溜息をついた。


それでも廉と別れたあと学の胸にしめるのは虚無感だった。
廉と会う前にはない心の隙間がぎゅと胸をさす。
学はその隙間を埋めるように下半身に伸ばそうとした手をぎゅっと拳にかえた。

「オレってサイテーだ」

独り言をつぶやいて風太と約束した薬のことを考える。

「風太の為って言いながら結局はオレ自身のじゃねえか。
けどオレもうダメみてえなんだ。廉」

学は部室の奥、厳重に保管されている(学と芥しか入れない)
保管庫に入ると一つの棚から「love potion」と書かれた液体を取り出した。


その様子を監視カメラ越しに芥がみていたことを学は知らなかった。





廉は薄暗くなった校舎を足早に歩いた。
大抵は部活の後、廉は学と一緒に下校する。
今日のようにたまに学の実験(永瀬教授との共同開発)
が入ると一人で寮まで帰らないといけないことはあるが・・・。

けれど今日の場合廉はそれが『学のうそ』であることを知っていた。
校舎下まで降りた廉は化学室が見える場所で足を止めた。

「風太とあんな約束するなんて、」


風太と廉の会話を立ち聞きしてしまった廉は湧き上がってきた苛立ちを
吐き出すようにつぶやいた。
どうしてこんなに苛立ちを覚えてしまうのか、廉自身にもわからなかった。

でも嫌なのだ。
人の恋愛になんて口立ちしちゃ駄目だ。まして惚れ薬や媚薬を使うなんて本当の
恋愛なんていえない。

そう思った廉は顔をしかめると顔を横に振った。

「違う、」

本当に嫌なのはそんな事じゃないっと思う。

大方あの2人の会話を最初から聞いてしまった廉は学が言った
「風太の気持ちがわかる」と言った言葉にかなり動揺した。

恋愛には無頓着だと思っていた学に好きな人がいる。
それは廉の予想が正しければ永瀬先輩だろう。

廉は何度か学と芥が会話しているのを見たことがあった。
憧れの永瀬先輩は寡黙で人を寄せ付けない雰囲気があった。
そんな永瀬に憧れていたというのもあるが。
学の前で永瀬が見せる表情は今まで廉が窓の内側から見てきたものとは違っていた。

2人の中には廉は到底入れない、そう感じた。

永瀬と学にはすでに2人だけの世界があって、廉はそれを羨ましくも思ったし
妬ましくも思った。
そんな時自分の心の狭さを感じて廉は自己嫌悪に陥りそうになる。
今もそれに似た気分なのだ。

長いため息をついた廉はすっかり暗くなった校舎(化学室)を見上げてため息をついた。
その時、なんの前触れも廉の背後に人の気配が近づいた。



「えっ!?」

廉が振り返るより前に大きな影が廉の肩を捕まえた。

「だれっ?」

「随分遅くまで残っていたんだね。」

その声には微かに聞き覚えがあった。
振り返った廉はその相手を確かめるように長身の男を仰ぎ見た。

「中原先輩?」

確か風太の兄、義広と同じく化学部の幽霊部員の人。
1度、学といる時に忘れ物をしたとかで化学室に取りに来て、その時紹介してもらったことがある。
だがその程度で廉は彼とはほとんど面識がなかった。
掴まれたままの肩に廉は面食らった。しかも中原は長身な上、相当に
美形なのだ。
学の話ではモデルをやってるっていう話だった。


「あの・・・。」

中原が廉の耳元でくすりと笑ったような気がした。
廉が反応する前に地を這うような中原の声がした。

「僕からの忠告、これ以上、市川くんに近づいちゃまずいよ。」

「・・・どういう意味ですか?」

廉の声は震えていた。

「そのままの意味、彼は特別なんだ。君なんかが近づいていい相手じゃない。
君だって彼の傍にいたらわかるだろ?彼が特別だってこと」

中原の手が廉の肩に食い込むように強くなる。
でも学は『いつでも化学室に来ていい。』って廉に言ったんだ・・・そう反論しようとしたが廉は中原の
圧迫感に押され声がでなかった。

「わかってくれたみたいだね。僕はちゃんと忠告したよ。それじゃあまた、」

廉の肩が解放される。

数秒たってようやく反応した廉が振り返った時には中原の姿はすでになかった。
まるで今のは幻でもみたのではないかと思うほどにすっかり闇に沈んだ校舎があるだけだった。

けれど、掴まれた肩は今もしびれるような痛みを残していた。



                                                                                                    

                                              
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なんだか「すきしょ!」というより「も待て」の二次小説になってきてます。
でも「も待て」はゲームやってないんだな(笑)
現在入手は難しいですよね。つうか手に入ってもこのPCじゃ再生できないかもだなあ。
気がする(苦笑)