If ・・・(もしも)5章 
   真実の扉 3



兄ちゃんはそういうとオレを優しく抱いた。まるで愛しいものにでも触れるように。
それはとても優しかった。

オレが少し落ち着くと兄ちゃんは腕をもそもそとずらしていきズボンの上からオレのものに触れた。
それはいやらしい感じとはちょっと違っていた。

「空も大きくなったよな。昔はこんなだったのによ、」

兄ちゃんが指で示したサイズにオレは思わずぷっと噴出した。

「一体いつの話してんだよ?」

「小3の頃だっけか?一緒に銭湯行った時に洗ってやったろ?」

そんなことを言われてもオレには覚えがねえんだけど。ひょっとしたら夜が管理してる記憶の中
にあるのか?

「今はこれぐれえあるだろ?アン時にはこのぐれえになるんじゃねえか?」

両手でサイズを示されてオレは顔を真っ赤にした。

「バっ兄ちゃん!!」

こんなに密接した状態で言われると意識しそうになるじゃねえか。
それに兄ちゃんがこんな話を始めたのは湿っぽくなった場を振り払うためだって事ぐれえ
オレにもわかった。
でもオレはもうそういう事で誤魔化されたりはしねえんだぜ?


「兄ちゃん、相沢の事マジなのか?」

「ああ。情けねえことに情が移っちまった。」

兄ちゃんはそれからぽつりぽつりとここで過ごした1年の事をオレに話してくれた。
1年って言ってもその大半はベッドの上での生活だったらしい。
それだけキズが深かったって事だ。

それから、兄ちゃんが研究所で目を覚ました時の事、その時記憶がなかったこと、
そして相沢にその時刷りこまれた感情や作られた「真実」の話をしてくれた。
それが「真実ではない」と気づいたのは、記憶を取り戻した2ヶ月程前の事でその時には
相沢に情がうつっちまっていてどうしようもなかったって事も。

それも「相沢の計算の内だったのかもしれねえな」って兄ちゃんは笑ったけどオレは
やっぱり納得できねえでいた。

「んな嘘をつかれて、兄ちゃんは怒ってねえのか?今までだって散々相沢に
ひでえ目に合わされてきたじゃねえか?」

「まあな、けどオレは本当にあの時一度死んだんだ。
だから許せる気になったのかもしれねえな。それに、もし今オレが相沢を裏切ったらあいつは
マジで人間として真っ当に生きることは出来ねえ気がする。相沢には俺がいねえと駄目なんだ。」

兄ちゃんはそう言ったあとニタニタと笑った。

「相沢の奴すげえ嫉妬深い上に独占欲が強えから大変でさ。これでも体には自信があったんだけどよ。
こう毎日毎日ヤられたんじゃオレの体もたねえって。
今日はたまたま学会行ってていねえけど、明日帰ってきたら朝からヤラれちまうだろうな。」

オレはこの時になって「兄ちゃんの方が相沢に抱かれてる」っていうことに衝撃を受けた。
それはかなり衝撃的だったけど、さらに兄ちゃんの話には続きがあったんだ。

「しかも相沢の奴最近オレを水都に変装させてヤんだよな。」

「はああ~?!」

わざわざあの陰険かつ陰湿教師の
水都の人格に変えて兄ちゃんを抱くってか?
相沢ならやりかねねえ事だなって思うけど。
それはオレの想像の域を遥かに超えていた。


「まあ、そんなわけだからオレの事は心配すんな。」

それまで冗談ぽく言ってた兄ちゃんの口調が真剣になる。

「空、七海の事頼むな。」

その一言でオレは気づいちまったんだ。

「ひょっとして兄ちゃん、オレと七海ちゃんの事・・?」

兄ちゃんはしまったって顔をしていた。

「たまたま空と七海が商店街で買い物してんの見かけてよ。
お前らなかなかやるじゃねえか。あんな人前で堂々といちゃつきやがって・・。」

「オレと相沢じゃ、ああわいかねえっ」って兄ちゃんは感心してるみてえに言ったけどオレは
その時兄ちゃんがどんな気持ちだったんだろうって考えるとどうしようもなく胸が痛んだ。

「兄ちゃん・・・。」

オレがそうじゃねえんだって言おうとした時、背後で、カチャっと戸に鍵を差し込むような音がした。
オレと兄ちゃんは顔を見合わせた。誰かが入ってこようとしてるのか?

兄ちゃんはオレをかばうように部屋に残すと戸の前に立ちオレは物陰から様子を伺った。

「誰かそこにいるのか?」

しばらくしても返事がなく兄ちゃんは取っ手に手をかけた。
予想に反し開いた扉の前で兄ちゃんは立ち去る人影に表情を曇らせた。

白衣を纏ったその背に長い髪がなびいていた。
すべてを拒むようなその後姿しかオレには見えなかったけど、それは間違いなく藤守だった。

「藤守・・・」

ずきりと刺したような痛みと想いが広がっていく。
1年前と同じようにオレはその背を追いかけることが出来ず呆然と立ち尽くす。

そんなオレを現実へと戻したのは兄ちゃんの一言だった。


「空、お前はもう戻れ、2度とこんな所くるんじゃねえぜ。
直の事は今すぐってわけにはいかねえけどなんとかしてやる。
本当なら七海も直も幸せにしてやれっていいてえ所なんだけど、
全キャラ攻略、鬼畜の主人公なんて空には似合わねえもんな。」

笑えないような冗談を言った兄ちゃんにオレはオレの精一杯で懇願した。

「兄ちゃんお願いだからオレと一緒に帰ろう。」

「オレはもう戻らねえっていったろ。ほら、んな顔すんなって。
もう2度と会えねえわけじゃねえんだから。」

いつまでも立ち止まって進まないオレを兄ちゃんはオレが入って来た入り口まで強引に
連れて行った。

「空、外側からここを閉めたら向こうからはもう入れねえからな。あとは上に上がるだけだ。」

オレは何も言わずに兄ちゃんをじっと見つめた。
もう2度と、本当に2度と兄ちゃんとは会えないようなそんな気がしたんだ。

こんな傍にいるのに、この扉の向こうに行ったらオレと兄ちゃんは別の世界の人間になってしまう。

兄ちゃんはこわばったオレの顔を覗き込むと深く優しい瞳を閉じた。
オレと兄ちゃんの唇が重なる。
むさぼるようにそれは深くなっていきオレもそれにこたえた。
兄ちゃんと離れたくない。恋にも似たその想いが強くなってオレは兄ちゃんの胸に縋った。

その瞬間オレは兄ちゃんに扉の向こう側に突き飛された。

「兄ちゃん!!」

「空、さようならだ。」

そういった兄ちゃんは微笑んでいた。

扉に駆け寄ろうとしてそれが閉じられる。
暗闇がオレを支配してオレはドンドンと何度もその扉を力いっぱいに叩いた。


「誰でもいい。相沢だって藤守だって構わない。ここを開けてくれよ。」

何度も叩くうちにぬるりとしたものが腕を伝っていた。
それでもオレはやめることが出来なかった。



叩く音がこだまし、やがて
梯子(プールのボイラー室に繋がる)の上から声がした。

「空くん、そこにいるのですか?」

七海ちゃんの声にオレは振りあげていた拳を止めた。

「空くんお願いです。いるのなら返事をしてください!!」

その声は泣いてるように震えていた。

「空兄ちゃん!!」

青の声も聞こえてオレは震える拳をようやく下ろした。
小さな懐中電灯の光が梯子を照らしてる。


「七海ちゃん、青、オレ大丈夫だから、」


オレは震える手で梯子に手をかけた。
そうしてよじ登ったオレの手を支えてくれたのは七海ちゃんと青の温かい腕だった。


                                                                                                                5章完
                                              
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今までの章のお話がここで繋がりましたが、とっても長かった気がします(苦笑)
6章のトライアングルは学と廉、芥のお話になります。三角関係に決着つくでしょうか?