If ・・・(もしも)5章 
   直とらん

※突然直くんとらんくんのお話になります〜。



だだっ広い地下室の研究所の一室が直の部屋だった。

日の光も、夜空の暗闇も微かに高い天窓からしか入ってこないような場所だった。


「ようやく1年、オレはまた独りぼっちだ、」

いつもの口癖を口にして直は苦笑した。
こういうといつも決まってらんに「一人じゃないでしょ?」っと言われるからだ。

実際らんが傍にいてくれなかったらとっくに直は気が狂っていただろうって思う。
だが、そう言ってくれるらんも今日はすでに眠りについていた。

日中直を守ることで気が張ってるだけでなく、らんは直の作った薬品の
検体にも自ら進んで受けてくれていた。
夜にもなると疲れて直より先に寝てしまうのだって仕方のない事だった。

直はこんな自分の傍にいてくれるらんに心底感謝してる。


何もかも失ってもまだオレがここにいるのは「たった一つの目的の為」でしかない。

それは相沢をやっつけること・・。
そんなことで「お兄ちゃん」が戻ってくるわけでも、許されるわけ
でもないことはわかっていても、それだけは絶対にしなくちゃならなかった。

直は今は夢さえみていないらんにつぶやくように言った。

「らん、もう少しだからね。」




直がかなり疲労を感じてソファに沈むこむと、誰もこなくなったはずの
部屋をノックする者がいた。
直は窺わしく部屋の中のモニターを覗いた。

そこにはニヤリと笑みを浮かべた研究員の一人が映っていて直は顔をしかめた。

「こんな時間に何のよう?」

「ナンバー14、どうせ暇してんだろ?一人でヤっるんだったらオレの
相手しろよ。気持ちよくしてやるぜ、」

露骨な誘い文句に直は背筋がぞっとして体を小刻みに震わせた。

「バッカじゃない、誰があんたなんか相手にするか!!
大体教授から言われてるだろ?!オレに手を出すなって、」

それは真一郎を連れかえって来た時の直と相沢との約束事(取引き)
だった。ナンバー014には誰であろうと手出しさせない。
フリーに研究所内を行き来することも実験することも条件にした。

だが、研究所の中でさえ直に自由なんてない。

「ちっ、お高くとまりやがって、」

研究員は捨て台詞を吐くとその場を去っていった。
直は今度こそ崩れるようにソファに倒れこんだ。

震える体を自分の両手で抱きしめると涙が溢れてきた。

「くぅちゃん、」

とめどなくあふれ出す想い、一度その名を口にするとそれを止めることは出来なかった。

「くぅちゃん、くぅちゃん、くぅちゃん・・。」

泣きじゃくりながら眠りについた直の表情は次第に穏やかになっていった。
夢の中で直はいつも「空」に会う。



らんは穏やかな寝息をたてる直の体にそっと布団をかけた。




それが本当のらんの本当の生きる意味なのだと思う。

そして自身も直と重なり合うように思考を重ねて言った。
愛しいその人に会う為に・・・。



                                                                                                            真実の扉 1

直くんほとんど登場しないのに短かかったですね(苦笑)
当初プロットを切った時にはなかったお話だったんですが、直くんの気持ちがあまりにも見えないので
書き足すことにしました。
しかし・・なんとも痛い話になってしまいました。