If ・・・(もしも)5章 
  地下室に続く道 1




オレと青が初めて学園に一緒に登校した日、オレは青と約束した。

授業中じゃなきゃオレの所でも七海ちゃんの所にもいつ来ても
構わねえって。
本当は中等部の生徒が高等部、大学部に行くことはあんまいいことではねえんだ。

けど青に「来るな」って言えねえだろ?
だから「いつでも来ていいんだ。」って安心させてやろうって。
それにオレも七海ちゃんも心配でしょうがなかったんだ。

「はしばと青は違う教室だから?」

「ああ、違う教室だけど休み時間はいつでも来ていいからな、」

「うん。」

オレと青が違う場所で勉強しなくちゃいけないことは説明していた。
それに昨日七海ちゃんと一緒に校舎の案内もしたんだ。
七海ちゃんは昨日そのまま寮監の仕事の事があって学園に残ったんだ
けどな。

「青わかった。後で、はしばにちゃんと報告しに行く。」

「ああって青、はしばじゃなくて[そらにいちゃん]だろ?」

「そうだった~。」

オレが指摘すると青は「あは」と頭を掻いた。
オレはそれに小さくため息をついた。
『兄弟』なのに「はしば」って呼ぶのはあまりに違和感ありすぎだもんな。

「じゃあ、また後でな青、」

「うん、そらにいちゃん、!!」

青は元気いっぱいに自分の校舎に向かって走っていった。

オレは中等部の校舎に入っていく青の姿が見えなくなってもしばらくそこにいた。
本当は追っていってこっそり様子を覗きてえぐらいだったけど、
そんなことしたら余計に離れられなくなりそうだし。

「ああ、青ががんばってるのにオレがこんなじゃ駄目だろ!!」

オレは自分に叱咤すると後ろ髪引かれる想いを断ち切って自分の教室に向かった。






その日のお昼休みにオレの教室に飛び込んできたのは青ではなく市川だった。

「そ~ら~先輩~!!」

教室に飛び込んできた市川はそのまま犬ころのようにオレの胸に飛び付いてきたんでオレは
思わずあたりを見回しちまった。同じ学部じゃねえけど大学部には永瀬もいるしな、って・・・。

「げっ・・市川何だよ?」

すりすり寄ってくる市川にオレは戦々恐々で聞いた。
こういう時の市川ってなんか裏(頼みごと)があるって言うか。
大体わざわざ大学部まで来るってことは、またオレを検体にしようとかって
魂胆じゃ・・・。

「何だよ、せっかく先輩にいいこと教えてやろうと思ってきたのに顔引きつってるぜ?」

「えっ?そうか?」

オレの内心の焦りを知ってか知らずか市川はへへって笑うと得意げに言った。

「羽柴青って空先輩の弟だろ?」

「ああ、そうだけど、ってなんで市川が青の事知ってるんだ?」

まさか今朝転入したばかりだって言うのに高等部までうわさになってるのかってオレは
かなり焦った。

                                             
「オレさ、今月から中坊に理科教えに言ってるんだ。それで今日2-Bに転入生が
いるって言うからさ、紹介してもらったら空先輩そっくりですげえびっくりしたんだ。」

オレは自分が見ることが出来ない青の学園での様子を市川に聞きたくて身を乗り出した。

「それで青はどうだった?」

「そうだなぁ、椎名と風太が面倒みてたけど。オレの授業は真剣にきいてたぜ。
なんかすげえ化学とか生物とか興味あるみてえだったけど?
椎名が今度化学部に誘うっていってたし・・。」

オレはそれを聞いて思わず立ち上がっていた。

「何だと~!!」

それだけは駄目だって、絶対に!!
化学部の顧問はあの相沢なんだぜ。ほとんど学園に(特に高等部には)顔出すこと
なんてねえみたいだけど青にそんな所にいかせるわけにはいかねえって。

「どうかしたのか空先輩?」

「あのな、市川、青はずっと病院で育ってきて初めての学園生活なんだ。
放課後には病院も通わなきゃならねえし、部活は無理なんだ。だからごめんな、」

「そうなのか?だったらしょうがねえか・・。」

あからさまに落胆した市川にオレは咄嗟に出た言い訳が通用してほっとした。

「その代わり化学部にはオレが覗きにいってやるから・・。」

「本当か?」

「ああ。」

青が行くぐれえならオレが行って検体になる方がよっぽどマシな気分だった。

「やった~。絶対だぜ、空先輩約束だからな。」

市川は現金にも破顔させるとオレに飛びついた。

「わかったから飛びつくなって。」

その時昼休みもまもなく終わりを告げる予鈴が鳴り響いた。
市川は慌ててオレから離れた。
予鈴でも大学部から高等部に行くには5分はかかんもんな。

「じゃあ、オレ高等戻るな、」

「ああ、また青の様子教えてくれよ!!」

「任せとけって~、それより空先輩約束忘れんなよ~。」

「ああ。」

オレはそれに苦笑して答えると市川は嬉しそうに教室を飛び出していった。
オレは安堵して息をついた。

「そっか青、ちゃんとやってるのか、」

そう思うと嬉しさとともにホンノ少しの寂しさも感じた。
「ホントオレって親バカならぬ兄バカだよな、」

けど青ががんばってるんだからオレもがんばらなきゃな。



                                           地下室に続く道2