If ・・・(もしも)5章 
  桜の木の下で 


※Ifは章ごとに視点・主人公が変わります。5章は空と七海ちゃんのお話に戻ります。



綾野ちゃんの病院の庭には色とりどりの花が咲いていた。
オレ(羽柴空)と七海ちゃんと青は
桜の木の下にあるベンチに腰掛けてお弁当を食べていた。

「ナナちゃん・・おいしい。」

「そうですか?青くんが気に入ってくれてよかったです。
いっぱい食べてくださいね。」

「うん!!」

七海ちゃんが優しく微笑むと青は破顔した。
であった頃は感情もうまく表現できない青だったが今は笑うことも
感情を言葉で表わすこともできるようになった。

オレは横目でくるくると変わる青の表情をじっとみつめていた。
そうしていても飽きないし無条件にかわいいって思ってしまう。

「ほら、青、んなに慌てて食うと咽るぞっ、てご飯粒顔についてるぜ?」

青の頬についたご飯粒をつまんでオレはそれを口に放り込むと
自然に笑いがこぼれた。なんかこれじゃあ、兄っていうより
「お父さん」って感じだよな?だったら七海ちゃんは「お母さん」って所か?
オレがそんなことを考えていたとき、青の一言がオレと七海ちゃんを凍らせた。

「はしば・・・ふじもは・・?」

「えっ?ああ?」

顔を引きつらせたオレを不思議そうに青が見ていた。
実は病院に来るたびに青から「藤守」の事を聞かれていた。
そしてその時にオレが決まっていうのが、

「藤守は、遠くに行っててしばらく帰ってこねえ」って事だ。

青と藤守が一緒に暮らしたのは1週間にもならない。
だからそのうち忘れちまうだろうと思ってたんだけど、青の記憶から藤守は無くなら
ねえんじゃないかって最近そんな風に思う事がある。

忘れたいのに忘れられねえ記憶、過去、そして人。
忘れたくねえのに風化していく兄ちゃんとの記憶、そしてオレの過ち。

これはただ夜がオレの記憶を管理してるからってだけではないような気がする。
オレが返事に窮していると青は少し寂しそうな顔をしていた。

「青大丈夫か?」

オレがそう聞くと青は大きく頷いた。

「青大丈夫、ふじもの事ちゃんと待ってる。だから今度はしんいちろも一緒に
べんと食べよ。」

オレははっとした。青から兄ちゃんの名前が出たのは初めてだったからだ。
よく考えてみるとあの頃、青はまだ話せなかっただけでちゃんと自分の中で
物事を理解してたんだって思う。

きっとあの時約束したことも覚えてる。
「いつか藤守と一緒に青を迎えにいく」と言ったこと。


七海ちゃんはそっと青を抱きよせ頭を撫でた。
いても立ってもいられねえ気持ちになってオレも七海ちゃんと青をぎゅっと抱きしめた。

「ナナちゃん、はし・・どう・・・。」

何かを言いかけて青はやめた。
その代わりに小さなその手がオレと七海ちゃんをしっかりと掴んでいた。





その後オレと七海ちゃんは青を病室まで送った。
このころになると青は急にしょんぼりし始める。

オレと七海ちゃんがもう帰っちまうってわかってるんだ。
言葉少なになった青の手をオレは握ってやった。七海ちゃんも青の手を取る。

青はそれだけで嬉しそうに微笑んだ。

オレはそんな青に覚えていないはずの幼いころの記憶を
見ているような気がした。
きっとオレもこんな風に親に手を引かれて歩いたことがあるんだろな?
ふとそんなことを思うとこれ以上青を独りにさせたくねえ気持ちが
ぐっと湧き上がってきた。

「なあ青は学校って知ってるか?」

「ガッコー?青しってるよ。だってガッコーからセンセーが来て
勉強みてくれるもん。」

「そっか、青は勉強好きか?」

「うん、大好き!!」

青は大きく頷いた。綾野ちゃんから聞いてることだけど青は飲み込みが
とにかく早いらしい。それに学習意欲もかなりなものらしくて、
学習面ではもう十分青の年齢の学年で勉強できるようにはなってるって。

けどまだまだ感情のコントロールが聞かないこともあって精神面が
不安定になることもあるんだ。
綾野ちゃんは青に今一番必要なのはいろいろなことを経験をする事だって言ってた。
だからオレはもう学校に行き始めてもいいんじゃねえかって思うんだ。

「けどな、本当の学校は、先生が来るんじゃなくて
子供が学校に行くんだって、青オレの言ってる意味わかるか?」

「ん〜なんとなく・・・。」

「青くんは学校に行ってみたいと思いませんか?」

七海ちゃんに聞かれて青は首をかしげた。

「ガッコーに?」

「そう、オレや七海ちゃんがいるガッコー。」

その途端、青はたちまち破顔した。

「行きたい〜!!青行きたい。はしばとななちゃんのガッコーに!!」

「じゃあ決まりだな。」

その時丁度オレたち3人は青の部屋の前についた。

「青くん、もう少しだけここで、待っていられますね?」

七海ちゃんの問いかけに青はしょんぼりした。すぐに学校に連れて行っても
らえると思ったんだろう。
オレだって本当ならすぐにだって学園に連れて行ってやりてえと思う。
でも流石にそれは無理だもんな。

七海ちゃんはしゃがみこむと青の髪を優しくなでた。

「準備が出来たら必ず青くんを迎えにきます。」

「オレも早く青と学校に通えるようにがんばるからな、」

「うん、青、いい子にして待ってる。」

青は唇をかみ締めていた。


オレは【約束】の意味をこめて青を強く抱きしめた。
藤守と3人でした約束はもう果たす事が出来ねえけどオレは必ず迎えに来るから、もう少しだけ
待っててくれよ。




                                                 
                                       5章 海の見える丘



空と七海ちゃん、時々立ち止まっても少しずつ歩んでいるようです。
5章、ブログとタイトルを少し変えています。お話の内容は変わっていないです。