If ・・・(もしも)
  3章 目覚めの時3






気持ちは応えるつもりでいても体は相沢を受け入れるという事にまだ抵抗があった。
この状況から察するに受け入れるのはどうやら「真一郎」ということだろうし。
その事情を飲み込むと真一郎は慌てた。

「タンマ・・。」

真一郎がそういって身を引くと相沢の表情がかげり、真一郎は急いで取り繕った。

「今更やめようって言うわけじゃねえぜ?風呂に入りてえだけな。」

真一郎がそういうと相沢はふっと長いため息をついた。

『仕方がないか・・。」

相沢は真一郎の体をようやく解放した。


ここ(相沢の研究室)の風呂は24時間入浴可能という風呂だ。それに浴室はかなり広い。
真一郎は覚悟を決めるため熱いシャワーを頭から浴びた。

そうすると真一郎は意識を戻した頃のことを思い出した。
その頃の相沢は真一郎につきっきりで、それこそ風呂だってトイレだって
付き添おうとした。

トイレは真一郎が「オレに付き添うなら連れション!」っとからかうと
諦めたが、風呂はなかなか引きさがらなかった。

真一郎自身まだおぼつかない動作だったから結局相沢にしぶしぶ従うしかな
かった。
けど風呂に一緒に入った相沢の態度はひどくぎこちなく目は泳いでいるという
具合だった。
全く普段の相沢らしくねえっていうか。
もちろんその理由は今の真一郎にはわかってる。

「愛されてるってことだよな・・。」


そう口にすると妙に照れくささと相沢への想いを感じた。

相沢に抱かれてもいい・・そう決心して蛇口を止めると
真一郎は風呂場の鏡に映し出された自身の姿をみた。


以前のようなたくましい筋肉は今の真一郎にはない。
記憶を失くしていてもそういったことはちゃんと覚えてる。

左胸のキズは綺麗に縫合されていたが今もよく疼く。
相沢は事故だといったがこれはそんなもんじゃないと真一郎は確信していた。
このキズは尖刀で刺されたものだ。
それも相手はプロだったんじゃねえかって思う

でなければ心臓をこんなにも躊躇なく刺せるもんじゃない。
相沢が「事故」の事を何も語らないのはおそらく事情があるんだろう・・・。
というのが真一郎の推測だった。

よくこれで助かったものだと思いながら真一郎はキズ口にそっと触れた。

「そ・・・ら」

無意識に口についた言葉に真一郎は戦慄く。
まるで心臓を鷲づかみされたように胸がドクンとなった。

「そら・・・?」

もう1度何かを確かめるように真一郎はその言葉をかみ締めた。

『真一郎。』

優しい声が真一郎の中に響く。何かが頭の中をかすめた。

「お前は誰だ?」

何かが思い出せそうな気がした瞬間、胸を刺された時の感覚がよみがえり
激痛が走った。
真一郎は立っていることが出来なくなって唸り声を上げながら
壁にもたれこんだ。

その時風呂場の戸が開いた。

「真一郎?!どうしたのだ!!」

異変に気づいて浴室に入ってきた相沢は何も身につけておらず
真一郎は眩暈を覚える。

「真一郎、真一郎・・・。」

何度も真一郎の名を呼ぶ相沢に真一郎は手を伸ばす。そうすると
相沢はその腕ごと真一郎を抱え込んだ。
相沢に抱きしめられた瞬間、真一郎の胸の痛みはウソのように消えていった。
だが代わりに訪れたこの虚無感はなんだ?


「相沢・・・オレを抱いてくれ、」

このぽっかりなくした心の空間を埋めてほしいと真一郎は相沢にすがった。

「真一郎?」

相沢は真一郎を抱きかかえるとベッドに下ろした。

このまま抱かれるのだろうと思っていたら相沢は真一郎の
脈を図りだした。
それは日課になってる真一郎のヘルスチェっクだった。

「相沢?」

「真一郎、今日はやめておこう。」

「えっ?」

まさかそんなことを言われるとはおもっていなくて真一郎は
逃げようとする相沢の腕を掴んだ。

「今更だろ!!」

「不整脈、血圧の急上昇、それに熱もある。そんな状態で
私を受け入れるつもりか?」

相沢は医師の顔に戻って真一郎を嗜めた。

それでも真一郎はむしょうに相沢に抱かれたかった。
この体から湧き上がってくるわけのわからない苦しさをどうか
して欲しかった。

「相沢・・。」

胸が小刻みに震える。
こんな時に気づいちまうなんて。

真一郎は掴んだ相沢の腕を引き寄せ自分から唇を重ね。
そのままベッドに相沢を引きずりこんだ。

「真一郎!!」

唇が離れると真一郎はニッと笑った。

「んな状態なのにまだ我慢する気か?」

全裸の体はダイレクトにお互いの切羽詰った状況を
伝えてる。
こうやって触れ合うだけで息が詰まりそうなほど
甘くて苦しくてそれはたぶんそういうことなんだ。と真一郎は思う。

「相沢、オレが不整脈なのも血圧が高えのも熱があるのも
お前のせいだっ。お前がこんなにオレの近くにいんだぜ、
お前を感じてこんなになってんだ。
責任とれよ。お前はオレの主治医だろ。」

それでもまだ動こうとしない相沢にじれて真一郎はもう1度
相沢に言った。

「これでもまだしねえって言うならオレがお前を抱いてやってもいいんだぜ。」



                                            4章 相沢と真一郎1


いや、あの今引いた人ごめんなさい;へたれな教授を書いてみたかったもんで・・。(笑)
次回からタイトルが変わりますが4章はもうしばらく続きます。