続・フラスコの中の真実 11




※ややこしいのですが11話は学視点に戻ってます。すみません。



教授をここに連れてきたオレ(市川学)の思惑は見事に成功したって
感じだった。
何より教授を見た時の七海先生の顔といったら豆でっぽう
食らったような顔してたし、空先輩も藤守先輩も固まってたし。
なんかすげえいたずらが成功した子供のようにオレは
得意げな気持ちだった。



オレたちはその後、リビングに通されソファーを七海ちゃんに勧められたんだけど
その時教授がため息を漏らすように言ったんだ。

「芥、椎名くんのお父さんだがうわさ以上に美しい。」

「えっ!?」

七海ちゃんは困ったように苦笑してた。

「親父、ひょっとして一目ぼれしたとか?」

「そうかもしれんな。」

教授の頬はほんのり染まってるように見えた。
ひょっとして自分で言ったことに照れてる?
そしてその瞬間水都が教授に敵愾心むき出しでにらみつけてきて
オレは慌ててフォローしてた。

「えっと親父、残念だけど七海ちゃんには恋人がいるんだぜ。だから・・。」

そういうと教授はクスリと笑った。

「真一郎だろ?確かに残念だが。私にもすでに芥というかわいい恋人
がいるのでな。」

本気とも冗談とも言えないことを言われて流石のオレもあせった。

「親父恋人って・・。」

オレが困っていたら空先輩が助け舟を出してくれた。

「それはまずいんじゃねえ。市川には恋人の椎名がいるしそれに・・。」

言いにくそうに言葉を濁した空先輩に教授は付け加えた。

「それに芥という恋人もいる、だろう?」

得意げにそう言った教授に空先輩だけでなく、藤守先輩や
七海ちゃんまで驚いて顔を見合わせてた。
そんな周りの驚きも気にせず教授は言葉を続けた。

「そのうち、椎名くんと芥、そして私と一緒に暮らすことになるかも
しれんな。その時は椎名くんのお父さんと真一郎に改めて
挨拶にこなくてはな。」

「親父それってつまりは・・・。」

・・・廉と教授と同棲するってことだよな??
オレは顔中が真っ赤になってくのがわかった。
同時に隣にいた廉も真っ赤に顔を染めてて、なんとなく気まずいような
恥かしいようなそんなかんじで二人は目を合わせないようにぎこちなく
そらした。
そしたらそれまで話を聞いてた青が「いいな〜っ」て零したんだ。

「ちびは何が羨ましいの?」

藤守先輩に聞かれて青は待ってたとばかりに発言してた。

「だって市川は市川のお父さんと椎名と一緒に暮らすんでしょ?
青も藤守や羽柴と一緒に暮らしたい。青の家族でしょ?」

今度は空先輩と藤守先輩が顔を真っ赤にさせる番だった。
そうだよな。青って空先輩をお父さん、藤守先輩を
お母さんみたく思ってるみたいだしな。それって家族ってことだよな・・?

「青くん、大丈夫ですよ。学園を卒業すれば3人一緒にくらせますよ。ねっ?」

七海ちゃんに同意を求められて空先輩と藤守先輩は顔を真っ赤にさせながらも頷いてた。
そしたら青も納得したみてえににっこり笑ったんだ。


けどそんな微笑ましいやりとりを水都は咳払いして折ったんだ。

「それより市川、そう簡単にオレたちの息子はお前に渡したりはしねえ
けどな、七海?」

水都が意地悪くそういったが顔は笑ってた。同意を求められた
七海ちゃんも「そうですね〜」と言いながらも楽しそうだ。

「いいぜ、水都先生、許してもらえねえ時はオレ廉と駆け落ちするし。」

「おっ?市川の分際でオレたちを脅そうってか?」

「もちろん、俺たちの事認めてくれなかったら結婚式には親父しか呼ばねえし。」



拗ねたようにいってやるとその場に居たみんながぷっと吹き出すよう一斉に笑って
オレもつられれるように笑った。

なんかこういうのってすごくいいよなってオレは思ったんだ。
みんな腹の底からみんな笑ってるつうか・・幸せだなって心底思えてさ。




けど・・・。

オレの中にあるもう一人のオレはこの状況を客観的にみていて
そこだけが妙に冷たいかんじなんだ。
まるでオレの中からレンズを通してこの状況を見てるって感じ?

そしてそのオレはこれは本当の幸せじゃねえっていいたげに、悲しい瞳をしてる。
教授はオレを芥と思い込んでるからか?


オレはこの時知るはずもない芥の子供の頃の姿をぼんやりみていた。


芥はたった一人で暗闇に立ちすくんでた。

そんな芥にオレじゃない誰かが手を差し出したんだ。
なんでオレじゃねえかってわかったっていうとすげえ小さな手だったんだ。
赤ちゃんじゃねえかってぐらい。
芥はその手を握り締めるとその相手を愛おしむように抱きあげたんだ。



オレは胸が張り裂けそうになりながらももう一人のオレがみせる映像を見てた。

それは今起きてることの方が夢で現実はこっちなんじゃないかってぐらい鮮明
で焼きつきそうな映像だった。



オレは朧気になったみんなの笑顔をぼんやりみつめながら
表面上は笑顔を取り繕うことを忘れなかった。


                                             12話へ


ちと短めだったでしょうか?
ストーリーも佳境に入ってきました。
ここまできたのでいっきに書き上げたいですね。