この空のむこうに



(最終話)





     
夜になっても直哉の熱は引く様子はなかった。
 
 
機内は真っ暗で目をつぶっても開けていても
飛び込んでくるのはただ闇けだった。
 
 
夢の中のように朦朧とした意識の中で
小さな物音が直哉の耳につく。
 
カチャ カチャと何か金属音のようなものが
不規則的に続いてる。
 
こんな夜中にしかも真っ暗闇で彰人は何を
してるんだろうか?
 
 
 
その音は夜が明けるまで続いた。
 
 
 




 
 
日の光が差し込んでいた。
 
荒い呼吸を繰り返す直哉を覗き込んで彰人が
額に手を落とした。
 
彰人の笑顔は疲れているように直哉には
見えた。

 
「直哉 助けがくる。」
 
「ホント・・?」
 
「ああ。昨日の夜、壊れてた携帯直したんだ。
メールの返信もきたから。もう大丈夫だ。」
 
「でも彰人・・・?」
 
壊れた携帯を直したってあの暗闇の中。
いったいどうやって?
 
もっと早くそうしてればよかったとつぶやいた彰人の表情は
衰弱してるようにみえた。
 
「彰人・・なんか疲れてない?むりしてねえ?」
 
直哉がそう聞くと彰人はそうじゃないんだと首を
振った。
 
「直哉 ごめん。オレはお前との約束を守れないんだ。」
 
約束・?何の・・?
 
直哉は彰人の言っている意味がわからず顔を見つめた。


 
彰人はポケットから壊れたハーツの時計を取り出した。
 
「約束守れないって何・・?どういうこと?」
 
直哉は熱のあるのも忘れて擦れた声を上げた。
 
「オレはもうここにはいない人間なんだ。」
 
直哉の思考が止まる。
と同時に彰人が時計を握っていた手を差し出した。
 
彰人に触れたはずの指はあたたかくはなかった。
むしろ冷たくて・・・いや感覚さえなくそれはするりと
抜け落ちたのだ。
 
直哉の体がガクガクと震えだす。
 
 
「嫌だ。彰人 オレお前が何言ってんのかわかんねえよ。」
 
わかりたくなんかない。
俺が今考えそうになったこと否定しろよ。
 
いつもみたいにバカだなって笑えよ。
冗談だといってくれよ。でないと俺は・・・。
 
だが彰人の存在は目の前でかげろいで・・・。
 
 
「やだよ。うそだと言えよ。ずっとオレと一緒にいたじゃん。
一緒に帰ろうって言っただろ!!」
 
あの日キスした感触は・・・・・
抱き合った体はあたたかかったじゃないか!!
 
 
 
 
「直哉オレ・・・ずっとお前の事好きだったんだぜ。いうつもりなんて
なかった

ずっと心の中しまっとくつもりだったのに・・・
できなかった。
ごめん。オレ未練たらしいな。こんなカッコ悪いトコお前に
見せるなんて
な。」
 
涙がぽろぽろと落ちてくる。
 
「カッコ悪くたっていい。どんな姿になったっていいから。行くなよ。
彰人オレを置いてくな。」
 
だが直哉がすがりついたはずの腕はすり抜けた。
 
 
「タイムリミットみたいだ。」
 
 
彰人がそういうとブラックホールのように真っ暗な空間が
足元から現れて彰人を飲み込んでいく。
 
すくわれた闇の中には 飛行機に乗っていた人々の
顔があった。驚愕で震える体をふり絞って直哉は叫んだ。
 
「やだよ彰人 オレも連れてけよ!頼む置いてくな!!」
 
パチンと大きな音とともに直哉は走った痛みに
頬をおさえた。
 
「彰人・・・。」
 
 
「直哉お前は生きてるんだ。いったろ?諦めるなって。
生きてる限りお前は前進しろ。
精一杯生きろ!!生きてくれ・・・
大丈夫だ・・・
お前なら絶対・・・に」
 
 
彰人の声が途切れてく。
 
「オレはな・・・彰人の未来とともにあるから
だから・・・うた・・・うたってくれ。ずっと・・・」
 
「彰人」
 
「・・・・なお・・や」
 
オレの大好きな彰人の顔がマジかに迫り温かな唇が重なって。
 
 


 
その瞬間彰人は消え・・・・かわりに直哉の手の中には彰人の
腕時計が握りしめられていた。




 
 
 
時計は9月5日 11時を示したまま止まってる。
 
 
ぽろぽろと落ちてくる涙をぬぐうことも出来ず直哉は
ぎゅっとその時計を握り締めて・・・。
 
 
 
 
 
遠くなる直哉の意識の中ヘリの音がしていた。
 
 





 
END
 
 
 

     
      


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