うたかたの夢





               
その日もアポロニアスは学園を休んでいた。

いや、休むというよりサボるのが方が正しいのだが。
出欠を確認したヨハネスは「またか」というように視線を
アポロニアスの席からトーマへ向けた。

「トーマ、アポロニアスは今日も休んでいるようだが・・。」

「申し訳ありません。ヨハネスさま」

「これ以上の欠席は天翅の称号剥奪すると伝えておけ。」

アポロニアスの許婚というだけで何かと
目をつけられるトーマを周りは気の毒だと思っていたが
当の本人は特に気に留めている様子はなかった。

アポロニアスは確かにアトランディアではやんちゃで手を焼く子供であったが、
トーマにとって自身のできないことをやってのけてしまう彼が羨ましくもあったし、
幼い頃からずっと憧れてもいた。
トーマはアポロニアスの許婚となる前からずっと彼に惹かれていたのだ。


授業も終わりトーマは神殿から飛び立つとアポロニアスを探した。
彼がいそうな場所をくまなく探し回ってようやくみつけたのは
プラーナが生まれる生命の樹の花園だった。彼は器用なことにその花園の中
で眠りこけていた。
トーマにはそんなことは到底できなかった。
なぜなら天翅は地に引かれるものではないからだ。

「アポロニアス?!」

なんとかアポロニアスに近づくことは出来たもののトーマはそれ以上地に
滞留することが出来なかった。
するとアポロニアスがトーマに手を差し出した。

「トーマ、お前不器用だな。」

トーマは心外だとばかりに顔をしかめた。

「普通キミのようなことが出来るほうが私は可笑しいとおもうが・・。」

「そうか?」

アポロニアスの手に引かれてトーマも地面にたどり着くがまるで風船が
浮いてしまうように体が浮きあがる。
アポロニアスは仕方なく翅を羽ばたかせるとトーマを抱き寄せ
そのまま地面に押し付けた。
その突然の行動にトーマは顔を真っ赤にさせた。

「アポロニアス・・。どうしてこんな人間の真似事など・・。」

地につくというのは天使のすることではないとつねに教えられていた。

「あいつらのすることの意味がよくわからねえからさ。」

アポロニアスはそういったがトーマにはアポロニアスの方が
よくわからなかった。

それでもアポロニアスと一緒にいたくて
彼の背に手を回すとその背にあった翅に自然と触れた。
それはこの世のものとは思えないほど美しい音色を響かせた。
いつ聞いても彼の翅の音は綺麗だとトーマは感嘆の声を洩らした。

「綺麗だ・・。」

地に這っていることなど忘れてトーマはもう1度アポロニアスの翅に触れようとした。

そうしたらアポロニアスが自身の翅を引き抜いた。

「そんなに好きならお前にやる。」

トーマは一瞬耳を疑った。
アポロニアスは知っているのだろうか?
翅を交わすというのは恋人同士がする行為だということを。

「いいのかい?」

「いいと言ってるだろう。」

その声は口からでる音でなくてもトーマの心を震わせた。
トーマはそれを受け取る前に自身の髪の中から翅を抜いた。
アポロニアスほどではないが澄んだ高い音が花園に響いた。

「だったら、私の翅も。」

トーマに差し出された翅をアポロニアスは素直に受け取った。
アポロニアスがトーマの翅に触れた瞬間トーマの体は
まるで電流を帯びたようにうずいた。

それにアポロニアスはいち早く気づいた。

「トーマどうかしたのか?」

「いいや、何でもない。」

そう口にしたもののトーマはもっとその甘やかな感覚に浸りたかった。

「アポロニアス、私もキミの翅をもらっていいかい?」

「ああ。」

トーマは壊れ物にでも触れるように優しくそれに触れた。優しい音色が
トーマの手の中に響きわたる。私だけの翅。私だけのアポロニアス。
トーマは幸せに浸りながらアポロニアスを伺った。
・・・が彼に特に反応はない。

そんなはずはないと、もう1度手の中の翅に優しく触れたその瞬間、優しかった音色は
急に荒々しく変化した。

「トーマ!!」

今まで穏やかだったアポロニアスの腕の力が強くなる。

『あっ。』

思わずトーマの口から天翅の声が言葉となって漏れる。

「トーマ!!」

もう1度アポロニアスが名前を呼んだ瞬間トーマは地面に
押し付けられていた。

アポロニアスは内側から湧き上がってくる感情のままトーマの
服を剥ぎ取った。
トーマは恥ずかしさに顔を背向けていたがそれでもアポロニアスの翅を
手放すことはしなかった。

やがて全裸になったトーマをアポロニアスはじっと見下ろした。

「トーマ、綺麗だ。」

「アポロニアス・・・見ないで・・・。」

羞恥にかられながらもトーマはもっと彼に求められたいと心の内で
願った。
翅を握り締められていた指に力がこめられる。

「トーマ!!」

アポロニアスは自身の服も剥ぎ取るとトーマの体にそれを押し付けた。
どうしたらいいかなんてお互い知らなかった。けれども内側から自然に
湧き上がる欲情はどうすればいいか知っていたようだった。

「ああっアポロニアス」

トーマは必死にその背にしがみついた。
そのたびに翅が奏でる音色が荒々しくなっていく。

「トーマ!!」

腹部に押し付けられたそれは互いに触れあうと熱く全身に血がかけめぐっていくようだった。
蒸発してしまいそうな熱の感覚にうなされトーマの口から嗚咽がもれる。

『っ・・・ダメです、アポロニアス』

トーマは自身の体を制御できなくなり、その頭翅から真っ白な羽を浮かび上がらせた。
その翅はトーマを抱くアポロニアスごと花園からすべてを隠すように包み込んだ。

「あああっ・・。」

「トーマ!!」

同時にプラーナを放出して2人は花園の中へと倒れこんだ。

アポロニアスはトーマが放出したプラーナを迷わず口に含んだ。
トーマはそれに真っ赤になって顔を背向けた。
本当はまだ花園に漂うアポロニアスのプラーナをトーマだって含みたかった。
だがそんなことをしたら彼に嫌われてしまうのではないかと、気がとがめたのだ。

「トーマ、」

優しく呼ぶ声にトーマは顔を上げた。
そうするとアポロニアスがトーマの唇をなぞった。

「あっ、」

彼のプラーナだった。
プラーナはトーマの体内に入ると体の隅々まで流れていった。

「アポロニアス・・・。」

トーマは幸せだった。愛する人に愛されている事。
愛する人に抱きしめられることが。
そして何より自分はアトランディアで一番幸せな天翅であると信じて疑わなかった。

『たとえ地を這うことになったとしてもアポロニアスと一緒なら構わない。』







トーマは遠い記憶を手繰り寄せると地上にいる愛しい翼をみた。
トーマの手には魂の抜けおちた翅だけがある。
触れてももうあの頃の響きは戻って来ない。

まるであの日のことは夢だったのではないかと思うほどに、高ぶり
熱く寄せた想いをトーマは一人抱きしめるとその兜をかぶった。

再び彼を抱きしめる為に・・。


                                        完



あとがき

ここまで読んでくださった皆様ありがとうございます!!
アクエリオンの小説 天翅編とOVA裏切りの翼の特典だったドラマCD
を聞いて妄想を爆発させて書いてしまいました(苦笑い)勢いって怖いかも(汗)
プラーナ放出は完全にでっち上げデス;またこのCPは書いてみたいですね。



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