地上の星  6





日もかなり傾いた頃、瞬は満面の笑みで小屋に戻ってきた。

「兄さんただいま、」

瞬の持っていたバケツには魚がぴちぴちと跳ねていた。
もちろんサオやえさなど持っていない瞬はそのまま川に入って捕まえた
に違いなく、その証拠に髪も服もずぶぬれだった。

「瞬、」

床にぽとぽとと雫が滴り落ちる。

「あっ、」

一輝にとがめられ瞬は小屋の入り口まで戻った。

「ごめんなさい。」

一輝は小さくため息をつくと瞬にタオルを渡した。

「ほら、魚を見せてみろ。」

「うん。」

神妙になった瞬からバケツを受け取ると一輝は魚を取り出した。

「イワナだな。」

「食べられそう。」

「ああ、」

「よかった。」

瞬はそれにほっとした。

一輝は手馴れた様子で魚を裁き櫛に刺していく。
手をパチンとならすとそれだけで兄の手から小さな火花が生まれた。
その火を慎重に暖炉の落木へと落とす

「兄さん、すごい!!」

一通り体をふいた瞬は濡れたシャツを脱いだ。
そのシャツを火に近い天井にかけて暖炉の袂までくる。

「瞬、寒いのか?」

「ううん、大丈夫」

男ともましてや聖闘士とも思えないほど華奢で白い瞬の肩が微かに震えていた。
一輝はベッドから毛布を取ると瞬の細い肩にかけた。

「兄さん?」

「濡れたままだと風邪をひく。後はオレがするから。」

「うん、」

瞬は毛布にぎゅっとうずもった。

「この毛布兄さんのにおいがする。」

一輝はそんな瞬に目を細めて視線を逸らした。





ちりちりと暖炉の火が燃えていた。
その炎の前で一輝は祈るように手を合わせた。
瞬も一輝にならった。

『オレたちは生きるために植物の動物の命を奪う。それは生きていくために仕方が
ないことだが、けして粗末にしてはいけない。命と
命はそうやって繋がっていくものだ』、
子供の頃一輝は何度も瞬にそう話した。

静かに優しく流れる時間。
先に祈りを解いたのは一輝の方だった。
一輝は祈る瞬の姿に動揺した。
その姿が重なったのだ。

兄の小宇宙の乱れに気づいて瞬が瞳を開けた。

「兄さんどうかした?」

「いや、なんでもない。それよりもう焼けたぞ」

「えっはい。」

瞬は兄に違和感を覚えなかったわけではないがそれ以上何も
聞くことが出来なかった。


その日も深夜一輝が小屋を抜け出した事を瞬はしらなかった。





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同じような話が続きます。なかなか進展がありませんね;




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