恋する少年
       
  
         



血盟城に戻ったヴォルフラムは早々ユーリの部屋へと向かった。
本来、魔王の間へは勝手に出入りしてよいものではないが婚約者になった
時からヴォルフラムはほぼ自由に出入りしていた。

まして今日の場合、『ユーリと式の打ち合わせをする。』といえば誰も
咎める者もなかったし。


「ユーリ、いるか?私だ。」

流石に魔王の部屋ともなると広さも半端になく広い。
調度品のセンスや質もどの部屋よりも比べ物にならないものだ。
もちろんあのユーリにそんな価値がわかるとは
思わなかったが、それでもそういった品は
魔王にはふさわしいものだとヴォルフラムは思う。


『大丈夫、私は有利にふさわしい男だ。』

ヴォルフラムは自分に奮い立たせるようにそう言い聞かせると
ユーリがいるであろう寝室へと進んだ。
有利の寝室である奥の部屋まで来るとヴォルフラムは戸惑うこともなく
その扉をあけた。

「ユーリ?」

案の定と言うべきかユーリは天蓋つきのベッドで爆睡していた。
相変わらずのひどい寝相とイビキにヴォルフラムは悪態をついた。


「まったく、お前ときたら。僕と結婚したらその庶民の癖を
叩き直してやるからな。」

もっとも寝相の悪さはヴォルフラムの方がユーリより上なのだが・・・。

ヴォルフラムが声を荒げたが一度魔力を解放したユーリがそんな
ことで起きるはずがなく。
ヴォルフラムはそんなユーリの寝顔をまじまじと見つめると
ユーリの頬にそっと手を置いた。


「ユーリ、今更なしなんて、絶対聞かぬからな。
お前が言い出したことだ、男としてちゃんと責任とれよ。
私は・・へなちょこのお前でも、一生ついていくからな。」

最後の方は消え入りそうな声だった。

ヴォルフラムはまるで乙女のように頬を染めると、ユーリの頬にそれを落した。

「ユーリ、待ってる。早く目を覚ませよ。」

ヴォルフラムは照れ隠しのように怒鳴ると部屋を後にしたのだった。






『お客様のおもてなしの準備をしなくては』

『招待状はどういたしましょうか?』

『貴族に送る招待状はもう少し控えたほうがいい。』



騒々しい声にユーリが目を覚ましたのは日も傾いたころだった。

話の内容まではさすがにユーリにはわからなかったが、普段もの静かな血盟城にしては
珍しいことでユーリはあわててベットから起き上がると部屋を飛び出した。


「ひょっとしてまた戦争をおっぱじめる、なんてんいうんじゃないよな。」

廊下の丁度突き当たりでユーリはコンラッドに出くわした。

「コンラッド、やけに騒がしいけどなんかあったのか?」

「いえ、それは・・。」

コンラッドは困ったように顔をしかめた。
変に隠し立てするのはコンラッドの悪いところだとユーリは思う。
オレだってちょっとはこの眞魔国のことわかってきてるんだしな。

「オレに隠さねえといけないことなのか?」

「いえ、そういったわけではなく・・・それよりユーリは
ヴォルフラムとした約束を覚えてる?」

「オレが、ヴォルフラムに?いつ?どんな約束をしたの?」

やはりというようにコンラッドは沈痛な表情を浮かべるとユーリに
言いにくそうに言った。

「ユーリは先ほど皆のいる前でヴォルフラムと婚儀をすると誓ったんですよ。」

さすがのコンラッドもユーリの「夜伽」発言は言うことが出来なかった。

「婚儀って何?」

「つまり、結婚するということです。」

「えええええええっ?!」



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