ただ手をのばせばそこに・・2




    アキラは冷え込んだ山頂で火を焚き 毛布に包まったが
    それでも寒さをしのぐ事はできなかった。

    「どうした?アキラ。震えてるようだけど。」

    アキラの様子がおかしいと気づきヒカルはすぐ木から
    降りてきた。
    妖怪のヒカルには寒いという感覚はほとんどない。
    逆に暑さにはめっぽう弱かったが・・・

    「うん寒くてね。」

    ガチガチ凍る体を自分の腕で熱を逃がさないように
    覆うアキラに心配そうにヒカルが手を伸ばす。

    「うわ〜アキラの体 冷てえ〜」

    ヒカルの手は逆に温たかかった。

    「人間ってこういう時 困るんだよな。」

    「どこか外気を閉ざせるような場所はないだろうか。
    ヒカル探して来てくれないか。」


    ヒカルはすぐに木に登り夜目の利く目と感覚で
    洞穴を探し出す。


    「アキラ、近くにいい場所があるぜ。歩ける?」

    「ああ。」

    そう応えたがアキラはあまり長くは歩けそうにはなかった。
    暗闇に足をとられるとヒカルが肩を貸してくれた。

    しばらく歩くとそこに小さな洞穴があった。

    「ここなら いい?」

    「ああ。十分だよ。ヒカルありがとう。」

    じゃあ また 俺は木の上に戻って寝るから。」

    「ヒカル待って!」

    「何?」

    「傍にいてくれないか。」

    ヒカルは夜は必ずといってよいほど高い木の上で寝た。
    ヒカルは妖怪。人間のアキラと生活を合わせるのは大変なはずで
    夜一人になる事を好んでもアキラは今まで何も言わなかった。

    「いいけど。」

    「とても寒いんだ。傍にいてほしい」

    「うん。」

    アキラは一緒に包まろうとヒカルを手招きした。
    思った以上に温かいヒカルを
    アキラは別の思惑で強く引き寄せた。
 


 

    ・・・一目ぼれだった。


    荒れた碁会所で人間相手に掛け碁を生業とし いかさままがいの
    碁を打っていたヒカル。なぜヒカルがそんなことをしていたのかは
    今もわからないが、本来の彼の碁はもっと純粋で光輝く素質があった。
  
    『僕と一緒に天竺へいこう。』
    そうヒカルに持ちかけた。

    そこに碁の神様がいるから。

    「碁の神様?どんな神さまなの?」

    「さあ 僕もしらないから会いに行くんだよ。」

    「俺に碁を教えてくれた人に会わせてくれるかな。」
    「その人はどこへ行ったの?」
    「神の一手を求めて一人でいっちまったんだ。」
    「旅に出れば会えるかもしれない・・」

    ・・・ヒカルに碁を教えた人の話はそれ以来聞いてはいない。
    会えないほうがいいのだ。ヒカルを取られてしまいたくなかった。
 
 
    アキラが旅に出た目的はいつごろからか変わっていった。
    このままずっとヒカルと旅を続けていたい・・・
    ずっとこうしていたいのだ。
 
    貪欲になっていく自分、ヒカルを僕だけのものにしてしまいたかった。
 
 
 
 
    翌朝 ヒカルは自分の上半身に残る赤い鬱血のあとに目を落とした。
 
    「なんだろ?これ。」
 
    何も知らないヒカルに僕は素知らぬ振りをする。
 
    「気づかないうちに何かにぶつけたんじゃないか。」
 
    「そっかな。」
 
    それは ヒカルが僕のものだという証・・・。
 
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                                     緋色作