白と黒4

 



「何言ってんだよ。」

「今君の心の中にあるのは誰だ?何を悩んでる。」

オレは怒鳴った。

「そんなのほっとけよ。
付き合ってるからってオレの心の中まで縛れるなんて思うなよ。」

「そうだな。君の心の中を縛ってるのは僕じゃないだろう。」

「なっ」

取られそうになった腕を払った。

角から二人連れの女性の話し声が近づいてくる。
オレはその二人連れが去ってもしばらく視線をそらしていた。


「すまない。君と言い争うつもりはないんだ。・・・昨夜のことも謝って
君と話をしたい。」

「オレはお前と話すことなんてない。」

ぶっきら棒に言ったあと、ズキっと心が痛んだ。
言いたいことが言えない。
ナイフのように鋭くなった言葉できっと塔矢を傷つけてる。

「・・・ヒカル。」

もう1度取られた腕は怒りなのか、泣き出したいのかわからないほど
震えていた。

そのまま抱き寄せられる。
人通りが少ないと言え人の往来がある場所だ。

「馬鹿野郎。何考えてんだよ。」

ドンドンと塔矢の胸を叩くとすぐに解放してくれたがお互い胸の鼓動はバクバク早い
音を立てていた。

オレはそのまま塔矢をほっといて歩き始めた。
なのに後ろから追ってくる塔矢の歩幅になんとなくほっとしてる。

「お前に流されちまうのは嫌なんだよ。」

「流されるのは僕のせいなのか?」

「違う。オレの弱さだ。」

「なら流されたらいいじゃないか。」

「はあ・・・?」

間の抜けた返事を返すと塔矢が語気を強めた。

「僕に流されたらいいと言ってるんだ。僕はどんな君も受け止める自信がある。」

オレは思わず足を止めた。あまりのことに顔が体中が熱くなる。
なんて自信過剰で勝手で、自己中で。

呆れるほどのバカだ。

「saiの名が出るたびに囚われる君がいるのを知ってる。
そして僕もそうなんだ。
どうしても重なるんだ。君とsaiが・・・。」

「オレは佐為じゃないって言ってるだろ。」

「理屈では分かってるつもりだ。それでも・・と思ってしまうんだ。
先ほどのペア碁だってそうだ。間違いなく君の碁だった。普段しない
ペア碁だからこそ君を深く感じたのかもしれないし、より近く感じたのかも
しれない・・・・。saiの影をみたような錯覚を覚えた。」


思わず言ってしまおうかと思った言葉を飲み込むと拳をぎゅっと握りしめた。
しばらく無言のまま対峙した。深い溜息をつくとオレはようやく口を開けた。

「ヒカル・・・。」「塔矢・・・、」

二人で同時に言ってまた口をつぐんだ。
先に言えよと塔矢を小突いた。

「君が先にいってくれないか?」

仕方なくオレは口を開いた。

「いや、その・・。お前ってやけに佐為ってのにこだわってるなって思ってさ。
ひょっとしてオレが佐為だと思ったから惚れたのか。」

「違う。君は君だ。」

「そっか。なら別にいい。」

オレと佐為と重ねるのはそれだけ深く関わったからだと思う。

オレはふっと短い溜息をついた。
なんとかこの話を誤魔化したかったし、変えたい。

「ところでお前は何をさっき言おうとしたんだ?」

「無理を言ったのなら、せめて君を駅まで送らせてくれないか・・・と、」

胸がドクンjとした。
流されるのは嫌だと言った。これ以上取り繕うことが不器用で一人になりたいとも
思った。
だが矛盾しているかもしれないが流されてしまいたいと思う自分もいる。
傷つけあうだけでも塔矢と別れるときは寂しくて胸が疼く。



「お前さっき、どんなオレも受け止める自信があるっていったよな?」

「ああ。」

「お前は・・・。流されないのか?」

「・・・君が受け止めてくれるというなら流されてもいい。」

その意味を測り兼ねたが思わず顔が真っ赤になった。

「何だよ。それは・・・。」

「君を独占したい。縛りつけて僕だけのものにしてしまいたいと思うことがある。
歪んだ感情だろうと思う。でもそんな僕も受け止めてくるというなら、
流されてもいい。」

余りにこっ恥ずかしいことを言われてオレは口をパクパクさせた。

「もーお前しゃべんな。恥ずかしいから。」

オレはさっさと歩きだす。そしてその後をついてきた塔矢に向かっていった。

「しょうがねえから2駅歩いてやるよ。その代り腹減ったしなんか奢れよな。」

「ああ、」

背後で塔矢が苦笑したような気がした。










「いいのか?」

オレは静かに頷いた。

「昨夜あれほど嫌がっていたじゃないか。」

「受け止めてくれるんだろ?」

「ああ。」

恥かしいことに変わりない。それに痛みだって伴うのだろう
恐怖もあった。

佐為に対して言わないオレへの苛立ちを塔矢はずっと持っているのだろう。
せめてその苛立ちをオレにぶつけてくるというのならそれを受け止めてもいい。
そう思った。

端正な顔が近づいてくる。
こんなことなんて全然考えてないようなきれいな瞳の中にオレがいた。
オレは目を閉じることもそらすこともしなかった。

「・・・やれよ。どんなお前も受け止めてやるから。」

「ヒカル・・・。」





この夜からオレは引きずられるように塔矢と半同棲生活を送ることになる。


                                             5話目へ


すみません。更新が停滞ぎみで。この山を越せば進みそうです。
それまで忍耐。忍耐。。緋色






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