谷川岳一の倉沢【衝立岩中央稜・烏帽子岩奥壁変形チムニー】登攀(2007年8月)
 
2007年の夏は、谷川岳に25年ぶりの挑戦、このはな山の会の先輩でベテランクライマーKさんといつものパートナーHさんの3人での本チャンとなった。

 811日(金)夜10時に森之宮に集合し、大阪労山の加島ルーズクライマーズクラブの6人の仲間と車3台で谷川岳にむかった。道は空いていても遠い670キロを10時間要して、12日の8時過ぎに谷川岳ローウェー駅立体駐車場に着いた。この時期は、マイカー規制されており、ここに車を置き、朝食後に、荷物を担いで一の倉沢出合をめざした。約1時間の車道歩きで、ブナ林の中のテント場に到着した。きれいな観光用トイレや水場も少しはなれているがあり、ベースキャンプとしては、木陰の素晴しいサイトだった。この日は、Hさんは車においてきた大量のビールのボッカに、Kさんと自分で偵察にでた。雪渓は大きく後退してしまっていて、沢登りのスタートとなる。フィックスロープなどもあり、沢をつめていくが、結構手ごわい、大岩の横の2メートルほどの滝が直登できず、左の壁を登って越すが、河原へのクライムダウンが無茶難しく、冷や汗ものだった。ひょんぐりの滝下で崩壊しかけた雪渓があり、その横のがら場と側壁にハーケンをうち足しながらすすむ、まさにアルパインスタイルの原点のルート工作だった、しかし、ひょんぐりの滝の下で手詰まりになった。右側は古い残置ロープがかけられていたが信頼できるか不明で、登るにはハーケンを打ち足す必要があり、左は急な草付きを登ってみるがかなり上部に潅木帯もみえるがそこからの下降が不明、偵察をここで打ち切り、キャンプサイトに帰る。不十分な偵察に終わったが、本チャン初日の充実感があった。課題もはっきりしていた。夕方、降りてきた新潟のクライマー2人に水場で尋ねると、「そこは右岸を高巻き、ひょんぐりの滝の上部に懸垂下降する」との解答もらった。ルート図どおりだが、「取り付き点がわからなかった」というと「沢がスラブ状になったところの先の水が噴出す(R状に)滑滝の手前の右岸のがら場を登り、泥のルンゼから潅木帯の中にふみ跡がある」と教えてくれた。この情報で、翌日のアタックに展望がみえた。

 13日、4時起床、6時出発、南稜をめざすKRCのメンバーと一緒に9人ですすむ、情報通りにルートを見出し、ひよんぐりの滝のかなり上部を高巻き、60mくらいの急な崖を懸垂下降して河原に戻った。ここでの順番待ちで時間が少しかかった、テールリッジもフィックスロープが随所に張られ、どんどんと登ることができた。しかし、やはり谷川岳の夏は暑い、快晴の好天のためもありこの登りでかなりの体力を消耗する。この日は、衝立岩中央稜の取り付きにつくのに3時間弱かかった。

衝立岩中央稜登攀

 3人の登攀なので、トップはベテランKさん、セカンドは自分、サードはHさんと右のスカイラインが中央稜したが、難しい箇所以外は2人同時登攀して時間短縮をはかった。1P目は、ゆるやかな階段状のフェースからはじまり、だんだん傾斜がたっていく、W級というほどではないという感想はよくわかる、2P目はそのままルンゼを直登する。3P目は、カンテを回りこむのだが、下はきれているし、スタンスが大きくない、セカンドとはいえ墜落すると登り返しができなくなる可能性もあり緊張したところだった。少し大胆なムーブで乗り越した。ここの方がW級ぽい、フェースを少し登りピッチをきった。
 4P目は、第2フェースからチムニーへと入っていく、このルートの核心部分だ、フェースはスタンス、ホールドともに細かいが快適なクラミングができた。チムニーもザックがじゃまだったが大胆にスタンスを突っ張りでせり上がり、チムニー奥のクラックにホールドをみつけ、A0を使わずにフリーでスムーズに突破できた。「X級のムーブかな」と少し満足、しかし、楽しかったのもこのあたりまでで、照りつける太陽、高温で汗だく、のどの渇きと体力の激しい消耗を感じ、5,6P目のルンゼはひたすらよじ登るだけだった。そこで日影のビレー点がありほっとした。給水もしながら7,8,9Pと草付き、急なルンゼとミックスしながらの登攀が続き、やっと衝立岩の頭に着いたのは1145分、3時間45分の登攀だった。ベテランのリードと2人同時登攀で時間的にはまずまずだが、兎に角、暑かった。大岩のかげで水分補給とHさんからもらったみかんゼリーを少し喉にとおしただけで、固形物はのどをとおらなかった。下山は、他にパーティーがいなかったので中央稜をそのまま懸垂下降した。Kさんの野生の勘は鋭く、全ピッチ50mザイルを有効に使い、6回?くらいの懸垂下降で取り付き点よりやや烏帽子奥壁側に着地した。1225分から1430分の2時間の懸垂下降だった、テールリッジをバテバテの体にムチ打って下降し、テントサイトに到着したのは1630分だった。アプローチ3時間、登攀4間、懸垂2時間、下山1時間半の10時間行動だった。やはり本チャンは総合的な厳しさを感じた。自分の場合は暑さに対するスタミナに不十分さがあった。

烏帽子岩奥壁変形チムニー

写真の下、中央が取り付き 左上の変形チムニー

 前日のハードな中央稜に続き、連日の登攀に体が耐えられるか?若干の不安を持ちながらも、3時起床、5時半出発となった。テールリッジへの道も慣れてきたのか、1時間半足らずで取り付きについた。スタートのビレーポイントは、ルート図どおりの岬の形の岩だったが、古いものだった。ルートもあまりはっきりとしないが、登りはじめる。オーダーは、3人パーティーなので全ピッチKさんがリード、自分とHさんが同時登攀するスタイルで登りはじめる。
 2P目もベテランのKさんをもっても、ルート探しに慎重に時間をかける。ピンがない、登った踏み跡もない、草付き混じりだが傾斜はある。メジャーなクラシックルートで、よく登られていると思っていたが、実際はそうではないようだ。全ピッチにわたりピンは少なく、ビレー点を含めて打ち直しされたところがほんどなかった。
 3P目はさらにわかりづらく、左よりの浅い凹角を攻めるが難しい、W級より高度なバランスクライミングが強いられた。4P目は前半部分の核心である変形チムニーを登る、中は濡れていて気持ち悪かったが体を入れて、ザックがじゃまだったがチムニー登りでせり上がっていく。途中で体のむきを変え、大胆にスタンスを外側にとっていくと出口がみえたW級、A0だが、なんとかフリーで乗り越した。
 5P目は、右に斜上するがルートが判別しにくい、6P・7Pとザイルを伸ばし、8p目は後半部分の核心で、凹角をトポではW級A1で乗り越すとあった。25年前はフリーで越えれたが、今回は体力を温存し、安全に早くを考えて、アブミを出して2回かけて素早く乗り越えた。続いて、チムニーから狭いクラックがあり、こちらの方が難しかった。アブミも有効に使えそうもなく、レイバックで1手伸ばして,出口から垂れる古い残置シュリンゲを思いっきりつかみはいあがった。なんともみっともない登り方になってしまった。クライミング技術もまだまだ未熟さを感じた。

 かなり高度を稼いだ感じで、烏帽子岩も真近くみえてきた。9・10・11P目は、草付きのルンゼ、フェースを慎重に登っていくと鋭く向こう側が切れた岩の上に飛び出た。Kさんはルート探しに神経をかなり使ったようであまり快適なルートではなかったという感想だった。ロングルートは登りがいがあった。幸い、前日ほど直射日光に焼かれずすんだのがよかった。
 ところがこころから大アクシデントが起きる、下山は南稜にトラバースし、懸垂下降することにしたが、そのためにまず50mの空中懸垂をした。これほど長い空中懸垂はめったにない、それだけにまさかザイルダウンできないとは思っていなかったのに、「ザイルが引けない、動かない」、登り返すルートもなく、「50mの自己脱出ができるのか」など考えていたが、Kさんは1/3を試したり、反対側のフェースに登り高い位置からザイルをゆすったり工夫をして、悪戦苦闘の末に、ザイルが動いた。経験と工夫、努力の成果だった。南稜の終了点らしきものがすぐ横に見えるが、急な壁、そのしたには熊ササの急斜面だった。そこでもKさんが古い残置フィックスをみつけ、それに伝わっていき、なんとか南稜の終了点に立てた。そこから懸垂下降を5回して、南稜テラスまであと5mのところまで下降し、残りはクライムダウンでテラスに立てた。午後4時前だった、烏帽子奥壁の下を慎重にトラバースし、テールリッジを下り、テント場に着いたのは午後530分だった。実に12時間にわたる行動だった。2度と夏の谷川岳はごめんという気持ちとロングルートを登りきった充実感に満たされ、星空のしたでおそくまで酒をのみ、ブナ林の木々の合間からみえる星をみながら、そとで寝た。
 翌日は、KRCのメンバーを見送り、朝食後に「町営谷川テルメ」によって、汗を流し、あまり休まず飛ばしたが8時間かかって帰阪した。