芦生(2001年11月4日)

「芦生の森にいこう」は、若干のアクシデントがあり、予定より30分ほど守口の出発がおくれ、午前6時30分ごろとなったが、枚方経由で渋滞に合うこともなくスムーズに名神、湖西道路とすすみ、ほぼ予定どおり、滋賀県朽木村生杉側の三国峠へ直登する登山口に午前8時30分過ぎには到着した。しかし、天気は前日からの雨が残る、時折激しく降るので、身支度を整え出発するパーティーを横目に、ガスコンロを取り出し、キャンプ用のパーコレーターを取り出し、コーヒーを沸かしながら様子をみることにする。
 おいしいコーヒーを楽しんでいると雨も少し小雨になり、明るくなってきたので、勇をけっして出発することにする。急な沢から一気に、ブナなど広葉樹林帯の急登となるが、見事な紅葉、黄葉に足をとめながら行けば、それほどきつさも感じないままどんどん登った。さすがに、芦生と思ったのは、獣くさい、うんこか、おしっこのにおいが鼻をついた。あまり他の山塊では感じないことだった。30分もしないうちに道は、尾根筋となり、山頂近くになると積雪のためか下草もなく、黄葉の続く静かな森の中を散歩気分で歩けた。しかし、天気は回復すると思っていたが、逆にますます悪くなった。空は日本海側特有の鉛色の空が重たくのしかかり、風は音をたててととおり過ぎていた。山頂からは近くに見える百里ヶ岳もガスにかすみ、比良の山はまったくみえず、寒さも感じるくらいだったので三国峠山頂ではザックもおろさずに、芦生側へと下っていった。山頂直下の下りは、尾根道でありながらも急で、しかも雨のためにすべりやすく、すこしやな感じだったが、それも長くは続かず、谷間へと道はすすんでいった。谷を見渡せるところまで降りるとそのすばらしい世界に思わず、みんな足をとめてしまった。意外と谷は紅葉、黄葉のためか明るく感じた。唯一うらめしい雨もやんできたようだ、いよいよ芦生の森に入った。道ぞいにも大木が現れ、「パワーがもらえる」といいながらさわったりした。そこではじめて休憩もとった。ここまで50分なかなかいいペースだった。
 カメラを出し、写真をとりながら、今度は沢ぞいに下っていく。ところがきのうからの雨のために、10センチくらい増水している(とは言っても20cmが30cmくらいになっただけで、自分ひとりなら、どうってことなくざぶざぶと渡っていくのだが、きょうのパーティーは少し勝手がちがい、「くつを濡らしたくない」と沢をわたるたび大騒ぎをしながらの楽しい沢下りとなった。しかし、時間は普段の2倍以上も費やしてしまった。増水して条件が悪いなかではしかたないことだろう。今回気がついたことだが、長靴で歩いている人が多かったことだ、日本海側と太平洋側の境界にあり、雨が多いのかもしれない、地元の人や芦生の常連の方のスタイルのようである。実際に、自分も地蔵峠との分岐点での沢を横断する際に、バカ長をはいた男性に手をとってもらい、うれし、はずかしの場面もあった。
 やがて、杉林も現れ、黄色やオレンジ、あかの世界を歩いてきた眼には、杉の緑もまた新鮮で美しいものだった。新調された中山神社も通り過ぎ、長治谷作業所前の広場まで出てみた。さすがに人が多く、また、作業所横ではようやく回復してきた天気の中でテントを干しているパーティーもあり、なかなかのにぎわいだった。あったかくて気持ちよさそうだったが、少しうるさい感じもするので、昼食はもう少し静かな場所を求めて上谷を杉尾峠方面へ、すすんでみる。いつもすきとおっている清流もさすがにすこしだけ濁っていた。
 予定していた昼食場所へは時間がかかりそうなのと、回復したと思った天気だったが、またまた日本海側(裏日本的)特有のどんよりした雲でおおわれはじめていたので、昭和9年にに植林された杉林をぬけ、少し谷幅が広くなり、すすきの原をみわたせるところで昼食をとることにした。
 昼食は、フランスパンをスライスし、鴨ロースのスモーク、ゆでたまご、チーズの3種にグリーンレタスをのせたオープンサンド、そのレタスの芯に油揚げと白きくらげを入れたスープを手分けしてつくった。当然、ワインで乾杯し、手作りのおにぎりとデザートの柿とケーキもおいしかった、最後にコーヒーをパーコレーターでわかして最高のランチを終えた。
 少し長居をしすぎた感もあったが、心配していた天気も持ち直してきたようなので、上谷を杉尾峠めざして、向って行った。すぐに、左岸にわたると深い森の中へと道はすすんでいった。谷間の道は意外にも明るく、ブナの黄色の落葉がじゅうたんのようにひきつめられ、フワフワするような道、突然、原生の芦生杉の林にも出会った。さらに、奥へとすすんでいくとトチの巨木が待っていた。その大きな幹に触ってみたくなった。きっとあたたかいのかなと思っていたが、少し冷たかった。ただ、その樹皮には、濃い緑に輝くコケがはえ、小さなきのこ、飛んできた何かの種子から芽生えたばかりの双葉をひろげた草をみつけることができた。
 杉尾峠をめざして上っていこうと思ったが、枕谷の下りで増水した沢にてこずり時間がかかり過ぎたことと、また、行く手の沢も少しだけ増水して飛び越えにくいところに出くわし、そこで先を行くのをあきらめ、来た道を引き返すことにした。ゆっくりと散歩のような山行となった。帰途も、一度、長治谷作業所前の広場で休憩することにした。広場の前の芝生にシートを引き、少し寒い感じがしたので、持ってきたジャスミンティをEPIであたため直して、チョコレートやら、おかしも食べてゆっくりしてしまった。むかいの山もすっかりと紅葉していた。作業所の裏手の山は赤く染まっていた。林道のそばのまっかなかえでの写真を撮り、枕谷へとむかった。枕谷を杉林の途切れるところまでもどり、そこの二股を今度は右手にとり、地蔵峠にむかったが、すぐに峠はみえた。このあたりの森の美しさも格別なものである。夏にきたときの圧倒的な緑があふれる森もよかったが、黄葉の森もまたすばらしい世界だったが、すぐに、地蔵峠に出てしまい芦生の森との別れを惜しんだ。ここから滋賀県朽木村生杉側に出て、林道を車の置いてある三国峠登山口までの下りとなった。単調な林道の下山を思っていたが、夏には見落としていたが、こちら側も広葉樹林の原生林はまだたくさんあることが、紅葉にもえる山をみれば一目瞭然だった。同時に植林されたその杉がまっすぐに空にむかって円錐をなしている姿も感動した。その深い緑と紅葉の山とのコントラストの美しさに感嘆した。すすきや野の花など目を楽しませてくれるものがたくさんあり、2キロの林道の下りも苦にならず、天気もついに晴れわたり、朝にみられなかった百里ガ岳などをみわたせる最高の日よりになり、きょうの凱歌に自信を持った。
 帰りは、朽木村のてんくう温泉により、簡単な夕食を食べ、真っ暗になった鯖街道から帰路についたが、途中で車を止め、満天の星空も楽しむおまけもあり、秋の「芦生の森」のツアーをおえた。