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GS美神 リターン?

 Report File.0081 「お嬢様危険注意報!! その10」
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「石化って凄いっすねぇ」

 そういや、されかけていたようなと嫌な思いを浮かべて横島は慌てて頭を振った。精神衛生上とても良いとは思えなかったからだ。

「そうよ〜こういう特殊な事が出来る式神って早々いないわ〜」

「確かにメジャーでは式神っていたら鬼っすからね」

 とは言え目の前の冥子はそんな珍しい式神を12体使役しているのだ。式神使いが何人いるか知らないが100人ぐらいだったら約1割を占めるのだ。冥子が言うほど珍しいのか疑問であった。

(式神使いの誇りっとかってやつかもしれん。美神さんに聞く事にしよう)

 わざわざ地雷は踏みたくないと質問は控えるのであった。

「そうよ〜。でもここ最近のオカルト技術が進歩したからか簡易の式神だったら、結構特殊なものもあるわ〜例えばジョーズちゃんとか」

「ジョーズちゃん? …って鮫っすかぁ!?」

 人食い鮫をちゃん付けする感性はひとまず置き、水中でしか活動できないという状況限定のものはどういう用途で使うんだと頭をひねった。

「他にも色々活用されているわ〜。横島君に馴染みがあるとしたら〜男の子だからここ最近の特撮ヒーロー物とかかしら? 怪獣とかが式神よ」

「そうなんすかっ!? いや、何か中学に入るあたりであった特撮ものからやけにリアル感が増したと思っていたんすけど…」

「外国のほうじゃあ、CGっていう技術を使っているらしいけど〜、日本じゃ式神を使用すれば一から造らなければならないことなんてないんですもの〜」

「詳しいんすね」

「一応、家やその提携先がそういうのを〜扱っているからそれなりに詳しくなるの〜」

「へぇ〜(手広くやっているんだな)」

 式神使いという事でてっきり霊能に関連するものばかりと思っていた横島は感心しきるばかりであった。横島はあまり知るところではないが六道の名を冠してはいないがグループとして傘下に属する企業は結構あるのだ。

「そうそう、GS資格試験での2回目の相手がそのヒーローが使うゴンブト・スープっだったかしら?」

「ひょっとしてコンバット・スーツの事ですか?」

「そうそうそれ〜。それに〜身を包んだ人だったのよ〜」

「うわぁー、勇気あるなそん人」

 いくらなんでも人前でそんな格好でいることなどできんと横島は感心するのだった。


     *


 無事、一回戦を突破した次の日、昨日のテンションを維持できるはずもなく、何時もお付のメイドも居ない一人での行動になったことで冥子は昨日の始まりと同じような不安に陥りつつあった。

 実のところ、こうなったのは冥子の母が一回戦のあまりの見事な戦いぶりにもう一人でも大丈夫ね〜とすっかり誤解していたからだった。

 そんなわけできょろきょろとしながら、精神安定剤もとい令子を探すのであった。だが、混雑している中そんな行動をするのだから当然ながら…

「きゃっ!」

 人にぶつかってしまうのは自明の理であった。

「おたく、気をつけるワケ」

 冥子がぶつかった相手を見ると同年代の褐色の肌に長い黒髪をしたエキゾチックな美女が睨んでいた。

「あぅ…ごめんなさい」

 少し釣り目がちな為に余計迫力が増し、冥子もびくりとして涙ぐんだ。実に危険な状態であった。

「ちょ、ちょっと!? 別にそこまできつく言ってないワケ」

 自ら地雷原に突っ込み、踏んでしまっている状態に陥っていることに気付かないままエキゾチックな美女は焦った。軽く注意したはずなのに相手は涙ぐんで強いショックを受けているように見えたからだ。実際、ダムが結界寸前のところで均衡を保っている状態であり、何かの一押しがあれば暴走が始まる状態なのだがそんな事を冥子の実態を知るはずはない。

「本当に?」

「こんな人ごみの中でよそ見しちゃ、危ないのよ。まだ私だったから良かったものの。他の受験生だったら、試験前でピリピリしているんだから危ないワケ。おわかり?」

「わかったわ〜」

 相手が大して怒っていない事をしった冥子はさっきまでの涙目が何だったのかと言うぐらいの笑顔で言った。エキゾチックな美女は知らずの内に踏みつけた地雷も不発で助かり、地雷原を抜けたのであった。ある意味これも勝負強さの運というものなのだろう。

「おたく、どっかで見たと思ったら、式神使いの六道冥子じゃない」

「私を知っているの〜?」

「まあ、あんな勝ち方をすれば嫌でも噂になって目立つワケ」

「あなたは〜?」

 口調も纏う雰囲気も違うがとても令子に似ていると冥子は感じてこのエキゾチックな美女の事を知りたくなった。

「わたし? …何れ勝ち上がっていけば知り合うか。私は小笠原エミよ。優勝狙っているからそのうち当たるわね」

「ええ〜っ!? お友達になってくれるかも〜と思ったのに〜」

「はぁ!? (…どうやったら、さっきのやり取りをそう取れるわけ!?)」

 冥子の言動にエミは今までの観察で得ていた冥子という人物像ががらがらと崩れ去った。内心で冥子の言動を分析するが口には出さなかった。これは勘と漠然と伝え聞いていた噂が本当の事じゃないかと疑い始めたからだ。

「だめぇ〜?」

「うっ!?」

 上目遣いに聴いてくる少し潤んだ瞳にエミは腰が引けた。エミや令子など独立心旺盛で勝気というか漢気ある女傑にとって冥子のような不安定な存在には母性というか父性というかを刺激されて弱いのである。

 じぃ〜っとみつめてくる冥子にエミは世知辛い世の中を知ってもなお、甘いといえる情を持っていた故に折れることになった。ただし、条件をつけて。これ以上、この娘に関わるのは碌な事にならないと警鐘がなっていたからだ。

「ふぅ〜、分かったわ。私と対戦して勝てたなら考えてあげてもいいわよ」

「ほんとぉ〜!! わ〜、ありがとう。エミちゃん」

 エミの言葉に感無量と冥子は抱きついた。

「わっ!? こらっ! 放すワケッ! それにエミちゃんてなんなワケ!? 私はまだ友達とは認めてないワケ!!」

 必死にはがそうとするも、意外に強い力で抱きしめられ放せずに居た。

 後にこの光景が令子、冥子、エミの百合な三角関係にあるという根も葉もないはずの噂話の根拠になっていくのは本人達のあずかり知らないことであった。


「何やってんのかしら、あの娘…」

 冥子たちの所作を遠めで視界に捉えたが、近寄ろうとは思わなかった。

「どうかしたのかい? 美神君」

「いいえ、先生。別に何でもありません」

 その様子は何でもないようには見えんのだがと先ほどままで令子が見ていた方向を見た。

「おやっ? 冥子君にあれは小笠原エミ君じゃないか。珍しい組み合わせだな」

「小笠原エミ? 知っているんですか?」

 唐巣が知っているという事はそれなりに能力を持った者と認識した令子は早速、情報収集を開始した。

「いや、まあ、それほど詳しくはないんだが高名な呪術師の弟子だった娘だ。美神君や冥子君と並んでGS協会では注目されている人物だ」

「へぇ…でも、聞いた事ないわね」

「そりゃあねぇ。今まで公の場で活動しているわけじゃなかったんだ。冥子君は別格として、美神君だって注目されているのは君が美知恵君の娘だからという事だしね」

「冥子は別格ってどういう事なんです?」

 唐巣の言葉にいたく令子は反応した。

「昨日も言ったように六道は様々な意味で規格外だという事だよ。六道グループの業界への影響力とか、式神が12体も居てそれを一人の霊能者が使役しているとかね? 式神の事に関してはかの有名な安部清明さえも凌ぐと言われているしねぇ…」

 弟子の自己掲示欲の強さにこれも母親を失ってしまったが故のアンバランスさかと苦笑しつつ言った

「確かにそう言われると」

 暗い道端に派手な照明でアピールしているようなもので嫌でも目に付いてしまうという事だ。影響力を考えれば自然と注目しておかねばならないだろう。

「やれやれ、別に因縁をつけているとかじゃないようだから一安心だな」

「えっ? それはどういう事ですか?」

「…今に分かる。分かってしまう事だ…」

「先生?」

 急に師が年老いたかのような表情を浮かべることに令子は戸惑った。一方の唐巣からすると冥子について殆ど何も知らないような弟子に対し本当のことを告げるべきか悩んでいた。

(…あれは災厄みたいなものか。とても手に負えるとも思えんしな。心構えがあったからといって対処できるかどうか…)

 結局のところ教えるのは止めて置くことにした。あれは話したからといって実感を持てるようなものではない。体験しなければ如何にまずいものか理解できないだろう。

「いや、何でもないよ」

「…」

 全然何でもないように見えるのだが師に突っ込むわけにも行かず、むむっとしたまま押し黙った。

「さて、そろそろ時間のはずだ。行こうか。今回の試合をクリアすればGSへの道を一歩、歩む事になる。気を抜かず確りいきなさい」

「はい(…何だかこのムカつきは戦って解消するしかないわね)」

 追求できない不満を対戦相手にぶつける事を令子は決めたのだった。そしてその結果は令子にあっさりとGS資格をもたらすのであった。

 ちなみに相手は名もなき炎の使い手であったのはどうででもいい話…なのか?


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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