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GS美神 リターン?

 Report File.0079 「お嬢様危険注意報!! その8」
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「まったく、こんな事は前代未聞だな」

「ああ、本当に…」

「あの噂はやっぱり本当なんでしょうな…」

「一次審査でこれだぞ? 大丈夫なのか?」

「さあな…。この辺のサポートは六道家がやってくれるって事なんだが、この調子じゃ、どこまでフォローできるのか…」

 GS試験運営関係者は暴風の去ったあとっぽい様になり、後続の審査が一時中断になってしまった第一次審査会場を呆然と眺めた。

「これだけの状態を作り上げるっていうの普通は無理だよな」

「さすが六道家か…」

「いや、唐巣君の所の秘蔵っ子も忘れちゃいかん」

「確かに。これは彼女達の能力の相乗効果だろうからね」

「そういや、もう一人注目株が居たな?」

「まあな、でもそっちはこんなに派手なことせずに無難に合格したよ」

「合格したという事はボーダー組よりは抜きんでていたという事だな」

「そういうことだ。まだ、余裕があったようだが押さえた…そういう印象を持ったよ。それだって最初から観察してなければ分からなかったな」

「ほう、目利きのあんたがな」

「ああ、そう言った方面での腕はまだまだだがプロ意識を既に持っているよ。研修などなくとも直ぐにGSとして活動できるだろうそう思ったね」

「なるほど、噂じゃあっち方面で既に活躍していたと聞いたがね」

「そんなもの、我々の職業柄から考えれば当たり前のようにある事だ。噂はどうあれ社会に貢献していたのなら別にかまわんよ」

「そうだな。我々が求めているのは究極的には霊能を悪用しない事、その一点だからな」

「そういうことだ。こんな惨状を築いた子達よりも、私はそっちの子を買うよ」


   *


「くしゅん」

「なんですか、冥子! 人が説教しているというのにそれはっ? 気が緩みすぎですよ」

「ごめんなさい、お母様」

「まったく、いくらなんでもさっきのはやりすぎですよ」

「は〜い」

 返事だけを聞けば全然、堪えているようには聞こえないが冥子の姿を見ればしゅんと沈んでいるように見えるので不思議である。

「まあまあ、おまえ、冥子も無事に一次審査を通ったんだから、良いじゃないか」

「まあ、あなた」「お父様っ! 来れたんですか〜?」

「はっ、はっ、はっ、娘が人生の岐路に立っているんだ様子を見に来なくてどうするか」

 秘書を2名従えて歩み寄り、鷹揚に笑って冥子の父は辺りを見回した。それとなく娘の相手になるやも知れぬものたちを観察した。

「…どうりで朝から執事筆頭の五十嵐ちゃんが居ないと思ったわ〜。お仕事、押し付けたのね〜」

「ほんの少しの間だけだよ。流石に一時間だけしか確保できなかったよ」

 妻のちょっとした非難も片目をつぶって軽く流した。

「じゃあ、もういくのね〜」

 移動の事を考えれば数分ぐらいしか居れないのだが、それでも来てくれた父親にがんばって成果を見せなくちゃと気合を入れた。もっとも、外見上全然変わり映えはなかったので周りのものには気づかれなかった。

「残念ながらね。冥子、本番はこれからなんだ気を抜いちゃいけないよ。冥子は式神達を信じていれば大丈夫だから」

 残念そうに言う娘を愛しく見つめて励ました。

「わかったの〜。お父様もお仕事がんばってね〜」

「ああ、ありがとう」

 そう言って冥子の父は会場から離れると付き従ってきた秘書達に振り向いた。秘書の一人がさっと書類を出すとそれを受け取り、しゃしゃっと滑らかに書き込むともう一人の秘書に渡した。

「チェックした人物の洗い出しを早急にフミさん達と連携し行ってくれたまえ」

「はい」

「特に問題がないようであれば交渉に入ってくれ。GSに合格したなら、六道家のバックアップを、しなかったなら職業の斡旋などを材料に確保してくれ。難航するようなら五十嵐君に相談するように」

「かしこまりました」

「では頼む」

 冥子の父は秘書の一人に言い残すと待機していた車に乗り込んだ。

「ふう…金持ちの婿になれば団扇で楽できると思ったんだがなぁ…どこで間違ったんだか」

「何か言いましたか?」

「言いやなんでもない。(はぁ…今度、暇を何とか作って唐巣君と飲もう…)」

 冥子の父親は無駄な事はしない、常に六道家を維持することに日々を費やすのであった。たとえ、そこに哀愁を伴おうとも…




「さあいいわね? お父さんも無理に時間を割いて来てくれたのよ〜? しっかりするのよ〜」

「は〜い」

 父親の苦労を知ってか知らずか、母娘達は極めてのんきであった。

「お嬢様、そろそろお時間です」

「あら、まあもうそんな時間? じゃあ、がんばるのよ〜」

「わかっているわ〜」

 冥子はメイドに試験会場まで誘導されていった。試合会場に近づくにつれ緊迫した雰囲気を否応にも感じた。それも当然といえる。その場には霊能者が軽く見ても200人近くは居るのだ。そんな霊能者達の試験への熱意などの感情が霊波に乗って会場を支配しているのた。

「ではお嬢様、がんばってください。料理長はお嬢様の為にお好きなものを用意しておりますとの伝言もありますので」

「本当〜? がんばるわ〜」

 冥子はメイドの言葉にるんるん気分で会場へ向かう。その途中、一次試験を突破し、二次試験を受けるもの達と一緒になってくるとぴりぴりとした空気に冥子はテンションが下がり、おどおどとし始めた。

動きがとろく周りとテンポが違うため、選手の一人とぶつかってしまった。これがまた運が悪い事に、ガタイがいい上に強面なやつだった。

「ひっ!」

 強面の男はか弱い女の子にぶつかられた位で、腹が立つような狭量ではなかったらしく大して気にせずちらりと見ただけなのだが、見られた側である冥子にはギラリと睨まれた様に感じた。つまり…

−−惨劇へのカウントダウン開始

    3










   2









 1









「あら、あんたは」

 あと、おそらくコンマ何秒というところで救いの女神が現れたのだった。

「!」

「ふーん、ちゃんと私の言う事、聞いてくれてたのね」

 あんまり、言うこと聞かなさそうなわがまま娘に思えていたので意外だったわと感心した。

「…あの〜、あなたは〜」

「そういえば名乗ってはいなかったわね。まあ、同じGS試験を受けているよしみという事でいいか。私は美神令子。あなたは?」

「私は六道冥子よ〜」

「そう…? 六道? どこかで聞いたような…まっ、いっか」

 何か引っかかったが試験前なので余計な事と軽く流してしまった事に後の令子は頭を抱え後悔しまくった。この頃の令子はGS業界の情報よりも、実践で役立つ知識を学ぶ事に専念していた。その為、六道の何たるかを知る事はなかったのだ。知っていたのも霊能科がある六道女学院といった程度であり、六道と名乗るからにはその関係者だろう程度にしか思えなかったのだ。知っていたのも一応中学のとき進学先として検討していたからだ。

 一方、冥子のほうはというと普通、名乗れば引くなり避けるなりの態度を何時もとられるのが、目の前の美神令子はそんな彼ら彼女達とは違っていた事に感動した。

「あの〜お友達になってくれる〜?」

 おそるおそる冥子は令子を上目遣いで見やった。

「うっ、べ、別にいいわよ。友達くらい…」

 小動物のような冥子の様子に断るのはなんだか虐めている様で気が引けついつい、OKと言ってしまった。もともと姉御肌な所があり、面倒見もいいのもあったのだろう。ついつい、保護欲に駆られてしまったのだ。

 この件は令子が人生を振り返ったとき人生最大の失敗だったと語るだろうというぐらいの出来事になってしまったのはいうまでもない。だが、令子は認めたくないだろうがポットでのGSがトップへと躍り出たのも実のところ、冥子と知り合ったからともいえるのだ。何れトップになれたとしてもいま少し時間が必要であっただろう。そういう意味で強運故に知り合う事になってしまったといえるかもしれない。

「わぁ〜、ありがとう〜。令子ちゃん」

「ちゃ、ちゃん!?」

 いきなりのちゃん付けに、ここ最近はされていなかったから令子は戸惑った。よく呼ばれたのは亡くなった母親ぐらいだけに余計に。

「だめぇ〜?」

「…ふぅ、いいわよ。呼び方くらい」

 潤んだ子犬の瞳のように見つめる冥子に令子は根負けした。

「ありがと〜」

 初めてのお友達ができた〜と冥子はGS試験への不安など消し飛び、もう今日は人生最良の日とばかりに喜んだ。

「私は冥子って呼ぶわよ。それでもいい?」

 令子自身は超がつく上昇志向ゆえにか無意識にこの手間の掛かりそうな娘を呼び捨てにする事を選択していた。

「うん、いいわよ〜」

「まあ、とりあえず、GS試験で万が一ぶち当たっても恨みっこなしよ」

「ええ〜!? 令子ちゃんと戦うの〜。心の準備が〜」

「ええい、ちゃんと話を聞かんか! この娘はー! 万が一って言ったでしょうが」

「ふぇ〜ん。怒っちゃいやん」

「誰も怒っちゃいないわよ(はぁ…、疲れる。選択誤っちゃったかな…)いい? 万が一なの。私の霊感じゃ、あんたとはGS資格を取った後ね」

 すがり付いてきた冥子に令子は対処を窮してしまった。しかし、当事者だから分からなかったのかもしれない。そこに百合っぽい香りが漂っていた。それがやっかみも兼ねて流される事になった変な噂の元ねたとなったのであった。

「さあ、いくわよ」

「は〜い!」

 令子は冥子を付き従えて試験会場の入り口を抜けた。途端に会場のざわめきとアナウンスが流れていた。どうやら試験会場の入り口を境に結界が敷かれているようであった

『あいててよかった、厄ー珍ー』

ドガッ

『…ご来場の皆様、お耳汚しを失礼しました』

「ふ−ん、試合場と試験会場とで二重の結界を張って、外への霊的影響を最小限に抑えているのね。そんな大規模な結界を晴れる霊具っていくらぐらいなのかしら」

「確か、百億くらいかけたってお母様が言っていたわ。それより、あのおじさん、大丈夫かしら〜?」

 会場の2階の観客席のフェンスに頭から血を流し、ぶら下がるように垂れ伏す小男を冥子は見上げていた。

「大丈夫でしょ。先生から毎年、ああだって聞いた覚えがあるわ…ってちょっと、さっき百億とか言わなかった!?」

「うん、毎年、試験会場として使うなら、一層のこと効率よくしようって、設計から何から全部、やったって聞いたわ〜」

「GS協会ってお金持ってるのね」

「どっちかっていうとぉ〜、有力な所がお金出し合ったみたい。その内半分以上は家が出したって言ってたわ〜」

「半分って五十億…すごっ!?」

「でも〜、一流どころなら、一度の除霊ですごく危険だけど一億ぐらい稼ぐって言っていたわ〜」

「い、一億もっ!?」

 この時、冥子の言葉が令子のGSでの報酬の価値観を衝撃とともに変えたのであった。

「どうしたの〜? 令子ちゃ〜ん」

「くっ、くっ、くっ、俄然やる気出て来たわ。ふっふっふっ、必ずGS資格を取得して、がっぽり稼いで見せるわっ!」

 ぐぐぐぅっと拳を握り締めて令子は気合充実というか爆発といった状態だった。

「わぁ〜、令子ちゃん。張り切っているわ〜。私もがんばろ〜」

 こうして彼女たちのGS資格取得への挑戦は始まった。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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