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GS美神 リターン?

 Report File.0063 「横島の学校生活 その8 〜 大人への道は後何段?」
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 今日は長い夏休みの中でも学校に来なければならない登校日だった。本来なら時間ギリギリに来るはずの横島はキヌと出会ってより、規則正しく寝起きするようになった。そのお陰で十分に余裕をもって登校することになり、教室に着くとまだクラスメートは数人しか居なかった。

「おはよう…」

 その場に居るクラスメートにいつもなら、元気よく挨拶するはずの横島が、か細い声で挨拶をした。

「お、おはよう…」

 横島の雰囲気に引きづられて、クラスメートの返事も元気の無い挨拶となってしまった。そして良く見ると何だか、げそっとしており、顔色が悪かった。横島はそのまま力ない足取りで自分の席に着くと机にぐったりと上半身を投げ出して突っ伏した。その様子にクラスメートは奇異の目で見てしまった。普段、無駄にテンションの高い奴が意気消沈としているのである何があったのか気になる所であった。

 クラスメート達が横島の様子に顔を見合わせて、少し心配になって話し掛けようか、掛けまいかと迷った。丁度その時、めがねを掛けた友人Aが教室に入ってきた。

 友人Aはその場の雰囲気に違和感を感じ、首を回して教室を見渡した。それでようやくクラスメート達の視線が机に伏せている横島に集中して注がれていることに気が付いた。

 クラスメートの態度に一体何があったのかとも思ったが、それ程気にすることもないだろうと友人Aは横島の席の前に座って、にこやかに横島に声を掛けた。

「おう、横島、久しぶりだな。目的は達成できたか? って何だ? 疲れた顔して夏ばてか?」

 最初はにこやかに話し掛ける友人Aだが横島の様子に怪訝そうにした。

 いつもなら同じような状態でも何らかのリアクションが直ぐに返ってくるのだがそれも無かった。何時までも顔を上げることなく顔を伏せたままだった。

「おい、本当に大丈夫か。それより、今日はおキヌちゃんは来ていないのか?」

 キョロキョロと友人Aは教室を見渡すが、幾人かのクラスメートが居るだけで、お目当ての幽霊の少女キヌは見当たらなかった。変わりに掃除道具の入ったロッカーの上の巣で、あくびをしているグリンを発見しただけだ。

「ああ、ちょっと昨日は家が大変なことになってな。おキヌちゃんはその片づけで来てない…」

 友人Aの質問には答えたものの相変わらず顔を伏せたままなので声はくぐもっていた。

「何があったんだよ?」

 そいつは残念だなーと友人Aは内心では思ったが顔には出さず興味本位に聞いてみた。

「昨日の夕方さあ、リゾート地での仕事が終わって…」

「何? リゾート地だと!?」

 どっちかというと、そのリゾート地に関しての方を知りたいような気がしたが、それでは話が進まないと思い直し促した。もちろん、リゾート地のことについては後で確認することを心に留めおいた。

「ん? まあな。で、家に戻って、いざドアを開けたらなジャングルになってたんだよ…」

 ありゃあ、すごかったなーとやっとこさ顔を上げた横島が感慨深げにつぶやいた。

「ジャ、ジャングル!?」

 そういう話が飛び出してくるとは思わなかった友人Aは素直に驚いた。

「ああ、はじめは間違えたかと思って慌てて、玄関の表札を確認したら、ちゃんと[横島]だったからな、間違いじゃなかった。夢幻かとも思って、もう一度、覗いてみたけどやっぱりジャングル状態だったんだ」

「な、何でそうなったんだ?」

 にわかには信じられない。しかし、横島は馬鹿な行動はするが、そういった類のホラ話をするような奴ではなかったので、友人Aは嘘だろと頭から否定することはできなかった。特に最近は横島がゴーストスイーパーに弟子入りしている事もあって、その時の話を聞いていたりすると、そう言った不可思議なことにぶち当たっても、ありえるかもしれんとも思えたのだ。

「最初は俺もわからんかった。もちろんおキヌちゃんもな? で、覗き込んでいたら奥のほうで何かがもぞもぞ動いていたんだ」

「そ、それで?」

 ごくっと唾を飲み込んで友人Aは話を即した。聞いているとホラーである。いくら夏は怪談話がもて囃されるといってもリアルではごめんだろう。

「まあ、俺も一応GSを志す身だからな、一応、[栄光の手]っていう霊への攻撃手段があるんで、それを出して警戒しながら部屋に入ったんだ。そしたらな…居たんだ」

「「な、何が?」」

 ゴクッと友人A、それにいつの間にやら聞き耳を立てていたクラスメートが固唾を飲んだ後、身を乗り出して聞いた。

「半裸のねーちゃんが…」

ズタン!

 その場にいた横島以外の者がずっこけた。その後はお約束どおりだった。そんな中、その時を思い出したのか、顔色が少し戻っていた。

「おいっ! 今までの緊張感は何だったんだ!? それ何より半裸のおねーさんとはどういうことだ!? ま、まさか貴様、その後、大人への階段を登っちまったのか!?」

「もう、心配して損したじゃない」

「馬鹿にすんなよ!」

「何事かと思ったらもう」

 等など口々に言いながら、横島は袋叩きにされた。

「ちょ、ちょっと、ちょっと待てい! は、話を最後まで…」

 袋叩きにされる中、横島は主張するのだが、聞き入れられる事無くみんなが気の済むまで行われた。


「…でもな、そのねーちゃんは人間じゃなかったんだよ。暗がりだったからはじめは人間に見えたんだけどな。でも、俺の部屋にそんなねーちゃんが居るのは不自然だろ?」

「まあな」

 友人Aは即座に認め、他のクラスメートも刻々と頷いて肯定した。みんなのそんな反応に横島はちょっぴり悲しくなった。

「畜生目っ! …でな、よくよく注意してみると頭に髪じゃなくて、葉っぱを生やしていたし、後から明かりをつけて見ると肌も緑だったしな」

「なんだよ、それを早くいえよ」

 袋叩きが済んでから、3分と経たずに横島は復活し、何事もなかったように続きを話し始めていた。その辺はいつもの事なので友人A達は驚きもせずに聞き始めた。

 そうじゃなかったのはクラスメートではない者だった。たまたま友達と話すためにこの教室に訪れていたものが、若干一名ほど居たのだが横島の実態を知らず、いきなり始まった袋叩きに呆然とし、その後に平然と起き上がった横島に、信じられないものを見たと失神するという事態を引き起こしていた。

 横島はその子に多少気の毒にと思いながらも、話を続けることにした。そう言うことは夏休みに入る前にもあった事だった。悲しいかな、いい加減慣れてしまった。気絶する人間がいることにか、己の人間離れした回復力にかは分からないが。

「まあ、一応、人型だから話せるのかと思って問いただしたらさ…」

 友人たちに話しながらその時の事を横島は思い出した。


     *


「てめえ、人の部屋で何してやがるんだ!」

 横島は威勢良く部屋に飛び込むと[栄光の手]を構えて、動くものに言い放った。横島の目に暗がりながら、女性特有の丸みを帯びたシルエットを見た。それから構えていた[栄光の手]の輝きによる僅かながらの明かりでその者の胸のあたりに大きなふくらみを二つが視界に入った。

「な、なまちちーっ!」

ブッ!

 横島は思わず鼻血を噴出させ、[栄光の手]がさらに強く光り輝いた。そのお陰で対峙していた者の全体像が見えた。

「こ、こいつは!」

 吹き出る鼻血を空いている左手で抑えながらも、警戒した。何故ならそこに居たのはかつてキヌとであった人骨温泉にて襲われた化け物、シズモであった。上半身は女性のようで下半身は蔓状の妖怪の一種だ。

(や、やばい! こいつは今の俺じゃ勝てん!)

 横島に戦慄が走った。それはそうだ、自分の師匠である令子がやっとこさ倒せた妖怪である。未熟な自分が敵うような相手ではなかった。

 死津喪はゆっくりと横島の方を向いた。

(ま、まずい! どないしょ、このままだと待っているのは、死!)

 体に震えがきて横島は足よ動けと、懸命に動かそうとしたが、その意志に反して首から下を砂で埋められたかのように、梃子でも動かなかった。

”はぅ! よ、横島さん…”

 横島の後に憑いてきていたキヌもガタガタと震え恐怖に横島の肩にしがみついたまま動けなかった。

「みぃ!」

パチン

 グリンだけは事態をよくわかっていないのか、パタパタと飛び、電灯のスイッチを入れた。その途端、部屋は明るさを取り戻した。

「うわっ!」”きゃっ!”

 敵を前にして愚かにも驚き、反射的に目をつぶって隙を作ってしまった。

 しまった! と横島は後悔しながらも身構えた。

 しかし、予想された攻撃は来なかった。

”「へっ!?」”

 恐る恐る目を開けると相手は目をパチクリとさせ一言、横島に言った。

『何をしておるのじゃ? ぬし?』

「はい? …ぬし? (…主?) …主っですとぉ!?」

 死津喪の言葉に横島は混乱した。

”ぬ、ぬしですか!?”

 キヌもついていけてないようであった。

「みぃ〜〜〜っ!」

 わかっているのかいないのか、グリンだけは陽気に鳴き声をあげた。


”…じゃあ、えーと”

『とりあえず、死津喪でいいぞ』

”じゃあ、死津喪さんは別に私達に敵意はないと?”

『そうじゃな、わしがここに居るのもぬしのおかげじゃしの』

「どういうこった?」

『この場で言っていいのか?』

 にたーっと笑う死津喪に横島は何となく嫌な予感がした。

「ええと…」

”どういう事です?”

『そこな幽霊が』

”すいません。私、キヌって言います”

『うむ、キヌがわしを芽吹かせようとしておったようだが』

”えっ? それって”

 先日、キヌが横島の上着から見つけた種を鉢に植えたのを思い出した。中々、発芽しないので首を傾げたが時間が掛かるのもあるのだろうと様子を見ていたのだ。

『そう、わしはその種じゃ。でな、わしは普通の植物と同じような方法では育たんのじゃ』

”水をやったりしただけじゃダメなんですか?”

『うむ、わしは霊的な存在、地の精じゃからな。霊的なエネルギーを摂取せねば発芽できんのじゃ。だから普通は種を作った親にあたる存在に与えられる。それとは違うなら神木として扱われる古い木か、死体に寄生するのじゃ』

”へえー、そうなんですか”

『その時の発芽するあり方でわしの方向性が決まる。古い木であれば正邪に中立な精霊に近いものに、死体なら負のエネルギーを取り込むために邪霊になるのじゃ。死津喪という名もそれが由来じゃな』

 なるほど、自分が戦った死津喪はワンダーホーゲルの死体に取り憑いていたから、あんな風に襲ってきたのかと横島は納得した。確かに目の前の死津喪からは前に襲われた死津喪と違って妖気を感じなかった。それに表情からも険がとれているし、自分よりも大きかった気がするが目の前の死津喪は少し小さい。

”あの、親の場合はどうなるんですか?”

『親の場合は少し違ってくる。親にエネルギーを与えられた場合はその性質、記憶などが受け継がれる。よってほとんど同一存在となるわけじゃな。わしは親という存在から霊的なエネルギーを受けたわけではないから基本的な知識しか知らん』

”じゃあ、あなたはどうやって?”

 キヌが目の前の死津喪がどうやって発芽するにいたったのかわからなかったので聞いた。ここにはさっき死津喪が説明したようなもの…霊的なエネルギー源は無いのだ。

(あれっ? なんか忘れているような気が…)

 横島は首を傾げて記憶を探った。

 死津喪がちらりと横島を見つめた後、口を開いた。

『ぬしのせ…』

「わーまてぃ!」

 死津喪が口を開きかけたのを横島は手で無理矢理押さえた。横島の慌てぶりにキヌは怪訝そうな顔をした。当の横島はというと心当たりが有ったのか大変うろたえまくっていた。

”どうしたんですか?”

「いや、なんでもないんだよ。オキヌチャン…」

『むがむが』

 死津喪は口を押さえられているため、思うように喋れなかった。

「…なあ、やっぱりアレなのか?」

 横島が小声で死津喪に問い、意を察した死津喪はこくこくと頷いた。

「Nooooooooooow!!」

 やっぱりそうなのかと横島はムンクの叫びをあげた。その拍子に死津喪は解放された。

”ど、どうしたんですか!?”

 キヌは横島の突然の狂態に驚愕した。しばらくすると横島は真っ白な灰になり、固まった。

『まあ、わしとしても発芽したからには生きる権利があるわけじゃ。というわけでぬし、ご飯をくれ』

”ご飯っていってもさっきの通りだと霊的なエネルギーですよね?”

 キヌは横島を落ち着かせようと麦茶を出した。横島は反射的に麦茶を飲みだした。

『そうじゃ、部屋がかような惨状になっているのはわしが霊的なエネルギーを求めてなのじゃ。一番ありそうなゴミ箱は…』

「ぶっ!!」

 横島は飲んでいた麦茶を噴出した。

”? 何で霊的なエネルギーがゴミ箱にあるんですか?”

『ん? それはな、ぬしが自家…』

「わーっ!」

 横島はまたもや死津喪の口を手で塞いだ。

”ど、どうしたんです”

「いや、何でもない。何でもないんだ…」

 横島は幽霊だけど清純という言葉を地でいくキヌには知られたくなかった。死津喪が発芽した霊的なエネルギー源が自分が自家発電したときの産業廃棄物とは。

 要するに死津喪が発芽したのは横島の性の…いや生のエネルギーだったのである。何故そうなったかといえば、キヌとはほとんど四六時中一緒に過ごす為、健全? たる煩悩少年には煩悩を発散させることができず、かなりきついものがあった。

 そこでこの煩悩を発散させるべくキヌがグリンを連れ立って買い物に出かけた隙に自家発電を行ったのであるが、夢中になりすぎてもう少しという所でキヌ達が帰ってくる気配を感じて慌ててしまった。その拍子に勢いよく産業廃棄物は吐き出され、運悪く(運良く?)死津喪の種を植えた鉢植えに掛かったのだ。

 処分しようとも思ったのだが慌てていたこともあってズボンをあげるのに手間取ったりとごまかすのがやっとだった。キヌが料理に取り掛かった隙に後始末をしようと鉢植えを見たが、なぜかそこには何も無かった。何だ? と首を捻ったものだが、まさか死津喪が吸収していたとは思わなかったのだ。

 ゴミ箱というのはその後に何度か機会があった時に始末したものを捨てていたから、それから霊的なエネルギー得ようとしたからだろう。

 横島としては面と向かってそんなものをくれといわれても、幾ら煩悩少年でも嫌だった。とにかくこれは死津喪と二人で話し合う必要があると横島は判断した。

「お、おキヌちゃん、悪いけど夕飯の買い物に行ってくれないかな?」

”それだったら、一応冷蔵庫に材料がありますから大丈夫ですよ?”

(まずい…)

 キヌの言葉に横島は焦り、頭をフル回転させこの窮地を乗り切ろうとした。

「そ、そう、急にそうめんが食べたくなったんだ。お願いするよ」

”そうなんですか? わかりました。でも、お二人で大丈夫なんですか?”

「大丈夫だよ。別に襲われるわけじゃないし」

 横島は素直に信じるキヌに胸が痛んだ。

”じゃあ、いってきます!”

「みっ!」

”グリンちゃんも来るの?”

「み〜!」

 キヌとグリンはお買い物籠を持って出っていった。

「………」『………』

 しばし、残った二人は無言で見送った。

「おい、本当にあれじゃないとダメなのか?」

『霊的なエネルギーであれば良いが発芽した時の状態を考えるとぬしの精が一番じゃな』

 死津喪の言葉に横島はガクッときた。こうなった事態は自分自身が引き起こしたので何とも言えぬ想いが湧き出ていた。

『まあ、精霊石とかでも良いが、ぬしの経済を鑑みるにわしのご飯とするには高価すぎるであろう』

「くっ!」

 確かに精霊石にもピンからキリまであるとはいえ、グレードの低いものでも十万単位だ。たまに万単位もあるみたいだがそんなのはほとんど使い道がない。

『というわけで、あきらめて精を出すのじゃ』

 死津喪はガシッと横島の肩を掴んでいった。

「できるかーーっ!! あほーーっ!!」

『ふむ? なんじゃ? 恥ずかしがらんでも何時もやっているようにすればいいのじゃ』

「見られながらできるもんじゃないわっ!! このボケッ!!」

『今更、気にする必要なんか無いであろうに。今まで何度かわしの前でやっておるのじゃから』

ズガッ!!

 横島は死津喪の答えに横島はちゃぶ台に頭を打ち付け、かなりのショックを受けた。

『まあ、あれじゃな。身内に見られてしまった時のようなものじゃな』

「くそーーーっ!!」

 がばっと起き上がると滂沱の川のごとく涙を流しながら横島は叫んだ。

『ほれ、それよりも早くするのじゃ。でなければあの小娘が帰って来るぞえ?』

「ううーー」

『唸ってもダメなのじゃ。わしの命がかかっているのじゃ。あきらめい』

「しくしく」

『よし、わかった。わしも手伝ってやろう』

「はっ!?」

『どう手伝って欲しい? 手か? お口か? まさかこの胸かえ?』

 死津喪はその言葉にジェスチャーを加えて言った。

ぶはっ

 死津喪の言葉に横島は鼻血を噴いた。

(お、落ち着け…落ち着くんや! 相手は植物何やぞ? 何、欲情してるんだっ!?)

 もう、何だか人間止めますかーっ!? と思いながら流れ出る鼻血をとめるべく慌てて鼻を押さえつつ、チラッと死津喪を見た。死津喪は横島が自分を見ているとクスッと笑い両胸をたわわんと持ち上げた。

プチッ

 何かが切れる音が聞こえた。


          *
          *
   この間はご想像におまかせ!!
          *
          *

”ただいまっ!”「みぃ〜〜〜」

 キヌとグリンがかえってくるとがっくりと両手両膝を地についた横島がいた。

「ふふ、俺って奴は…俺って…」

 何やらショックを受けて横島はぶつぶつと呟いていた。死津喪はというと鉢植えのサイズにあった大きさになっており、キヌが出るまで部屋全体がジャングルのようになっていた蔓や葉が無くなっていた。だがそれで部屋が片付いたわけではないのでえらい惨状のままだ。

”よ、横島さん!?”

『放って置いてやるが良い。かなりショックを受けたようじゃしな』

 横島に声を掛けるキヌを死津喪は止めた。妙に買い物に出かける前に比べて肌が艶やかになり、元気良さそうであった。

”あのー何があったんですか?”

『何かを得て何かを失ったという事かのう…』

 自分が原因だというのに死津喪は淡々と答えた。

”はあ…”

『ぬしを元気付ける為にもおいしいものを作ってやるがよい。夏ばて防止に精のつくものもな(わしの為にも)』

”はあ…わかりました”

 キヌは要領を得ないものの、横島の様子に死津喪の言うことももっともだと夕飯の準備に入った。

「しょうがなかったんやー、気持ちよかったんやー」

 キヌには聞こえぬほどか細い声で横島は呟いた。


     *


「とまあ、そういうわけでなし崩し的に同居人が増えた」

 言っては都合の悪い所は当然ながら伏せて隠蔽し、捏造しながら横島は語った。元気がないのは未だ精神的再建ができていないからだ。話し終えた横島はでも今更ながら何だよな…と考え込んだ。

「みなさん、おはようございます」

「おう! ピート、おはよう」「ピートさん、おはよう」

 丁度、話を終えた所でピートが登校してきた。

「どうしたんです?」

 ピートは横島が元気がないことに気が付いて近寄ってきた。

「ん? なんだか訳の分からん同居人が増えたらしい」

「そうなんですか? 僕はてっきり、リゾート地で遊びまわって疲れたのかと思いましたよ」

「「「リゾート地で疲れたっ!?」」」

 ピートの言葉に横島の友人達は過剰反応した。

「ま、まさかっ!?」

「横島! おまえ、まさかおいしい目に有って来たんじゃないだろうなあ?」

「お前、自分だけ大人の階段を登ったんじゃないだろうな?」

「くっ、くっ、くっ、あっ、はっはっはっ」

 友人達が問い詰める中、突然、横島は笑い出した。その挙動に友人達は引いた。

(そうだよ、そうだよな。別に霊だろうが妖怪だろうが植物だろうが女には違いないんだよな)

 他人に話し、友人達の会話を聞いているうちに考えがまとまって、落ち込んでいた自分が馬鹿らしくなった。前向きに考えればおいしい話じゃないかそう思えたのである。が、タイミングが悪かった。

「ほ、本当なのかっ!!」

「畜生っ! 横島の奴、抜け駆けしやがって!!」

「「「何ですと!」」」

「おキヌちゃんはどうする気よ!」

 等々、誤解は誤解を呼び、教室はクラスメート達の絶叫で満たされた。

「うわっ! ちょ、ちょっと!? 何なんだ!?」

 横島にとって何が原因でこの流れになったのか理解できぬまま、恒例のシバキ大会が始ってしまった。ある意味、何段か登ったので友人達の思い込みもまったくの嘘ではない。

「ああっ、よ、横島さん…ご、ごめんなさい」

 まさか自分の言葉が引き金になるとは思いもよらずピートは己の行為に懺悔した。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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