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GS美神 リターン?

 Report File.0056 「海から来た者 その9」
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 さて、作戦タイムが終了し再開されようとした時、「ちょっと待った!」と横槍を入れる者が現れた。

「ああっ!? MHKシスターズ!」

 一番に声をあげたのは観戦していた者達である。彼女たちMHKシスターズは中々際どいビキニでセクシーさを醸し出していた。

<はーい、みなさん、こんにちはぁ! MHKシスターズのぉ大島花音とぉ>

<小波安奈で、お送りします>

 いきなり周りに笑顔で手を振りレポートを始めた事に、当事者を含めその場にいたものはMHK関係者以外戸惑った。

「あのーもしもし?」

 流石の令子も戸惑いを隠せずに問い掛けた。

<あっ! 美神令子さんじゃないですかぁ! お久しぶりでぇす>

 黒い長い髪で垂れ目ぎみな女性が今気がついたとばかりに、相変わらず甘ったるい喋り方で答えた。その女性はMHKシスターズのリーダー大島花音である。

 因みに手にはマイクを持ったまま離さなかったので周囲に彼女の言葉は伝わった。お陰で観衆たちに「おお、あの美人、美神令子って言うのか」とか「どっかで聞いた事有るわ!」とか知れ渡ってしまった。

 その事に気付いた花音は、てへっ、失敗失敗とマイクのスイッチを切って令子に謝った。

「失敗じゃないでしょ!」

 こんな事で名前が知られてしまった令子は不機嫌になった。

「ぐすん…悪気があったぁ、わけじゃないのにぃ…」

 そんな涙ぐむ花音に両手を広げながら、きらきらとしたばっくを背負い横島が花音に近づいた。

「やあ、マイ・ハニー。僕の胸に飛び込んでおいで。なぐ」

ぼかっ!!

「あほかーーっ! 全国区に恥を晒す気かーーっ!」

 別段、カメラが回っているわけではないが自分の評判にも繋がるので、令子はかかと落しを見事に決め、そのまま頭を踏みつけた。その見事な一撃とその流れるような動作におおっと周りから歓声がもれた。中にはおひねりまで出しているものまで居る始末であった。

「だ、大丈夫?」

 令子が花音から事情を聞き始めた時、最初の挨拶以来、黙っていた茶髪のリポーター小波安奈が血濡れで倒れている横島を覗き込んだ。

ブフッ!

「きゃっ!」

 新たに血を噴出した横島に安奈は驚いた。

(いいもん見せてもろた…)

 横島は安奈の見せたセクシーショットに気が遠くなりながらも、満足感を得て笑みを浮かべていた。

「ちょ、ちょっと大丈夫!? えーと横島さん!?」

 そんな様子の横島が異常な状態と目に映った安奈は焦り、横島の安否を気遣うために更に近づいて様子を見ようとした為に、ざらにズームアップされる事になり、事態は悪化した。

『はい、嬢ちゃん。ちょっとどいてや〜』

「あっ! はい!?」

ピシッ!

 横島の肩を掴んで焦っていた安奈は声を掛けられそちらの方を振り向いて固まった。そこには手足の生えた巨大なスケトウダラが間近に立っていたからだ。その背後に半魚人も居たからかもしれない。

『いや、まあなんや。そげな反応されると、一寸傷つくんやけど…』

 ポリポリとえらの所を掻いたスケはただいま昇天中の横島を安奈から回収した。

『横島どん、しっかりするだ! ここで倒れては後のバラ色タイムが楽しめなくなるだよ!』

 カクはそう言って活を入れた

「うっ!」

『大丈夫だか?』

「ああ、多分。えーと、確か…」

 横島は少し混乱しているようだったが何とか復帰できたようだった。

「…というわけでぇ、この付近で取材していた私達にぃ、面白い事をぉ始めようとしているってぇ、情報が入ってぇ駆けつけてきたわけですぅ」

「なるほど(侮れないわね、MHK情報網)」

 彼女たちがやって来た事の経緯を聞いて令子はとりあえず納得する事にした。

「はい、そうですぅ」

「取材費でるんでしょうね?」

 観衆から見物料取ろうかしらと言っていた位だったので、テレビ取材までされるなら、金でも貰わないとやってられないと鋭い目で聞いた。

「えぇーと、安奈ちゃーん」

 あまりの威圧に押しつぶされそうになって、花音は固まっていた安奈に助けを求めた。他の取材スタッフは準備作業に追われて、そこまで手が回らないのだ。

「な、何!?」

 花音の呼びかけにようやく安奈は現世に復帰した。

「撮影対象にぃギャラってぇ出るんだっけ?」

 困惑の混じった笑顔を浮かべて花音は安奈に聞いた。

「えーと…多分…でもプロデューサーに聞かないと正確にわからない」

 報酬が出るのかは安奈にも分からなかった。そう言えばと花音と話していた美神令子について思い出す。一度だけ一緒に仕事をしたわけだがあの後、その仕事での令子の報酬が10億円と聞いてびっくりした覚えがある。それと共に嫌悪感も。というのも結局、あの仕事では危険な目に遭ったのは横島だけで、令子は(素人目には)何もしていないように思えたからだ。それできっちりと高額の報酬を受け取る神経を疑ってしまったのだ。

 安奈は内心ではまたお金? と嫌悪したが伊達に芸能界の荒波にもまれていないのか表情には出さず、無難にプロデューサーに聞くように話をふった。

「だ、そうですぅ」

 花音は令子にそう答えた。表面はどうあれ花音もまた自分と同じような事を思っていると安奈は花音の細かい仕種から読んだ。

「プロデューサーはどこに居るの?」

 令子は花音に問いただしてプロデューサーの方へ向かった。そんな令子を見送り、花音も安奈も同時にため息を吐いた。そのあまりのタイミングの良さに二人は顔を見合わせ、なんだか可笑しくなって苦笑しあった。

『しかし、いいんやろか?』

『何が?』

 腕組みしてMHK撮影スタッフを見やるスケの問いにヒデは答えた。

『陸のやつらのテレビ撮影とやらだべか? オラ達のものとは少し違うだな』

 カクはスケの懸念とはずれた事を言って物珍しそうに見やった。

『まあ、別に良いと思うけど。こっちには実害ないし』

『だが、これが切っ掛けで厄介事が起きたら、目も当てられん』

『その時はその時だと…心配しすぎだと思います』

 男達はMHKの取材については余り良くは思わなかったものの、止めなければならない程の理由も無かった為、傍観する事にした。

 ただ、男達中でも唯一人、陸の者はと言うと…

「ぐふふ、テレビ…これで俺が大活躍すれば」

 横島の脳内にきゃあきゃあと騒がれ、美女に取り囲まれる映像が浮かび上がって、うへへと悦に入っていた。

 何だかんだで臨時解説席が設置され、試合が再開された。

 令子は元々期待していなかった報酬の件を交渉の末、彼女の感覚では端金とはいえ報酬が出ると確約を貰い、少しだけ機嫌が良かった。その代わりにMHKのプロデューサーが苦りきった顔をしていた。

<さあ、ビーチボールを再開しますぅ。今の所はぁ4対1とぉナミコ・令子組がぁ有利に進めておりますぅ>

 相変わらず舌足らずな口調で花音が解説する。本当は日射血暴流なのだがその辺を理解できていないのかもしれない。知らなければちょっと変わったビーチボールに見えるのは確かであるから。

<はい、実況はMHKシスターズの小波安奈と>

<大島花音でぇ>

<お送りします。なお解説は厄ち…>

<創業38年!! 親切丁寧、オカルトアイテムなら何でもそろうよ! 信頼のブランド厄珍堂店主、厄珍がお送りするあるよっ!!>

 マイクを固定台ごと掴み机の上に片足を乗せて小柄でサングラスを掛け八の字の髭を生やした貧相で小柄な中年のおっさんが叫んだ。

ズシャァーー!

 解説をすると紹介されて聞こえてきた男の声に令子は砂を巻き上げて派手にこけた。

「や、厄珍!! 何であんたがここに!」

 あまりにも唐突な現れ方に令子は指差して驚いた。

<おお! 令子ちゃん、久しぶりね! いつ見てもいいーーっ! たまんねーあるなーー!!>

 厄珍と呼ばれた男は令子の水着姿をジロジロ見て、ニヤついた。

ドガッ!

「ジロジロ見んな! 殴るわよ!!」

<…も、もう…殴っているあるね…>

 厄珍が殴られてもなお手を離さなかったマイクから、か細い声が伝えられ、ガクッと頭を垂れた。

<ああっ! 厄珍さん、大丈夫ですかぁ!!>

 花音が気絶している厄珍を介抱しようとした。当の本人は

(令子ちゃんに殴られたのは痛かったあるが花音ちゃんの胸を間近に見れたのはラッキーあるよ…けっこう胸あるね)

 等と痛い目にあった元を取ろうと狸寝入りしていた。何と言っても厄珍は大きめのサングラスを掛けているので、花音は目が開いていても気づかないのだ。

「…何だ? あのおっさん…(何か行動見ていたら他人とは思えんなぁ…)」

 令子の態度から殴られたおっさんが知り合いのようだと知ったが、横島は何だか厄珍の行動に親近感を覚えてしまった。

”えーと、美神さんが確か厄珍とか言ってましたね?”

 キヌはどこかで聞いたようなと指を口に当てて考え込んだ。

「厄珍…? どこかで聞いた名だな…」

 基本的になじみの無い男の名前はあんまり覚えない横島だが厄珍という名前にはどこか引っかかり、キヌと同じように考え込んだ。

”あー! わかりましたっ! ほら、美神さんがいつもお札とかを購入している所の人じゃないですか?”

 しばらく考え込んで心当たりを見つけたキヌがポン!と手を叩いて横島に言った。

「なるほど、言われてみれば確かにそうだな。しかし、何でそんなおっさんがこんな所に居るんだ? リゾートを楽しむっていうタイプじゃなさそうだけど」

”さあ? そこまではわたしも…”

 横島の率直な疑問を聞いてもキヌにだって分からないので二人して首を傾げた。

『おや? 厄珍どんだべ?』

『おお、ほんまや』

「知ってるんスか?」

 意外なやつらから厄珍を知っていると言う声が上がった。

『そうやな、所謂商売相手ってやつやな』

「商売相手?」

 あのおっさん顔に似合わず顔が広いんだなと妙に感心しつつ、興味がでたので合いの手をいれて話を促した。

『そう、海でしか手に入らないオカルトアイテムの材料とかと陸でしか手に入らないオカルトアイテムの材料とかを交換していたりするんだ』

 ヒデの説明に今時、物々交換なのかと横島は驚いたが、お金なんてカク達には使い道の無いものである事に思い至り、納得した。

『だども、取引はもう少し先で無かっただか?』

『確かにそうだな。こちらの準備は、まだできていないぞ?』

 ナミコとの事があって、その準備が遅れているのだ。

「心配ないあるね、今日はそっちの件で来たわけじゃないね。」

『『『「いっ!?」』』』

 いきなり声を掛けられて、その場に居た者たちは飛び退り、声を掛けられた方へ警戒を向けた。

「いきなりそんな態度を取るなんてつれないあるね」

『『『厄珍!』』』「おっさん!?」

 いつの間にやら厄珍と呼ばれた小男が立っていた。

「ふーん」

 厄珍は横島に近づくと上から下までジロジロと見てニヤリと笑った。

(なんや!? このおっさん、突然、人の身体見やがって、しかもそのニヤリは何だーーっ!!)

 厄珍の視線に横島は思わず引いた。

「成るほどボウズが令子ちゃんの言っていた弟子あるね」

「そういうあんたは厄珍て言うんだよな?」

「そうある! オカルトアイテムをピンからキリまで扱っている厄珍堂の店主あるよ! ボウズもGS目指すならウチでオカルトアイテムを購入するね。それなりに融通してやるあるね」

 自分の事をすかさず売り込むのは商売人としての条件反射であろうか? というぐらい厄珍は横島にまくし立てた。

(何かこの厄珍ておっさん、すげえ怪しいよな。似非中国人っぽいし…)

 今時、そんな口調で話すような奴いないだろうと横島は思った。

『取引じゃないとすると何だべ?』

「それはMHK番組に協力しているからあるよ!」

 厄珍は勢い込んで説明しだした。MHK番組で霊に関する番組を制作する為に、オカルトアイテムを無料で提供しているのだと言った。しかし、実際は宣伝効果と、番組構成スタッフに巨乳アイドルとして注目していたMHKシスターズが居るという事で、お近づきになる事を狙ってのものであった。

 そんな訳で番組作成の過程で、この辺に取材に来ていた時にスケたちが何やら始めた事を知って、自分達は急いで駆けつけてきたのだ。

『『『「なるほど」』』』

 横島たちは厄珍の説明に、まあ、この対決に邪魔にならなければ別にいいかと納得した。

『さて、じゃあ気を取り直して始めますか』

『そうやな』

 審判を勤めるヒデたちは日射血暴流を再開すべくコートからでた。

『さあ、勝ってナミコには戻ってきてもらうだ。』

「くっくっくっ、やったるでー(ここで活躍して一躍、有名人に! さすればモテモテ人生の始りじゃーっ!)」

「横島クンには悪いけど勝たせてもらうわよ(師匠としても負けられない。何よりお金の為にも!!)」

”えーと、二人ともがんばってくださいね”

「もう振り回されるのは嫌だもの」

 それぞれの思惑の元、日射血暴流は再開された。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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