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GS美神 リターン?

 Report File.0047 「横島の学校生活 その7 〜 最後の夏がやって来る」
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「諸君! 我々が待ちに待った季節がやってきた!!」

バンッ!

 眼鏡を掛けた横島の友人A(これだけ登場しておいてまだ名前がない)が勢い良く黒板を叩いた。

 そこには「夏休みに向けて!!」と文字が書かれていた。

 因みに響いた音でロッカー上の巣で寝ていたグリンがビクっと目を覚ますが直ぐにうとうとと目をつぶり、寝始めた。丁度、昼下がりでお昼寝の時間なのだ。

「おおう!!」

「俺達にとって高校最後の夏休みといってもいいだろう。何と言っても3年になれば受験でそれどころではないからな!」

「そうだそうだ!」「よく言った!」

 はあ、とそんな友人たちの叫びに横島は溜息をついた。

(学年なんて上がらんだろうが何を言ってんだ…あれ? 俺、何を考えてんだ?)

 横島は混乱する。このお話はある種、避けられない連載物の宿命で何度も同じ学年を繰り返すのだ。リアルに時間経過させるとあっという間に卒業し、一人前になっていくのだがそうはいかない所がつらい。そこを衝いた思考である。通常、その世界の人間は気にしない。そう言った思考をしてしまったのは記憶を失う前、逆行してくる前に、横島が高校3年になっていたからに違いない。

「どうした? 横島、元気ないぞ。いつもならお前が一番騒ぐはずだ!」

 友人Aが横島の様子が変だと訝しげに聞いてきた。実際、友人Aとは中学時代からの付き合いだから、それなりの事は知れているのだ。夏となれば張り切るのが横島である。ただし、最初だけは。何時も最後の方は打ちのめされているから元気がないのだ。

「いや、何だかちょっと変な事に気が付いていたからで…」

「変?」

「いや、気にすんな。大した事じゃなかった」

 本当は世の成り立ちであり秘密でもあるから大変な事であるがこの問題だけはどうにもならないのだ。

「ならいいが…いいか諸君! 最後に自由にできる夏休みだ。有意義に過ごそうではないか!!」

「おおーーーっ!!」

 何だかどうでもいいような事で盛り上がっていた。

 そんな男子たちを傍目に女子たちは女子たちだけで集まって話の花を咲かせていた。

”夏休みってなんですか?”

 男子の方でも話題になっている夏休みが何かキヌは知らなかった。まあ、学校にも行った事がなかったわけだし、田舎の方にいたので知る事もなかったのだ。

「あれ? おキヌちゃん、知らないの?」

”休みって言うぐらいだから休日だとは思うんですけど、皆さんが騒ぐほどのものなのか、いまいちわかりません”

「そっか、おキヌちゃんて長く幽霊やってたわりには閉鎖的なとこに居たんだもの、知らないか…」

 キヌの事情を思い出してうんうんと女子の一人が頷いた。

「あのね、夏休みって言うのは要するに長期的なお休み、約一ヶ月半もあるの」

”そんなに長くお休みが?”

 キヌは目を丸くさせた。

「そうそう」

”ああ、だから美神さんが稼ぎ時だと張り切っていたのか…てっきりお盆が近いからだと思ってたのに”

 美神が張り切っていたのは横島が学校に行かず24時間フリーだからだ。ただし、この思考は横島の都合なんて考えてないものだ。張り切って8月中のスケジュールを細かに組んでいた。因みに7月中の夏休みは横島の自由にできるようにしてあるが、それも夏休みの課題をする為の時間を与えているだけである。もしこの期間にしていなければ夏休みが終わった後、頭を抱えなければならないだろう。

「ええーーっ! てことはおキヌちゃんとは夏休み遊べないの?」

”えっ!? そんなことは無いと思いますよ。横島さんは分かりませんけど”

 基本的に横島に括られているキヌは横島とワンセットに行動するのが普通である。

「じゃ、やっぱり誘えないじゃない」

 キヌを誘えば自然と横島もついて来る事になる。つまり、横島が無理ならキヌも無理なのだ。

”そんなことないですよ? 最近3日ぐらいは別行動できるようになったんです”

「本当、それラッキーよ!」

 女生徒は喜んだ。今までは誘えば横島がついて来る事になるので女同士での付き合いが出来なかったからだ。それをキヌに話して合宿しないかと持ちかけた。

”そんなの初めてですね。わかりました。美神さんと相談になると思いますけど参加できると思います”

 当然ながら今まで一人で居る事が普通だったキヌは喜んで二つ返事する。横島達と出会ってからキヌは同じ幽霊(主に浮遊霊)や学校の友達と沢山の人たちと付き合えるようになって嬉しくてしかたなかった。こういう風に誘われるのは特に。

「じゃあお願いね!」

「ふう、なんだか皆さんのああいうノリにはいまいちついていけません」

 パンパンとついた埃を払い落としながら安全な所、つまり女生徒たちの集まっている所に逃げてきた。

「あら、ピート君、どうしたの?」

 彼女たちが話し合っている間に男子生徒は意見を二分して争いあっていた。

「実はですね…」

 と事の顛末を話し始めた。


「夏といえば!」

「海だ!」「山だ!」

 意見が一致しなかった。男子生徒は海派、山派が同じくらい居た。

「「何!?」」

「山じゃないだろ! 矢張り海だ!」

「何を言うか、山だ! 木の香り、さわやかな風、優しき木漏れ日だ!」

「違ーう! 潮の香り、騒がしき波、照りつける太陽だ!」

 なんだか対極的にある意見だった。

「そうだ! 横島、お前はどっちだ!」

「えっ! 俺か?」

「「「そうだっ!」」」

「んー(山って言うとワンダーホーゲル思い出しちまうな…)やっぱ、海だな。水着の姉ちゃんや」

「見ろっ! 煩悩魔人たる横島が言っているのだ! 矢張り夏は海だ!」

「違う! 山にだって海に負けない魅力はある!! なあ、ピート!」

「えっ!? 僕ですか? そうですね、やっぱり暑い日ざしは苦手ですかね…」

 ヴァンパイア・ハーフらしい事を言った。

「見ろ! ピートは山だといっている! 直射日光にあたるのは人間でも有害なのだぞ!」

 別にピーとは山がいいとは言っていないのに何時の間にやら山派にされていた。

「そうかぁ? 水着やど? 裸に布切れ一枚覆っているだけ何やぞ? 想像するだけで堪らん!! それにひと夏のアバンチュールが楽しめるかもしれんのだ!」

「何!! 不純すぎる!!」

「それが俺たちの年頃には正常な反応じゃ! 俺は大人への階段を駆け上るんじゃーっ!!」

「なんだとっ!」

「やるってのか!?」

「やったるぞ!!」


「…てな具合です」

「男たちってバカねえ…特に横島君」

”横島さんてば…”

「まあ、わからないでもないです。男にはそういう年頃がありますからね」

 ピートは少し遠い目をした。

「えっ!? ピート君!?」

 争う男子生徒を見てクスっと笑うピートに、普段は感じない年上としての包容力を感じてその場に居た女生徒たち(キヌという一部例外はいるが)はドキドキした。何だかんだ言ってもピートは長生きしているヴァンパイア・ハーフなのだ。

「…やっぱり、ピート君ていい男よね…」

 普段は横島に振り回されて情けない面も見え隠れするが、改めてピートを見直していた。

”そういえば、さっきの話でわからないことがあるんです”

「何? おキヌちゃん」

”ひと夏のアバンチュールって何ですか!?”

「「「それはおキヌちゃんにはまだ早い!!」」」

”そ、そうですか…”

 女子たちの勢いある言葉に押されてその事については諦めるしかなかった。

(でも、横島さんは良いって事でしょうか?)

 何やら意味はともかく少し不快になるキヌであった。


     *


”フーーフフーン”「みーーみみーん」

 学校から帰ってきたキヌは鼻歌を歌いながら横島の住むアパートの部屋を掃除していた。そんなキヌにあわせてグリンも歌いながら掃除の手伝いをする。

 二人とも宙に浮けるので普通なら手が届かず掃除なんてしないような天井なども丁寧に掃除していく。横島は用事があって出かけていた。

 グレムリンは習性で綺麗な歌は苦手のはずだが音楽は何ともないようだった。もっともそれはグリンだけかもしれない。他のグレムリンで試した事が無いからだ。

”そーいえば、横島さんの上着、そろそろ洗わなくっちゃ”

 掃除がひと段落つくと今度は片付けに入る。その時、壁に掛けてあったGジャンが目に入った。

 滅多に洗う必要は無いんだと今まで洗濯しなかったが、夏も近いからもう着ないだろうと洗う事にした。キヌが洗濯する場合、必ず手洗いになる。アパートには洗濯機を置くような場所も無く、コインランドリーは使い方がよく分からないからと昔からの方法で洗濯している。

”とりあえず洗濯する前にぽけっとを調べないと”

 前にお札を入れたまま洗濯してしまった失敗があったのでそれ以降は必ずポケットを調べてから洗濯するようになっていた。

”んしょ、んしょ、あれっ! …これは…種?”

 普通のビー玉なんかよりも大きい種が上着から出てきた。

「み?」

 グリンもキヌが取り出した種を興味深く見た。

”多分、植物の種ですよね? こんな大きさだけど球根でもないみたいだし。珍しいものなんでしょうか?” 確かに普通の植物の種じゃなさそうですけど。だからといって邪悪な気配とかも感じない”

”みぃ!”

 グリンもキヌに同意見のようだった。

「後で横島さんに聞いて見ましょう。もしよければ鉢植えに埋めて育ててみましょうか」

”みみっ!”

 グリンもそれは良い考えだといっているような気がした。

ガチャ

「ただいま〜っ!」

 丁度タイミングよく横島が帰ってきた。

”はい、お帰りなさい”「みぃ〜!」

 キヌは横島の方に振り返った。

「どうかした?」

”えーとですね。横島さんの上着を洗濯しようかと思ったんですけどその時にポケットから大きな種が出てきたんです”

「種?」

”はい、これです”

「うーん、覚えが無いな」

 横島は差し出された大きな種に首を傾げた。

”じゃ、何の種かわからないんですね…”

「何時の間に手に入れたんだろ?」

 横島はすっかり種をどこで手に入れたのか忘れていた。

”どうしましょう。植えてみたい気もするんですけど”

「うーん、別にいいんじゃないか? 植えてみても」

 腕を組んで考え込むがそれ程、深刻になるようなものではないと思えた。

”いいんですか?”

「一応、霊能力で調べてみたけど、邪気は感じられないし、霊感に引っかかりも無いし、半人前の俺が言うのもなんだが多分大丈夫だ」

”じゃ、植えてみますね。どんなのが咲くのかしら?”

「みぃ〜〜!」

 キヌは横島の許可がもらえたので早速、鉢を買いに出かけた。それを窓から見送った横島の目に夕焼けが写った。

―――昼と夜の一瞬のすきま…短時間しか見られないから、よけい美しいのね。

 その時、どこからか女性の声が聞こえたような気がした。何だか心がしんみりとする。最近はどんな場所でも夕焼けを見るのが習慣になりつつあった。

「そうだな…」

 この時ばかりは自分が何かを忘れているという事をはっきりと思い出し、胸がぽっかりと穴が空いたような気がする。

 記憶を失ったとされる時から今までを思い返してみると、少しずつだが失ったものを思い出してきているように思える。特にここ最近は頻繁に。

「焦っても仕方ないか、今の俺には記憶を取り戻す方法もわからん。少しずつでも取り戻している事を考えると、ある日突然全てを思い出すこともあるかもしれんしな」

 考え込んでいると何時の間にやら夕焼けはなくなり辺りは暗くなり始めていた。

「さて、おキヌちゃんとグリンは多分あの商店街に行ったんだよな…冷蔵庫に食料も無いから当然買い物をしてくるはずだ。もう少し時間がある。となればこれはチャンスだ!」

 何がチャンスか判らないが横島はいそいそと押入れから何かを出してテレビをつけた。次に何かを期待しつつスイッチを押す。

「No−−−−−っ!! オーーゥマイガーーーッ!!!」

 何をしようとしたのか知らないがテレビの下に設置している四角い箱がうんともすんとも言わなかった。期待が大きかっただけにダメージもでかかった。あまりのショックにキヌたちが帰ってきても真っ黒の画面が映ったテレビを見て固まっていたそーな。


     *


「ボス、シードテックの重役と約束どおり接触しましたよ」

 目をつぶりソファにもたれて寛いでいる上司に部下たる男が話し掛けた。

「そう」

「ボスの話に大変興味を持たれたようです」

「そうだろうねえ」

 今までどこも手を出せないでいる心霊兵鬼の技術…それに魅せられない武器開発企業は無いだろう。

「これで5社と接触しましたがどうします?」

「決まっている。我々の存在を隠して少しずつ違う分野の技術を流し、5社を競わせて互いを切磋琢磨させる」

「で、育ったおいしい所は我々が貰うって事ですか?」

 ニヤリと部下が笑った。

「わかっているじゃないか。なら、さっさと準備することね。こういう研究開発ってのは時間が掛かるのだから」

「へいへい、人使いが荒いなあ…」

「ふふん、使える奴は徹底的に使う主義なの。名誉におもいなさい」

 上司はチラリと目を開け部下を見た。

「ボスにそこまで思われているとは嬉しいって言った方が良いんですかね?」

 部下は上司の眼光にブルっと震えくるが軽口を叩いた。感じたプレッシャーのことを考えると大した胆力だ。

「さてどうかしら」

 舌がチロチロとへびのような動きを見せた。部下はそれをみて自分の反応を楽しんでいるなと感じた。

「ところで気になる事があるんですが?」

「何かしら?」

「どうして、研究開発を人間に委ねるんですかい?」

 仕事を進める上で疑問に思っていた事を口にした。能力的に見ても自分たち人間よりも上司たちのような存在は優れているはずなのだ。

「それはね。時間の捕らえ方よ。我々のような存在は時間に対してそう頓着はしない。寿命が無いか、圧倒的に長いかだからね(もっともヌルの奴が死んでなければ話は違ったかも知れない)」

「つまり、研究なんかものんびりやってしまうって事ですか?」

「そうだねぇ、人間は寿命が短い故に瞬発力がある事を私は知っているからね。それに発想や工夫する事に優れている。それだけは我々よりも人間のほうが優れているのさ。(そうでなければ時折、我々を出し抜く輩など出ない)今回のように時間を争う場合は人間のほうが有利に働く」

「成る程(つまり、あなた達も完璧な存在ではないわけか)」

 自分が尊敬する上司からそんな言葉を聞くとは思いもしなかった部下は驚いた。

「私は知っているからね、人間には侮れない存在がいるってことは。お前のように…」

 上司は部下を見る目を細めた。

「じゃ、俺は準備があるんでこれで」

 何か危険な光を見た部下はそそくさと逃げ出した。

「あいつを撃退したっていうGS少し調べておいた方がいいかもしれないわねぇ」

 信用している部下を撃退できる能力を持っているなら今後、障害となりうる可能性があった。もしそうなら早急に手を打つ必要があるだろう。

 だが、まだ自分が表立って動く事は出来ない。その事にじれったさを感じるのであった。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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