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GS美神 リターン?

 Report File.0040 「宇宙に響く子守唄 その2」
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「ふんっ!」

 横島は宇宙服といっても船外の方ではなく船内の方に着替えるとバンダナを締めなおし気合を入れなおした。

「いよいよです! 横島飛行士が発射台…もとい、魔法陣の中に入りました! 彼の胸にはどんな思いが、よぎっているのでしょう!?」

 リポーター達は横島の挙動を一挙手一投足見逃すまいと注目している。

(うへへ、うへへへ、おいしい人生…テレビ出演でモテモテ…大願成就…チャンスを活かさなきゃ嘘だっ!!)

 注目を集めている横島は欲望にまみれていた。

じーーーっ

 横島は注目されている中でも、何だか他とは違う視線のようなものを感じた。不審に思い振り返るとビデオカメラを構えて横島を撮影するキヌがいた。

「はぁ!? 何やってんだ、おキヌちゃん?」

 横島はきょとんとキヌを見て聞いた。

”はい、私も一緒に行くんです。それでこれを使って横島さんを撮れって、ちゃるめらまんとかいうんですよね?”

「それをいうならカメラマンだよ」

 横島はよくよく考える。最近は結構別行動したりできるようになっているが基本的にキヌは横島に括られた状態なのだ。今回のようなのでは結局一緒に行く事になる。

「用意はいい?」

「おおっ! ローソクに火をつけてくれ!!」

 横島はどかっと座り込み、覚悟を決めた。横島の言葉に撮影スタッフにも緊張感がみなぎる。

 演出なのか部屋を薄暗くした。令子は道具を持って横島の背後に立った。その後、道具をそばに置くと静かに瞑想し始めた。

ゴクッ

 誰ともなしに唾を飲み込み、目を離すまいと儀式を見守った。

「汝、横島忠夫の魂よ…!! 肉体の呪縛より解き放たれ、…」

 令子の儀式の呪文が朗々と流れる。その際に令子の身体の周りに淡い光が発生する。

おおっ!

 周りのギャラリーと化した撮影スタッフたちはその光景の美しさに嘆息する。リポーター達も令子の神秘的な姿に息を呑んだ。それなりに容姿に自信を持っていたがこの光景を見て、令子の美しさには叶わないと皆思った。

 そうしたギャラリーとは関係なく呪文は続き、最後の詰めを行う段階まで来た。呪文を唱えながら道具をしっかりと手に持った。最後が肝心なので自然と気合が入る。

「その姿を表せ!! 幽体……」

 令子は道具…バットを確りと振りかぶり、横島の脳天めがけて振り下ろした。

「離脱!!」がんっ

 令子の叫びと同時に横島が淡い光に包まれた。

「でっ!?」

 大きな音がして、殴られた横島は悲鳴をあげ前のめりになる。

”いてーなっ!! ちょ、美神さん。なんてことすんですかっ!!”

 いきなり後頭部を叩かれた横島は何故叩かれたのかと振り返り文句をたれた。そんな横島の目にバットを肩に担いでピースサインをしている令子が入った。そして、その足元にはぐったりと自分が令子の足に凭れ掛かっていた。

”!?”

 その光景に横島は目を剥き、繁々ともう一人の自分…肉体を見詰め言葉を失った。その後、ようやく自分が幽体離脱したのだと納得した。

「やっと理解できた? なら早く済ませたほうがいいわよ? それにしても横島クンの幽体の姿、変わっているわね。変な趣味でもあるの?」

「はっ?」

「気付いてないの? 額にバンダナじゃなくて鎖を巻いているのに? それに横島クンてよく働いてくれると思ってたけど、身に…骨の隋まで所か、魂にまで丁稚根性が染み付いているのね」

”鎖? 丁稚根性?”

 ぺたぺたと自分の額を触ってみると確かに鎖を巻いていた。だが、美神の言った丁稚根性がわからない。

”わあ、横島さん、幽体離脱しても仕事熱心ですね! 幽体離脱してまでリュック背負っているなんて!”

”はっ!? うそ!? くそ、何でだ?”

首を捻ると確かに視界の端にリュックらしきものが見えた。リュックを降ろそうとしたが降ろせなかった。

”横島さんの幽体の一部みたいですから降ろすの無理そうですよ?”

”はあ〜、しゃあないか…それにしても荷物はともかく、この鎖はな…”

 横島は今更ながらの自分の丁稚根性とやらに戦慄した。その時、ふとした事を思いついた。

(やっぱ、これって俺が記憶喪失になっているのと関係があるのか!?)

 令子の指摘に横島はある思いに行き着いた。ならばこの鎖を外せば記憶も戻るのではないかと考えた。

”そんなもの知るわけ無いじゃないですか…くっ、このっ! と、とれないっ! ってイタタタ”

 横島は外そうとしてみたが、ビクともせず全然外れそうに無かった。無理にすると頭痛が走った。

”わー、私の足元の方からヒモみたいなのが横島さんにくっついてる”

 キヌは珍しげに横島とつながっているヒモを手にした。

「それが、おキヌちゃんが横島クンに括られている証拠よ。横島クンが幽体離脱したから見えるように顕在化したのね。一応、霊脈の一種になるわ」

”へえ、そうなんですか…あれ?”

 それを聞いてヒモに興味をなくしたキヌは、ビデオカメラを横島に向け、首を傾げた。

「どうしたの? おキヌちゃん」

”美神さん、これ”

 令子がキヌに近づいていくとキヌはビデオカメラを見せた。

「これは!?」

”どうしたんですか?”

 流石に横島も不審がった。

「え? いや、大丈夫! 横島クンがブレて見えないだけだから」

”はっ? ってそれじゃ、俺がテレビに映らないってことじゃないっスか!?”

 冗談ではないと横島はごねた。思わず俺の大願が…と口から漏れる。

「まあ、仕方がないわね。諦めなさい。それより、ここでモタモタしていると本体…肉体が死んじゃって、帰れなくなるわよ? 早く行った方がいいわね」

”ひええっ!?”

 令子から驚愕の事実を聞いた横島は悲鳴を上げて窓に飛び出した。やっぱり、命の方が大事だった。その後をキヌがビデオカメラを持って追いかけた。

「その魂の緒が繋がっているうちは大丈夫! 仮死状態のうちに帰ってきてね」

 令子は窓から乗り出して手を振って送り出した。もうこうなれば、彼女のやる事は残り少ない。

”死んだら一緒に迷いましょうね”

 さっきの令子の話で焦る横島を落ち着かせようとキヌが慰めたがその内容は全然慰めにはなっていなかった。

”どいつもこいつも他人事だと思いやがって…!!”

 横島はどうにもならんと愚痴りながら目的の場…宇宙を目指すためドンドンと空を昇った。その速度は意外な程、速かった。

”まさか、横島さんと二人、お空でデートできるなんて…”

 上昇する横島とその光景を映しながら、キヌは嬉しそうに憑いて行った。



 かなりの高度まで昇ると横島はふと思った。

(あれ? そう言えば、どういう風に除霊するのか、聞いていないぞ!? ど、どうすりゃいいんだ!?)

 横島は頭を抱えた。

”どうしたんですか? 横島さん”

”いや、宇宙に出るまでは良いんだけど、どうやって衛星とか見つけるのかな? とか、どうやって退治するのかとか聞いてないなあとね。何より美神さんとどう連絡すれば良いのか分からんから・・・”

”…そういえば、私も聞いてません…”

”…………”

”…………”

 二人は沈黙した。これからどう動けばいいのか分からない。広い宇宙、闇雲に探しても目的の衛星を見つける事等できっこないのだ。

”そうだ! こういう時こそ、俺が背負っている荷物だ。俺じゃ見れないから、悪いけどおキヌちゃん見てくれる?”

”わかりました。開けて見てみますね”

 何が入っているのかキヌは内心ドキドキしながら横島の背後に回ってリュックを開けた。

”………”

”おキヌちゃん?”

 しばらく経っても何の返事も無いキヌに不審に思った横島が声を掛けるが返事が無い。

”………”

 キヌは無言のままリュックを閉めた。横島はそんなキヌの様子が気にかかり、振り返って見た。そこには顔を青く、引きつらせたキヌが居た。

”い、一体、何が入っていたんだーーっ!!”

 そう叫ばずにはいられない様子だった。

”……睨まれちゃった……あれは何? 他にも…”

 横島の問いかけにも反応せず何やら、ぶつぶつ呟いていた。

”………”

 滅茶苦茶リュックの中身が気になる、しかし自分では見れないというもどかしさを横島は感じた。

”……はっ! 私、どうしたんだろう?”

 横島はキヌの様子を見てこりゃ、あかんと諦めた。

”…これは一旦、戻るしかないか…”

 ここまで来るのに結構な時間が経っている。往復してくるとなると幽体離脱の時間が増え自分の命がやばいんではなかろうかと考え始めた時、声が聞こえた。

<横島クン、聞こえる!?>

”! み、美神さん!?”

”あ、本当だっ!”

 キヌにも聞こえたようだった。

”こちら横島! 聞こえますか?”

 横島は急いで返事した。

<聞こえるわ。そっちの状況はどうかしら? どーぞ>

”空が青から濃紺に変わって来た所です。 そう言えばヒモが細くなってきたんですけど…俺の身体は大丈夫ですか?”

 横島は魂の緒が細くなっている事に気がつき不安になった。心なしか身体がだるいような気がした。



 令子の能力の応用とオカルト・アイテムの使用により横島の声はスピーカーより流れる。スタッフ達は令子達の会話を固唾を飲んで見守った。

 そんな中、令子はソファに座り、膝に横島の肉体を乗せ、抱きかかえていた。そのそばには今回のミッションの為に雇われた医者が、横島の様態を逐一確認していた。

ピキーン、ピキーン

 静かに心電図の音が響く。

「生命反応が弱まっています!」

 医者は横島の状態を簡潔に述べた。

「………」

 令子の中に天秤が現れた。左の皿に横島が、右の皿に札束が現れる。何度かそれは揺れる…が、揺れる都度に右の皿に札束が乗っかり、札束のある右の皿の方に傾いた。

「大丈夫よ! 健康だけが取り柄でしょ!」

 幸いにも横島の方にはこの場の状況は分からず、令子の送る言葉しか聞く事は出来ないのであった。

「非常ね」「非常だ」「でもプロフェッショナルよ」「素敵な性格…」「素敵だ!」「かわいそうかな?」

 スタッフ達は令子達のやり取りにそれぞれ感想を抱いた。

『本当っスか?』

 その声音から不審さを感じ取ったがあえて令子は無視する。

「もう少ししたら太陽からのエネルギーの風…太陽風が強くなってくるはずよ」

『分かりました。他に注意点はありませんか?』

「幽体は軽いからとばされないよう気をつけてね」

 多少の罪悪感があるのか令子は気遣う言葉を口にした。

『なんか背中があったかいようーな、やわらかいよーな、感じなんですけど、死んだらこーゆー感じなのかなー』

 返ってきた言葉は凄く不安そうな声であった。

「会話するために抱きかかえているから、それが伝わっているのね」

 令子は横島の不安を払拭するチャンスと言ってやった。

『え゛っ!? だ…抱きかかえて…? どういう事だ? 不公平じゃないか? 俺はこんなに死ぬ思いしてがんばっているのに・・』

 スピーカーからぶつぶつと呟く横島の声が聞こえてくる。

その場にいた一同は冷汗を掻いた。

『どうかしました。横島さん』

『くっそおおおっ、俺の身体め…!! 自分だけいい思いしやがって…!! そこまで育ったのは誰のおかげだと思っていやがる…!!』

 ギリギリと歯軋り音と共に恨みのこもった声がスピーカより流れてきた。

ピコ、ピコ、ピコ

「せ、生命反応が強くなりました!!」

 信じられんものを見たと医者は目を丸くさせた。

「…………」

 そんな様子に令子どころか他のスタッフも何だかなーと言葉を失った。



”随分、昇ったな”

”風が強いわ”

”違うよ、空気じゃなくてエネルギー風なんだ。美神さんの言っていた太陽風だな。幽体の筈なのに風を感じる。不思議だな…”

ビュウウー

 横島が想像していたよりも太陽風は強かった。

”きゃあぁ!”

”おキヌちゃんっ!(しまった! おキヌちゃんは幽霊だった…)”

 キヌは自分が意識すれば掴む事が出来る。そうでなければ触る事は出来ない。それでも咄嗟に手を差し出しキヌを捕まえようとした。

ガシッ!

”えっ!”

 以外にも横島はキヌを捕まえることが出来た。

”ありがとうございます”

 キヌは嬉しそうに礼を言った。

”(そうか、今の俺は幽体だからか…)いや、幾ら俺とつながっているからって言っても、この太陽風だからさ、現場までは手を繋いで行こう”

”はいっ! でも、さっきまで気付きませんでしたけど、綺麗ですね…”

”あっ、地球か…そうだよな確かに”

 そう言いながらも、横島はそっとキヌの横顔を見た。

”地球って青いんですね”

(おキヌちゃんか…かわいーんだよな。でも、身体が無いんだよな。惜しいよな…)

 つくづく残念だと横島は思った。流石に自分が幽霊になるのはゴメンである。自分は生きているのだから、温もりがあるほうがいいのだ。前に触れた事があるが、キヌは幽霊なので生者が触れると冷たかった

<そろそろ目標に近くなるはずよ。接触に失敗したら次は何時間も待たなくちゃいけないんだから!>

”はい”

”あっ! 横島さん、霊波を感じます。ずーっとあっちの方…凄い速さで近づいてくる!”

 キヌはかなりの距離からグレムリンの霊波を感じ取ったようだった。

”! 本当だ!!”

 キヌが指差す方に横島も注意すると確かにキヌの言う通りであった。

<その位置に入ればもうすぐ目的の衛星と接触できると思うわ! スピードが速いから注意して!>

”りょーか…いっ!!”

ゴォッーーー!!

ベシャッ!!!

”ぐはっ”(そうだよ、よくよく考えりゃ、衛星って引力に引かれて落ちないように高速で回ってんじゃん…)

 一瞬にして視界一杯に目的の衛星が移った瞬間、接触、その衝撃は10トントラックにひかれたよりも何倍も強烈なものである。横島は一瞬意識が遠のいた。まあ、それだけで済んでいるというのは凄いのであるが。取り敢えず無意識にか衛星にしがみつき離れる事は無かった。

”よ、横島さん!!”



ピキーーン、ピキーーーン

 その頃、地上では心電図に変化が起きていた。

「せ、生命反応が急速に弱まっています!」

 その言葉にその場に居たスタッフ達に緊張感が増した。スピーカーから流れるキヌの悲痛な声がそれを助長していた。

 横島は命の危機に晒されていた。

「横島クン!?」

 さしもの令子も焦った。横島の明日はどっちだ?


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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