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GS美神 リターン?
Report File.0020 「初実戦! オフィスビルの悪霊を除霊だ!! その1」
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―――ゴーストスイーパー・・・それは都会にあるビルや土地に現れ経済活動を妨害する悪霊たちを退治する者たち・・悪霊に物理的干渉は効きはしない。それら悪霊に対抗できるのは霊能を駆使することのできる彼等だけなのだ!!
―――この物語はそういった者たちの中でもトップをひた走る美神令子とその弟子の物語である。・・・多分。
美神令子除霊事務所・・某ビル5Fにその所在はあった。その階の窓に信じられないことだが命綱も無く張り付くバカが一人いた。
「ぬおぉ!くうぅ・・惜しい・・おお!やっぱ、ええなー」
そのバカ・・横島忠夫は今日も懲りずに美神令子の入浴を覗いていた。彼は外見は貧弱な坊やに見えるが煩悩が絡めば信じられないような力を発揮する。今もお世辞にも鍛えられたとはいえない腕2本で窓縁に掴まり30分近く体重を支え続けていた。この場合、たいしたものと言えばいいのだろうか?
これまでは令子の入浴の覗きに成功していなかったが人骨温泉から帰ってきて以来何となく身体能力が向上したような気がしてこの方法で試みた所、見事成功し調子に乗ってそれ以降ずっと実行し続けていた。もはや、ここまで来ると執念だけで片付けれないような気がする。
さて横島が己の命をかけて覗きを敢行している時その対象はというと・・・
「ふーん、こうすればこの税は軽減できるのか・・・」
令子は熱心に湯船の中で本を片手に法律の勉強をしていた。何か違うような気がするが、この辺がこの弟子にしてこの師匠あり・・いやいやこの師匠にしてこの弟子ありか・・とにかくどっちもどっちな人達であるのは間違いないだろう。
”美神さーーーん”
そんな折、幽霊のキヌの自分を呼ぶ声が聞こえた。
「なーに、おキヌちゃん?」
読書を中断して返事する。
”そろそろ、お仕事の時間ですけど・・”
ドア越しからキヌの声が聞こえてきた。
(もうそんな時間か・・結構長湯しちゃった事になるわね)
勉強を熱心にやっていたので予定よりも長く入浴していたらしいと気付く令子であった。
「横島クンに準備させといて」
下準備は弟子の仕事と令子はその意図をキヌに告げた。
スゥ
”それが何処にも居ないんですぅ”
キヌが令子の所に扉を上半身だけ通り抜けしてきていった。
「そ、そう」
キヌが半端な通り抜け状態でいたりするのに少し慣れていない令子であった。キヌは手だけ壁から出して返事したりと色んなアクションをしてくるので普通の感性ではついていけない所もある。
”一応、横島さん仕事の準備はしているみたいなんですけど・・・”
キヌは人差し指を口に当てて横島が居そうな所を思い浮かべるが見当がつかない。キヌは最近は横島との括りの絆がしっかりしてきたのか大分、自由に行動できるようになってきていた。
キヌが考えに耽っている間に令子はバスタオルで身を包んでいた。
「くー、おキヌちゃんがいるから肝心な所が見えないーー!」
そんな様子を覗いていたが見たいものが見えぬと悔しがる横島であった。
「しょーがないわね。窓の外は見たの?」
令子はアゴに手をあて考えて言った。
ギクッ
(き、気付かれていた!?)
動悸の早くなる窓の縁に張り付いている横島であった。
”窓って、ここ5階ですよ?幽霊の私ならともかく・・”
キヌは令子の言葉が信じられず反論した。未だキヌは横島の性格を見切れていないようだった。
ガラッ
無言で浴室の窓を勢いよく令子は開けた。
「うわっ」
あせって、令子が窓際まで来た事に気付かずいきなり開けられ驚いた拍子に態勢を崩して落ちそうになる横島。いまや片手で窓の縁を掴みぶら下がっている状態だった。
「ひぃーーーーーーーっ!!お、落ちるーーーっ!落ちてまうーーーー!!誰かーーっ!!」
体がユラユラと揺れ今にも落ちそうな状態で泣き叫ぶ横島だった。
「いるじゃない!」
”あっほんとうだ!”
一人は呆れ、もう一人は驚いた。
「うわーっ!!もーーーあかん!!」
横島は必死に片手で体重を支えているが限界が近いようだった。
”何をなさってたんですかぁ?”
キヌは括られてから横島と行動を共にしていたので大体理由は察していたが意地悪く聞いた。心なしか頬をぷくっと膨らませてる。
「いーから、早く助けてくれーっ!!」
横島は余裕が無くただ喚いた。
「おキヌちゃーん、そろそろ行くわよーー!」
令子はとっとと横島を助けようともせずに仕事に出かける準備をしていたのか声をかけた。
”はーい!!・・・もう、どうでもよくないのに・・”
そういいながらも横島を助けるために引き上げてあげるキヌだった。
*
「で、今日はここが仕事場よ」
そう言って令子はでかい高層ビルを見上げた。
「うへー」
横島もつられて見上げ、ポカンと口を開けた。今日は珍しくGジャンではなくジャケットを着ていた。
”すごいなー、こんな高い建物が建てられるなんてすごいですね”
キヌも山奥から都会に出てきたばかりなので物珍しく見た。もっとも彼女の場合、文明の利器の殆どを極最近まで知らなかったわけなのだが。
「ギャラは5千万円・・たいした金額じゃないわ。手早く済ませましょ」
令子は今回の仕事料を事も無げに言った。唐巣神父辺りが聞いたら卒倒するかもしれない。
「5千万円って・・」
「あら、私ぐらいのGSならザラな仕事よ?」
「でも普通の相場の10倍・・」
「それだけ手強いか、厄介だって事よ。依頼料の額は危険度のバロメータでもあるわ」
「つまり危険も普通より10倍ってことですか!?」
「一概にはそうとは言えないけど、今回は当てはまるかな?」
令子は今回の依頼の資料を思い出していった。それを聞いた横島は顔が引きつった。キヌは死んでいるので今更といった感じでニコニコしていた。
さて余談になるが資料については三通りある。一つは客の自己申告によるもの。もう一つは依頼されたGS自身が調査して作成するもの。残りの一つはGS教会から派遣された調査官によるものである。
基本的に資料は一つ目か三つ目の方法で作成してGSに渡す。二つ目が余り無いのは悪徳GSがぼったくる事があるからである。二つ目の方法は顧客とGSの間に余程の信頼がなければとられない。
一つ目にしても顧客が正確に書かない可能性があるがそれによってGSが死亡したりする事があるので、企業のイメージダウン回復や違約金、追加の契約金を払うことでかえって金が掛かることになる。また誤った情報を書いた依頼人は間接的に殺したなどの罪悪感にさい悩まされる事になるので基本的には正直に書かれる。それでも素人が書くわけであるからそれから判断する依頼料は割増になるのだ。
二つ目は前述の通り依頼されたGSの言い値になる。
三つ目は正確に依頼料が決めれるが手続きに手間が掛かる上に時間もかかる。しかし一般のGSにとっては一番ありがたいものだ。それを見れば自分の手に負えるかどうか判断できるからである。故になりたての新人は三つ目の資料の仕事しかしない事が多い。
今回は一つ目であった。
「それにしても5千万円か・・すごいな」
横島は破格の依頼料に現実感が沸かなかった。高校生の自分にはそれの10万分の1の500円でも貴重だというのに・・このままでは自分の金でもないのに金銭感覚が狂いそうだと感じた。
「あんただってGS資格とって独立すればそれぐらい稼げるようになるわよ。なんたってこの私、美神令子の弟子なんだから。っていうかそれぐらい稼がないと許さないわ。私の顔に泥を塗る事になるんですからね?」
令子はそう言って横島にプレッシャーを思いっきりかけた。
「そ、そんな無茶な・・・俺、美神さん程には凄くないっすよ」
横島は令子の迫力にびびった。大体、まだまだ先の事を今から言われても困るのだー!!と心の中では叫んでいた。
「(・・・気弱よね・・私と正反対ね)さあ、行くわよ」
そう言って令子がビルの出入り口に向かおうとした時、額に包帯をし右手をギプスをして吊るしながらもスーツを無理やり着た男がビルの出入り口から出て来た。
「美神令子除霊事務所の方ですね!? お待ちしておりました。私、○△商事の三田村といいます、どうぞよろしく」
出てきた男が令子に近づき挨拶し、名刺を令子に差し出した。怪我をしているのにサラリーマンというか営業マンの鏡であった。
「はあ、どーも」
令子は差し出された名刺をとりあえず受け取って挨拶した。男の怪我は悪霊のせいだろうと横島は想像し青くなっていた。
「早速ですがお願いできますか?」
「ええ、悪霊はどちらに?」
令子は男の様子を見て、こりゃちょっと厄介かなー等と思いながら聞いた。
「32階の社長室を占領しています。早いとこ何とかしてください!!でないと契約がーーっ!!」
営業マンらしき男は焦りからか叫んでいた。
「あの・・・そのケガは?」
恐る恐る横島が聞いた。
「えーもう凶暴な奴でして、うかつに近づくと命がいくつあっても足りません。一昨日も別のGSに依頼したんですが、そのGSと助手が殺されましてね・・」
男はその時の結果を思い起こして言った。
「じょ、助手も・・!?」
横島はそれを聞いて一歩、下がってしまった。
「ええ、酷い死に方でした・・ほとんどXXXXのXXがXXXXX・・・」
男はその時のGSの死に様を詳細に説明した。
「はは、助手も・・死亡・・」
横島は脂汗を額ににじませながら硬直した。
「直ぐに除霊してもらえればもう5千万円出してもいいと社長が・・」
男は除霊が困難であり、更にある重大な取引から時間がないため即行で除霊するなら依頼料を増額すると令子に告げた。
「ラッキー!!勤労意欲がわいて来ますわ!」
令子はそんな前のGSの惨状を聞いたにもかかわらず依頼料が増える事に喜んだ。
(美神さん、俺はそんなの聞いたら勤労意欲がなくなるんですが)
横島はしっかりと依頼料が危険のバロメータという言葉から今回の仕事のやばさを推し量り逃げたい衝動に駆られた。
”どうしたんですか?”
しかし、キヌは横島が怖気づいている理由を理解できなかった。当然だろう死んでいるので死ぬ危険性を認識できないのだ。
(くっ、このままでは死ぬ! 死んでしまうー! 逃げるなら今だ、横島忠夫!!・・・!!?)
怖気づいて逃げる算段をしていたがその脳裏に令子やキヌがそして見知らぬ女性が倒れ伏している光景がフラッシュバックした。
ズキッ!
「ぐっ!な、なんだ!?」
頭痛と共にそれが浮かんだとき横島は額に手を当て思わず声をあげた。それと共にあんな光景は見たくないという想いが心に浮き上がってきた。
「さっ、行きましょ!横島クン!!」
ぺちょ
令子はじょーきげんで横島の左腕に知ってか知らずか胸を押し付けるように腕をくんだ。
「あっ(美神さんの胸の感触がーーーっ!)」
横島が令子の胸の感触に声をあげた。キヌはそれを見てむっと胸がむかつくと共に行動にでた。
ぺちょ
キヌも令子と同じく胸を右腕に押し付けるように腕を組んだ。まあ、令子に比べてボリューム不足だとか幽霊だから感触的にちょっと・・とかあるが煩悩の塊のような男には効果があった。
「うぉ!(おキヌちゃん胸がーーーっ!)」
”「さあ、いきましょ!」”
令子とキヌがタイミングよく言った。
「(うおおーー!これで奮い立たねば男じゃねーーーッ!)行きましょう!!美神さん!!愛と正義と平和のために・・」
横島は先程までの恐怖は何処へやら、怪しげな燃え方でやる気満々になった。
「クスッ、その意気よ、横島クン!だから若い子ってスキよ(多少の色目で奮い立つんだもの。ちょろいちょろい)」
”美神さんが言った様に男の子ってたんじゅん”
何をキヌに教えたのか令子の言葉の実例を見てキヌは感想を漏らした。
*
シューーーーン
静かな音で社長室のある32階へ昇るエレベータ。令子はじっと回数表示を睨み、横島はゴクッと緊張から生唾を飲み込んだ。
チーーン
エレベータ特有の目的の階へついた知らせがかごの中に響く。
ガーーーッ
僅かな振動と共にエレベータの扉が開かれた。そこは天井や壁には穴が所々に開き、窓は全て割れ、備品も何もかもがゴミくずとなり特にエレベータ前にあったと思われる壁などは完全に破壊され壁向こうの部屋とエレベータホールがつながっていた。
そしてそこに広がる光景に一同は
「なっ・・・!?」
”すごーい!ぼろぼろだー!”
「まあ、こんなものね」
とそれぞれに感想を漏らした。令子には予想内のものであったので落ち着いたものだった。
「・・・この気配は株に失敗して全財産をすって半狂乱になり、このビルの目の前の部屋から飛び降りて病院に収容後、3時間12分後に死んだ霊・・!?」
令子は目を暫く閉じ、瞑想したかと思うと突然、かっ! と見開いて言った。
「す、凄い、そんな事まで読み取れるんですか!?」
横島は令子が過去の残滓をある程度読み取れる事を知っていたので驚いた。
「初歩的な推理よといいたいけど、そこまでわかるわけないでしょ。依頼書に書いてあったのよ。霊能者にはハッタリも重要よ?」
ニッコリと令子は笑って言った。
「・・・よその霊能者が聞いたら怒りますよ?」
呆れたように横島は言った。
「そんな事ないわよ。もともと霊能者なんて怪しい者だから少しでも信頼を得る為にはってね。自分で言っててせん無いわね。まあ、裏目に出ることもあるみたいだけど、常套手段なんだから」
令子は確信を持って反論した。
「はあ」
横島は比較できるほど他の霊能者を知っているわけではないので生返事した。唐巣神父を知っているがその人柄や本業?から考えても例外だろうから除外していた。
「さて、お仕事、お仕事。横島クン、神通棍」
令子は横島の方に右手を出し、要求する。
「はいっ」
横島は持ってきた荷物を下ろし盛ってきた荷物から要求された神通棍を取り出し令子に渡した。
ジャキーーン!
「それから、手荷物に会った長い包みは横島クンのよ」
手渡された神通棍を伸ばして構えながら言った。
「え!?こ、これですか?ぼ、木刀!?」
令子の意外な言葉に横島は驚きながら長い包みを取り出し解いた。中から白い木刀が出てきた。
”わあ、なんか和みますね”
それを見てキヌが感想を言った。
「それは御神木の枝から削りだされた神木刀よ。それなりに良いのなんだから大事に使うのよ?」
令子は頬を赤くして照れながら言った。
「あ、ありがとうございます。で、でも何で木刀なんですか?」
横島は意外な令子からのプレゼントに驚き喜んだ。貰ったものがアレだが生まれて初めて母親以外の女から食べ物以外で貰ったのだから。
「前に先生から横島クンが霊能力で霊波刀を出したって聞いたから神通棍より相性は良いと思ったからね」
何だかんだ言っても初めての弟子なのでそれなりに大事に思っている令子であった。
「大事に使わせてもらいます!」
横島は思いのほか弟子としてでもちゃんと扱ってくれているのが嬉しかった。
「おキヌちゃんはもともと山の神になるはずだったから弓矢が相性良いと思うけどそっちは取り寄せに間に合わなかったの。ごめんね?」
キヌが羨ましそうに指をくわえて神木刀を見ていたので令子は気まずそうに言った。
”いいえ、ごめんなさい。それからありがとうございます”
キヌは態度にあからさまにでていた事を恥じ入った。
「使い方は前に教えた神通棍と同じ様なものよ。取り寄せに時間が掛かっちゃったからぶっつけ本番になるけど。覚悟はいい?」
令子は気合をいれて横島に言った。
「えーと、はい!!」
一瞬、横島は詰まったが元気良く返事した。
「何か、しまんないわね。まあその方が横島クンらしいか・・・」
そんな横島に令子は一言文句を入れた。
「なんですかそれは!!」
「そういう意味よ」
”まあまあ、二人とも”
今にも悪霊が襲ってきそうな現場に居るとは思えない面々であった。
(つづく)
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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。