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GS美神 リターン?

 Report File.0011 「可愛い彼女はゆうれい!? その1」
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「いい、横島クン?あんたの役目は目標の気をそらす事、即ち囮よ。いいわね。ミスったら減給だからね?しっかりするのよ?」

 令子は現場に向かいながら横島に今回の依頼をこなすに当たっての横島の役目を説明した。

「げ、減給すか・・・」

 横島は自信が無いのかそう言った。

「そう、横島クンはGSがどんなに死に近いかまだ実感できていないでしょ?それにまだ若いから死を身近には感じたこともないはずだし。GS稼業ってのは少しでも気を抜いたら死へ一直線なんだから。そうならないようにする為の予防措置よ。まあ緊張感を持ちすぎるのもダメだけど気が抜けているよりはマシだからね」

「・・(何か、もっともな意見なんだが引っかかるな)・・はい」

 その言葉を聞いて横島は今までの事もありうまくできるか自信が無かった。

「(まったく、この子はなんでこんなに自分に自信ないのか・・)使えない奴に金なんて払う積もり無いんだからしっかりするのよ?使えるならボーナスだって考えてあげるんだから。ね?」

 そう言って令子はバチッとウィンクをした。

「(くっ、さっきのは気のせいだーー!)やります。やらせていただきますよ!俺はっ!」

 先程とは打って変わったテンションの高さに令子は引いた。

「(まあ、ちょろいもんよね。ちったあ、期待はしてるんだから)がんばんなさいよ」

 最低限には使える奴だと判断している令子は言った。

「期待していてください」

 そう言って横島はぐっと拳を握った。

「・・・程ほどにね。さて、着いたわよ」

「ここっすか?」

 横島が確認したのはもう今にも崩れそうなほどボロボロになった廃工場であった。初仕事以来、少しずつだが霊に対する感覚が鋭くなっていく事を最近実感し始めた横島はその感覚を頼りに霊の気配を探ろうとしてみた。と言うのもこれまでにも何度か仕事をしてきた中で令子に言われた事だからである。

―――現場にきたら先ず自分の感覚で霊の気配を掴みなさいっ!

 忘れていたら令子から容赦なく拳骨、蹴りが飛んでくるのである。横島も痛い目にあいたくないので、忘れないように努力した。最初のうちはうまくいかなかったが、回数を重ねるに連れ、うまく気配を探れるようになってきていた。

(まあ、教えた事は忘れず実行しているようね・・これが自然にできる様になれれば一番良いんだけど、私だって早々にはできなかったんだから無理はいえないか)

 横島の様子に令子は一応、満足を覚え現場たる廃工場を睨んだ。

「・・・予想より強力な悪霊のようね」

 令子は話が違うんじゃないと眉をしかめ言った。

「基準が判りませんが俺の初仕事のときの悪霊くらいありそうですね」

 横島は自分で感じた気配をそう評した。

「横島クンにしては良い読みしてるじゃない」

「えっ?そうなんすか?」

「横島クン、まさか当てずっぽうで言ったの?」

 令子が剣呑な表情で睨んだ。

「いえ、そんな滅相もないっすよ。本当のことっす」

 横島は令子の様子に青褪めて首をブンブンと左右に振り言った。

「まあ、そういう事にしておきましょう」

「おお、お待ちしておりました!美神令子さんっ!」

 令子と横島が師弟の会話をしていた時、声を掛けてきた人物がいた。その人物とは今回の客で令子のお得意様となっている不動産屋の一人であった。その客には連れが一人おり、そのなりは現場の人間のようであった。

「あら、これはお客様。どうしたんですか?たしか立会いはしないとか仰っていませんでしたか?」

 コロッと先程の態度をかえ令子は今回の客に営業スマイルで挨拶した。

「いやぁ、すいません。現場監督が解体現場を早く確認したいと言うもんですから、いけませんかね?」

 客は薄い髪の毛をいじり、少しあせった口調で言った。

「(この禿げ親父が!)お客様に申し上げたとおり、立ち会う場合は除霊現場は危険ですんでその辺の旨を記述した契約書をお渡ししたはずです。今回は保護するような契約はしていませんので、除霊の際にお客様に被害があったとしても当方は関知いたしませんよ」

 令子をよく知る人間なら一瞬、不機嫌になった気配を察知しただろう。横島も一瞬、ビクッとしてしまった。

(こわ〜、やっぱ、このねえちゃん、怒らすのだけは極力避けよう)

 横島は先程の一瞬の気配にそう固く誓った。

「何とかなりませんかね?」

 しかし、彼等お客はそんな気配を察知する事はなくごねた。

「そうしますと追加料金をいただきますよ?」

 令子は除霊料金を吊り上げる事で素人が除霊現場に踏み止まらない様にしリスクを回避しようとした。

「そんな、ただでさえバカ高い除霊料金を払っているんですからサービスしてください」

 しかし、客は令子の神経を逆なでするような事を言った。

(くっ、下手に出ていれば・・・しかし、ここは我慢すべきか・・・不動産屋はリピートがあるからここで関係を強化しておく事は後々のメリットに・・でも今回の悪霊の強さを考えればリスクは大きい・・・)

 令子は心の中で今後の金儲けと今回の成功とリスクを天秤にかけ悩んだ。しかし、悩んでいたとしても心の奥底では結論が出ていたのかもしれない。結局迷った末に出た結論は実入りの良い方をであった。それ故に令子は同業に陰口で金の亡者といわれる所以でもあった。

 ちらっと令子は横島を見た。

(最悪、こいつに体をはってでも助けるように言っておくか)

 令子は最小の危険に押さえるプランを立てた。

「・・わかりました。ただし、除霊現場と言うのは私達GSを名乗るものでも100%安全なわけではありません。よって当然ながら貴方方の安全も100%とはいえません。その事は承知して置いてください。良いですね?」

 令子は最後の脅しを柔らかく言った。その言葉に不動産屋の髪の薄いおじさんと現場のおじさんは顔を見合わせてしばらくして頷いた。

(まあ、人間は自分だけは大丈夫なんて根拠無い自信みたいなものを持っているから・・)

 令子は時折自分もそうである事を棚に上げて客の態度を冷ややかに見つめていた。

「わかりました。でも、一応は守ってくださるんですよね?」

 少々不安そうに不動産屋の髪の薄いおじさんは言った。

「こちらに余裕がある限りは。それから念のためこれを一筆書いて置いてください。万一の場合、ややこしい事になりたくないので」

 そう言って令子はこの場に立ち会う事は自己責任である旨を書いた誓約書を手持ちのバッグより2枚取り出した。なぜ、こんなものがあるのか時折あるのだ立ち合わせてくれと言う客がその時のトラブルを避ける為の書類は経験から用意はされていた。

「これにですか?」

「ええ、GS協会の様式によるものです。これにサインを頂けないなら立会いは許可できません」

 営業スマイルばっちりに令子は答えた。客達は渋々サインした。書類にお客達がサインするのを待つ間に現場のおじさんの「ああ、俺生命保険入ってなかったな・・・」等の呟きが聞こえてきたが令子や横島は無視した。もし何かあってもそれは自分の責任なのだ。

(やっぱ、あんな書類書くぐらいやからこの職業危険なんやなー)

 確かに唐巣神父の所で令子と契約した時にも色んな書類にサインした事を思い出した。中には親の同意書がいるとあって、恐る恐る親父に電話したら内容も聞かずに同意され後日、書類が届いていた。今更ながらの扱いに信用されているのか、それともいらん子だったのかと横島は悩んだものである。(結論的には後者と思う事になったのだ。これまでの扱いを考えて。もっともそんな事を思ったと両親に知られればそんな事あるかとド突き廻されるだろう)

「はい、ありがとうございます。今回ご依頼の悪霊はかなり強力です。現場近くに居るのでしたら遮蔽物があったほうが良いでしょう。丁度、貴方方が乗ってきた車があるようですし、それをここまで乗り付けてそれを遮蔽物代わりにする事をお勧めしますわ」

 令子は暗黙のうちに命が惜しければと付け足していた。その意を汲んだのか客達は頷いた。令子もそれに頷き返すと横島を呼んだ。

「なんですか?美神さん」

「いい、もしもの場合は横島クンが体を張ってでもお客を守るのよ?」

「いいっ!?」

 令子のいう言葉に横島は青褪めた。

「い・い・わ・ね・っ?」

 令子はぴしっとこめかみに筋を浮かばせながら言った。

(くっ、これがかわいい、ねえちゃんなら喜んで返事するがなんであんなおっさんの為に体はらにゃいかんのだっ!」

「横島クン、葛藤するのは良いけど最後の方、声に出ているわよ?」

「はっ、しまったっ!」

 横島は両手で頭を抱えて言った。

「まあ、いいけど」

 そんな横島を令子はあっさりと見逃した。金儲け以外に極力、労力を使いたくないのが本音である。

「良いんですか?あの人たちを立ち合わせて。面倒なだけじゃ」

「まあ、リスクはあがるけどメリットもあるから。まず、第一にお客の心証が良くなってリピートがあるかもしれない事、これって結構重要よ。最初は信用を積んで行かないといけないんだから。そして第2に除霊が楽にできる作戦を実行できるようになった事」

「ほ、本当ですかっ!」

「しっ!静かにお客に聞こえるじゃない。それから第3に第2に関連して横島クンの今回の危険度も少しはましになること」

 令子は横島と顔を寄せ合って話をする。

(いい、匂いや。やっぱ、このねえちゃん、ええわ〜)

 横島はちょっぴり幸せに浸った。

ゲシッ

 令子は話を聞いていない横島を殴った。

「こらっ!せっかく人が説明しているのにちゃんと聞かんかっ!ここはもう現場なんだからもう一寸緊張感を持ちなさい。減給対象よ!」

「そ、そんな〜勘弁してくださいよ〜」

 あうあうと涙する横島に令子ははぁとため息をついた。

「今回は見逃してあげるけど、次回は無いわよ?」

「ありがとうごぜいますだ〜」

「・・・いい?さっきは気を引くだけでいいといったけどそれはこの廃工場前に遮蔽物が無かったからなわけよ。でも、今回客が遮蔽物となるものを持ってきてくれたわ」

 そう言って人の悪い笑みを令子は浮かべた。その様子に横島はごくっと息を飲んでしまった。

「そこであんたはお客の護衛もかねるという名目で一緒に遮蔽物に隠れなさい。そこから、今回のおとり時に気を引くために持ってきたメガホンを使って悪霊の怒りそうな事を喋って挑発しなさい。そうすれば、廃工場に居る悪霊は力を使って横島クンを攻撃してくると思うわ」

「それじゃ危ないんじゃ」

「最後まで聞きなさい。向こうが攻撃するって言ったって廃工場からは出られないからせいぜいがポルターガイスト現象を起こすぐらいよ。それにそれなりに距離があるから強力なものは発生しないわ」

「本当ですか?」

 自信満々に言う令子に横島は不安そうに言った。

「あってもせいぜいがガラスが割れるくらいかな?それだって勢いよく割れないと思うから大丈夫よ。横島クンはどんどん悪霊を怒らせて力を消耗させてくれればいいの。それがうまくいけば除霊は簡単に終わるわ」

「わかりました。でも、本当に大丈夫ですよね?」

「しつこいわね。私を信用しなさい」

 令子は言い切った。その時、令子らの所まで客がそれぞれ乗った車が2台来た。

「さて、準備もできたし始めましょうか。横島クン、打ち合わせどおり、私が合図したら始めてね。相手はこの廃工場に執着しているからその点考えるのよ?」

「へーい」

 横島は持ってきた荷物の中から令子が要求した装備を取り出して渡し、最後に自分が使うメガホンを取り出した。それでもなお、持ってきた装備は横島が持ってきたリュックにパンパンに入っており、使わないものも持ってくるなんて非効率なと思い、前に聞いたが「GSの仕事では何が必要になるかわかんないんだから」と言われておとなしく引き下がった事がある。自分の命の保険と考えるとその考えにも頷けるものがあり素直に従ったのだ。

 横島が物思いに耽っている間に令子の方も準備段階に入ったようで合図がくる。横島は悪霊を怒らすべく考える。悪霊自体は廃工場そばに人の気配を察知したのか2階にしかない窓のそばに現れて横島たちを威嚇し始めた。客達はそれをみて「ひぇぇ」と慄いていた。横島は何度かの除霊による慣れで、これだけ離れていればそれ程の恐怖は感じなかった。

「よしっ!」

 横島は気合を発して手にしたメガホンを使って悪霊の注意をこちらにだけ向けるように言葉をつむいだ。

「おい、こらっ!とっととその工場から成仏しやがれ」

 いきなり突風が横島達の方に吹いた。横島の声に悪霊が反応したようだがまだ足りない。どんどん力を使わせ消耗させなければならない。

「いいか、君はそこの工場所有者に多大な迷惑をかけている!!抵抗をやめて速やかに成仏するんだ!!」

 どこかの刑事モノドラマに出てきそうな言い回しで悪霊に向かって横島は言った。客達も心配そうにしながら廃工場を車の陰から覗き込んでいた。

”ここは俺の工場だー!!再開発など許さん!!失せろっ!!”

 横島のその廃工場が他人のものだという言い方に悪霊はおおいに反応を示し、激情を発してありったけの力を横島のいるところにぶつけた。

 その途端、 横島らの居るところにラップ音が鳴り響き、車のガラスが粉々といっていいほどに割れた。

「「「うわーーぁっ!!」」」

 その場に居た男3人が一斉に悲鳴をあげた。

     *

「うまくやってくれているみたいね。横島クンもやっとこの仕事に慣れてきたかな」

 令子は横島の働きに満足しつつ霊的気配を極力抑えて、悪霊のいる2階へと向かっていた。最初の予定通りなら悪霊の力を大して消耗させることもできず、不意を突いて最初の一撃で大ダメージを与えて除霊を行う事を考えていたので、今回の客の申し出は令子に取り渡りに船だった。お陰で不意が突けなくても油断しなければ失敗しないレベルにまで消耗させる事ができそうだ。ただでさえ、不意を突くには不利なボロ屋であるから頭を悩ませていたのである。令子は悪霊をしばくのはすきだがしばかれるのは好きではないから。

『・・・・・』

”・・・・・”

 時折聞こえる言い争いの声と悪霊の反撃による騒ぎに令子はそろそろいいかと悪霊に近接する事にした。手にはこの手の悪霊を退治するのに使う吸引札を準備して。

ギシッ

 令子が悪霊に近づこうとしたとき踏んだ所がきしんだ。不意を突くならあせりもするが悪霊は見るからに消耗しており令子のレベルから見れば楽勝であった。令子は気にせず堂々と悪霊の前に立った。

”!!”

 突然の令子の登場に悪霊は戸惑っていた。

『おまえのかあちゃんでべそーー!!』

 窓の外からは横島による悪霊への挑発がまだ続いていた。内容は最早、子供の罵声に近いが。

「とっとと失せなさい。死んでからも世話焼かすんじゃないわよ!」

 そう言って令子は手にした吸引札を悪霊に向かって突き出した。

”ぐぉ!”

『はん、てめえは所詮、工場を維持できなかった負け犬だっ!』

 悪霊は令子に攻撃しようとするが横島からの挑発に気をとられてしまった。よっぽど気にしていたことであったのだろうか。

「吸引!!」

 令子はそんな悪霊の隙を見逃すはずも無く吸引札を発動させた。

”ぐわっ・・・”

 悪霊は発動された吸引札に吸い込まれた。吸引札は起動する霊力によりその吸引力が変わってくる。美神令子クラスの霊能者が使えば今回のケースの悪霊などは殆ど一瞬に吸引できる。

 令子は悪霊を吸引できたのを確認すると吸引札をたたんだ。

「一丁あがりっと!今回はぼろいわね。横島クンも良くやったわ。ボーナスは出さないけどね」

 令子は今回、装備を結構使うかもと利益もそんなに出ないと思ったのだが客が申し出てくれたお陰でその懸念も無くなりご機嫌であった。後はこの吸引札を燃やせば封じた悪霊も強制的に葬れるのであるが客が居るので目の前でやることにしよう。それで今回の依頼が解決した事を疑う事は無いだろう。

 令子が廃工場を出てくると遮蔽物としていた車が2台ともフロントガラスが割れボンネット部分がへこみボロボロになっていた。客は令子を見て緊張感が解けたのかへなへなと腰を地に付けた。横島はうれしそうに手を振った。

「美神さん!その様子じゃうまく行ったんですね?」

「当然でしょ。GSトップクラスの私がへまするものですか」

 令子は胸を張って行った。その時、はちきれんばかりの胸がたわわんと揺れた。それを見た横島はでれっと鼻の下を伸ばした。

「お客様?」

「「はいっ!」」

 びしっと立ち上がり返事をする客達。彼等も令子の色気にやられたのだろうか?先程とは打って変わって元気になっていた。

「この霊の止めどうなさいます?」

 そう言って吸引札を見せた。すると”ここから出せーー!”と騒いでいる悪霊が吸引札に映し出されているではないか。

「「うわっ!」」

「自分でします?ことらがやりましょうか?」

 令子は平然とそう問うた。

「そちらでお願いします」

 客は速やかに答えた。

「判りました」

 令子は客の要請に答え吸引札をたたんでそれにポケットから取り出したライターで火をつけた。たちまち燃え上がる吸引札。それをじっとその場に居たものは見つめた。流石に客達はナンマンダブと手を合わせ念仏を唱えていたが。

「これで依頼完了です。またのご依頼のときはご贔屓に。報酬は契約時に指定しました口座にお願いしまーす」

 令子は吸引札が燃え尽きるとそう告げその場を颯爽と後にした。

「あ、待ってくださいよ。みーかーみーさーん!」

 それを見た横島は持ってきた装備を慌てて背負い令子を追いかけ始めた。

 後に残ったのは呆然と見送る客だけだった。

「もう、二度と除霊現場なんぞには立ち会わんぞ」

「そうですな・・・」

 客はもの悲しげに乗ってきていた車の有様にため息を吐いた。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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