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GS美神 リターン?

 Report File.0001 「未来から その1」
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 ある高校の、ある教室において、日常としての授業風景がそこにあった。まあ、季節がら所々で春の日差しにうつらうつらと居眠りしている者達も一部にはいたが。そんな風景が突然、乱された。

ガタンッ!

 おとなしく授業を聞いていた(?)バンダナをトレードマークとしている少年が突然、席から立ち上がり騒ぎ出したのである。

「くそっ! ここはっ!? 今度はどこだ!?」

 少年はキョロキョロと周りを見渡した。

「どうした、横島? 授業中だぞ?」

 そんな少年、横島の態度に怪訝な表情で教師が注意した。

「へっ? 授業中!? …あっ! す、すんまへん!」

 横島と呼ばれた少年はやっと状況を把握したのか、教師にぺこぺこと頭を掻きながらオーバーに謝った。

「まあ、いい。それじゃ、続きを始めるぞ。いいか、これは・・・」

 教師は気を取り直して授業を再開していた。横島は席に座るがのん気に授業を受けている心境ではなかった。

(くそっ! 俺にいったい何が起きたんだ!? 突然、状況がめぐるましく変わるし…)

 横島は戸惑っていた。確かに自分は若年ながら、一般に比べて数多くの信じられないような事を体験してきた。正に波乱万丈というに相応しい。しかし、今回のはその中でも飛び切りのもののような気がする。

 そんな嫌な意味で豊富な経験の中で、今回、自分に起きている事象について心当たりがあった。だが、認めたくはなかった。それは経験した数多の死ぬかもしれないというケースの中でもベスト3に入るのではと思えるほど非常にまずい事態だったからだ。

 ふと、何度も死にそうな目に遭っている自分に思い当たり、悲しくなってしまった。

 だが、手をこまねいていても放り出された、この状況を解決する事にはならないと、自分なりに解決する方法を模索する事にした。

(情報を整理してみよう。えーと、今の現象が起こる直前っていうと、確か仕事から帰ってきたら、小鳩ちゃんがご飯を用意していてくれて…その手料理を食べていてその時、突然、美神さんが空中から現れて俺に降ってきたんだった。で、それが運悪く俺の顔に…顔に?)

 脳内フラッシュバックにより、持ち前の煩悩の高さから横島はその時の感触までを再現してのけた。

「う、うぉーーーーっ!!」

 またまた、横島が突然、奇声を発して突っ伏したのを見た教師はあまりの横島の異常な態度に焦った。

 実際には横島がある情景を思い出した関係で、前かがみにならなければならない状態になったのであるが、そんな事は知る由も無いわけで、教師は恐る恐る横島に近寄ってみると鼻血を出して痙攣し、悶絶しているように見えた。

「お、おい? よ、横島、大丈夫か?」

 教師は恐る恐る横島の肩に手を掛け揺すった。普通ならこう言った場合、揺するのはご法度なのだが、そんな判断力はこの状況下において無くなっていた。クラスメートも少し心配そうに横島の方を見た。

(そ、そうだ、美神さんの股間がお、俺の顔に…こ、これは堪らん)

 そんなクラスメート達の心配を他所に、横島本人は若くやたら無駄に熱いリビドーが爆発寸前という、やたらめったら健康そのものであった。

「おい! 横島! 気分が悪いなら保健室へ行け」

 横島のただならぬ様子に教師は横島に言った。その言葉が横島を現実に引き戻した。

「は、はい、は、腹が痛いんで」

 このままでは非常にやばいものがあると横島自身も感じて、教師の言葉に便乗し返事した。

 教室を出ていく時、横島は出ている鼻血を止めるべく鼻を押さえ、非常に元気にしている下半身を、皆の目から誤魔化す為にお腹を抱えるようにヨロヨロと歩いていった。

 どう考えても横島の言い訳どおりには見えない様子に、教師とクラスメート達は心配そうにそれを見送ったが、横島がそうなっている本当の事が知れていたら、袋叩きにあっていただろう事は確実である。

 教室を出て扉を閉め、横島はある程度離れると一目散にある場所に向けて猛ダッシュした。

 その場所とはトイレであった。


          *


「ふう」

 一息ついて、何かをすっきりとさせた表情をした横島は洋式トイレの中で先程の思考の整理を再開した。こう言った狭い個室と言うのは、何だか落ち着く事ができ色んな意味で、今の自分には合っているような気がした。

(と、とりあえず美神さんの事は置いておこう)

 横島は令子に関する事を思考しようとすると先ほどの記憶に触れ煩悩が触発される事になり、リビドーが納まらなくなるという事を繰り返していた。それでは一向に問題解決にならない。

(…それで美神さんに殺されそうになったんだっけ。あの形相を見て、俺は、「ああ、死んだな」って思ったんだよな…)

 その時の令子による横島への制裁行為は、今までの幾度となく加えられた中でも飛び切りのもので、思い出しただけでも震えが来る。下手すると精神的外傷になりかねない程の勢いがあった。自分からやった訳ではないというのにえらい災難であった。

(そういえば、あの時、目が霞む中、部屋の隅でぶるぶると震えている小鳩ちゃんが見えたんだよな。確か裸エプロンで、って…マジ!?)

「う、うぉーーーーっ!!」

 横島はまた同じ過ち?を繰り返してしまった。



「お、俺って奴は……」

 横島は涙を滂沱のごとく流しながら、しゅごっとトイレの水を流し、つぶやいた。

(しかし、小鳩ちゃんが何であんな格好で居たんだ? その辺の記憶が無いっちゅうか、ぼやけているというか…はっ、いかんいかん。煩悩退散、煩悩退散)

 またも横島は記憶から引き出した小鳩の姿の胸の部分をクローズアップしてしまい危うくリビドーが爆発しそうになって慌てて頭を振った。

(参ったな…この辺は美神さんの制裁で記憶があやふやになっているな…で、制裁の最後の止めを刺される直前で体がぶれる様な感じになって情景が変わったんだよな)

 今でも止めを誘うと目を血走らせた美神の拳がまぶたに浮かび、ぶるっと震えた。その拳が自分に炸裂する瞬間、突然、状況が変わったのだ。そう、視界が一気に炎に埋め尽くされた。

(まさか、もう一度あの炎を経験するとは思わんかったな…炎は生きているか…)

 それまでにも何度か火に晒されたが、あの時ほど火が怖いと思ったことは無かった。体中を炎で包まれたのである。それは恐怖といっていい。普通の人間なら精神的外傷になっても不思議ではない。幸いにも横島は火に対する精神的外傷を負う事は無かった。今回のでも。

 今までに横島は普通の人間なら精神的外傷をおってもおかしくない体験を何度も何度も体験しているが、そんなものとは無縁とばかりに大丈夫であった。それだけ見ても、精神的に超人といっても差し支えないだろう。誰にもそんな事を評価された事は無いが

(で、あの体験をして転がっている状態で、またすぐに状況が変わってたんだよな…次々に)

 横島はその様々な状況が思い出される中、ある一つの場面が思い浮かび、唇に人差し指を当てた。

「まさか、もう一度、ルシオラに会えて、話をして、キスができるとは思わんかったな…」

 もっとも、直ぐに横島はその後、勢いに乗ってその次のステップに持ち込もうとして、張り倒された事を思い出し苦笑した。

「もっと、雰囲気を読め…か…せっかくお前を取り戻す、足がかりができたって言うのにな」

 横島は何か深い感慨にとらわれた。暫くして我に返り、整理を再開した。

(後は月でメドーサと対決したり、ゴースト・スイーパー(これ以後GSに略)試験会場だったり、おキヌちゃんとの出会いだったりか…ここまで来りゃ、結論はでているんだよな。これは多分、一度飲んで滅茶苦茶えらい目にあったことのある”時空消滅内服液”と同じ状況だ。参ったな…)

 横島は認めたくない事を認めざるをえなかった。

(とりあえず色々と思い出してみると過去に遡るにつれて、そこでの活動時間が長くなっている事は確かだよな。でも、今みたいに極端に長くなったのは初めてだ)

 既に30分以上は経っているが、過去へと移り変わる気配は無い。この時間に来るまでの経緯でも段段長くなっていたが精々長くても15分ぐらいだった。

(前回の時は一定の時間になると過去へ移り変わっていたから、今回のは少し違うようだ)

 横島は今までの状況から、前の時とは少し違う事に気が付いた。そうすると少し心に余裕も出てきた。

「あれ? 今の俺って、霊能力が使えるのか? 試してみるか」

 横島は霊能力を使うべく両の手に握りこぶしを作り集中した。

カッ!

 両方の握りこぶしの隙間から僅かに淡い光が漏れ、掌を開けるとそこにはビー玉の様なものが出現していた。

「”文珠”はちゃんと出せるのか」

 横島は今の自分にも霊能力が使える事にほっとした。

「さて、念の為、”時空消滅内服液”と思しきモノを”中和”しておくか」

 横島が出した”文珠”、それは非常に幅広く応用の利くものであり、この玉”文珠”に念じて言葉の文字を一字だけ込める事で、その言葉の意味に従った事象を引き起こすと言う使い方によっては万能といってよい程、究極の能力だ。もっとも、たった一個では限界があるが、同時に使う個数を増やせば、引き起こせる事象は飛躍的に広がっていく。その分、制御は難しくなるのだが。

 ”文珠”は制御と言う問題がある為、実現できる事象は限られている。だが、それが逆にどんな事ができるのかと言う限界を見せていないと言う事でもある。そう言う意味でこの能力はトンデモないのであった。

 その”文珠”という能力を行使できる者は非常に希少であり、人類史上でも数えるほどしかいない。現在では行使できるのは横島だけであろうと言われているぐらいである。この能力がどれほど凄いものかは残念ながら持っている本人には毛ほども認識されていない。

 横島はできた2つの文珠にそれぞれ「中」「和」を込め、己に作用しているであろう魔法薬に働きかけた。

ピカッ!

 文珠の力が解放され横島の体にその効果が浸透していく。

「これで一時凌ぎだけど、ましになるかな」

 横島は前回の時に飲んだ中和剤と同じような効果を期待した。

 試した事など無いので”文珠”で魔法薬に対してどれだけの効果を及ぼすのかわからなかった。その辺は天に任せるしかない。

「はあ、これからどないしよ…」

 横島は途方にくれた。

 ”時空消滅内服液”…その稀有な魔法薬の効果を打ち消すには、服用者の一番印象に残っていることを再現すれば、その効果は消え元の時空へと帰還できるのである。

 しかし、横島の一番印象に残っている事とは前述した美神…正式には美神令子という彼のアルバイト上の雇用主という存在なのだが、その体のとある場所の感触なのだ。美神令子の気性を考えれば絶対再現は無理であろう。

「とりあえず、他に方法はないか考えるしかないのかな…最終手段はそれからだ。どうあっても帰らんとな。せっかくルシオラを復活させる足がかりを掴んだんだ。こんな事で消滅なんかできん! でもな…」

 横島はこの状況を打破する為の方法も、あるのはあるのだが実行する事は戸惑われた。だからと言って他の方法があるかというと、そんな方法は思いつかなかった。だいたい、思いついた方法も、成功するかは五分五分だと横島は思っており、問題の壁が途方もなく高い事に溜息を吐いた。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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