1話 味に満ちた満点の朝食
ジリリリリリリ… 部屋には、けたたましい目覚ましの音が鳴り響いていた。 僕は眠た目をこすりながら布団から手だけを出して、目覚まし時計の頭を叩く。 「ん……眠ぃ・・・」 ぼめっとした視線で、部屋の様子を探ってみる。 そこでたまたま視界に入ったカレンダーを見て、今日が土曜日であったことが浮かんだ。 土曜日ならまだ寝ていても大丈夫だろう。 そう思って僕は再び眠気に任せてまぶたを閉じた。 ジリリリリリリリ… 部屋には、またけたたましい目覚ましの音が鳴り響いていた。 そういえば、目覚まし時計にはスヌーズ機能が付いていたんだっけ。 僕は改めて手を伸ばして目覚まし時計をつかんだ。 そして、それを手元に引き寄せて時計の後ろにあるボタンを押した。 それにしても、土曜日だといのにどうして目覚ましが鳴ったんだろうとふと思う。 すると、どことなく、何か約束をしていたような気がした。 誰かと会うための約束……。 どうやら僕は、とりあえずここから出る必要があるみたいだった。 今日は茉子と会う約束をしていたんだった。 確か昨日の昼食で今日会えないかと言われた。 おそらく、深い意味もなく、いつものデートなのだと思う。 時期としても、もうすぐクリスマスが迫ってきている。 とはいえ、この前彼女の誕生日を祝ったばかりで、二十歳を祝して一杯のビールを云々……。 幼い頃に少し飲んだ記憶があるけれども、その味は相変わらず苦かった。 コーヒーの苦さとは違ってしつこさはないけれど……。 ああ、ビールを語っている場合ではなかった。 今は目の前で焼かれている目玉焼きについて、今日はソースか醤油かを決める場合だ。 ……それも何か違う気がする。 しかしこの部屋にコンロは二つしかない。 こうなると、例えば日本の朝食の定番料理『ご飯 目玉焼き 味噌汁 魚一尾』というのも、作る時点で破綻する。 いや、まだ二つあることをよかったと思うべきだろうか。 味噌汁は温かく、目玉焼きが冷たい朝食も寂しい。 それに比べれば今の状況は悪くはない。 冷たい魚も身をほぐすのが意外に手間だが、味噌汁を温めている間にしてしまえばいい。 多少冷めたとて、自分が食べる分だから、構うことか。 時たま、茉子がここに泊まったりして朝食を二人で食べる時もあるけど、そのときはトーストで済ませれば暖かい食事になる。 あとはハムエッグ(目玉焼きであることには変わりない)と一杯のコーヒー(ちなみに僕はブラックで、茉子は砂糖二杯)があれば十分足りる。 もっとも、この方が洗いものが少なくて楽に済むのだが、やはり朝に味噌汁を食べるのは日本人の嗜みというべきだろう。 そういえば、まだ名乗ってもいなかった。 遅ばせながら、僕は津野田 渡晴という一介の大学生だ。 ここから徒歩十五分としない距離のある駅から電車に乗り込んで、三駅ほど行けば在る大学に通っている。 そして、それとは逆方向へ一駅ばかり行った近くに住んでいる茉子という女性と付き合っている。 彼女とは高校入学以来の付き合いで、出会ってかれこれ五年になろうとしている。 あと一年もたてば小六の時の周囲の人たちと同じになるのか……。 もう、そんなに経っているのに、付き合い始めたのは二年ほど前から。 まあそういうのも色々とあったからなんだけど、その辺りの経緯はまた別の機会に。 その話は、二人の間ではそれもまたいい思い出だということになっている。 さりとて、二人ともその時にあったことを忘れているわけでも過去のものとしてしまっているわけでもない。 しっかりと"キミ"の願いを心に留めて付き合っているつもりだ。 ただあまりに気にしすぎると茉子にやきもちを焼かれてしまうのでたまに端に追いやられたりしているけど。 ともかく、そういったわけで、今日はその茉子からデートのお誘いが来ている。 であるからにして、土曜日にも拘らず目覚ましを鳴らして(一度止めてしまったが)こうして朝食を作っていたというわけだ。 あと他に、何か言っておかなければならないことがあっただろうか。 まあ思い出せばその都度言っていくことにしよう。 と、以前のように朝にパンの袋を探りながら一杯の牛乳を飲んで朝食を済ますようことからは脱却して、こんな朝食をとったりしている。 それもこれも、"キミ"が教えてくれたり、残してくれたメモ帳のおかげだろう。 ああ、あのときにもらった茉子からのプレゼントが役に立たなかったというわけではなく、あれはあれで役に立った。 例えば、野菜以外の保存方法とか調味料に関する考察とかパスタをレンジで茹でる方法とか。 おかげさまで、僕はあれから料理研究クラブに入った。 これで放課後の暇な時間が補填されたけれども、逆に夕飯のために買い物をする必要性が出てきた。 でも、これはこれで楽しいかもしれない。 このサークルでもって何か作った時には、夕飯を改めて作る必要性がなくなったのでその時は時間が空く。 それに料理研究クラブというからには、ケーキやクッキーみたいなお菓子も作る。 お菓子は入るまで作ったことはなかったけれども、これもなかなか安上がりで作ることができるし、しかも美味しい。 生憎家にオーブンはないから、レンジでできる限りしか家では作ることができないけど。 今度年末に実家に帰った時には、一度家にあるオーブンで作ってみようか。 きっと慣れないものを作ってるなと思われるに違いないけど……。 その時には久しぶりに茉子の家に行ってみてもいいかもしれない。 あの場所へは久しく行ってないけれど、今度こそ自転車の荷台に彼女を乗せて。 |
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