0話 夢見る世界 あの人のもと

その0

カランカランカラン───!
辺り一帯に、高く大きな鐘の音が響いていた。
今回もまた一人、地上へと一時の夢を見に還ってゆくのだと私は思う。
「今回第二万五千八百七十五回の当選者は……、二十世紀の河谷 美久さんです!おめでとうございます!」
地上部一時帰還課の係員が大衆の前でそう叫んだ。
名を呼ばれて少し驚いた女性は、群衆の中から係員の前へと出る。
それにしてもあの係員は相変わらずの威勢の良さだ。
もっとも、それを買って彼をあの職につけているわけなのだけれども。
「それでは、担当の者より一時帰還に関する注意事項を改めて説明しますのでこちらにどうぞ」
そう言われた河谷 美久という女性は奥の部屋へと勧められた。
さて、今回の夢追い人は、還った地上で、何をしてくるのだろうか。
制約の多い地上で、どうやって目的をこなすだろうか。
私は、地球の天国であるここの管理を行う職についている。
名前はテーラ。地上のイタリア語で"地"という意味だ。
ちなみに役職名は地上部部長。
地上から来る死者の誘導などを行っている部署の最高責任者だ。
主立っては、死者に対してある選択をさせることがその役割だが、たまに天国の人々に対してこういったキャンペーンを行ったりもしている。
こんなことを企画しているのも、きっとこういう選択を行った天国の住人にとって、この場所は快適であると同時に退屈でもあるだろうと思ったからだ。
多少なりと、皆が楽しめるイベントがなければならない。
それはともかく、イベントついでにこの一時帰還について話しておこう。
一時帰還のイベントは、まず天国でゆっくりと時間を持て余している住人に参加を募るところから始まる。
参加者は、地上に還りたい理由とその期間を記入して、一時帰還課に提出する。
その後、期間理由などが適切であると判断されて参加申込を受諾させた人の中から抽選で数名を選出して地上へ還る人を決定する。
選ばれた帰還者は、自らの定めた期間だけ連続して地上に居ることができるようになって、予め決めた人にだけ接触できることになる。
彼らはたまに霊感のある人にその姿を見られたりすることもあるけれども、そういった存在は寡少だから、そうなることはあくまで例外としておく。
ちなみに、地上に還りたい期間というのも審査基準であるから、あまりに長く地上へ戻るという行為はある程度防がれる。
地上へ戻った人物は、いくらもともと地上にいたとしても、一度はその場所から排他された存在であるから、あまりにも長い時間いると問題を起こしかねないからだ。
そうして地上に戻った人は、一時的に幽霊となり、主に幽霊の特権である空中浮遊と物体貫通の二つが得られる。
ちなみに、死後天国に来ることなく地上に残ってしまった死人も幽霊になるが、彼らは地上部幽霊対処課の人たちによって半ば強制的に天国に連れてこられたりしている。
一方、地上で一般的に死神と呼ばれている存在は、亡者誘導課の者であり、彼らは亡くなった人を天国へと案内する役割を担っている。
私自身の主な役割は、そんな彼らが亡くなった人を天国に連れてきた後にある。
連れてこられた彼らに、ある選択を迫るのだ。
「改めて言っておきます。あなたが地上へ戻っていられる期間は半月。つまり15 日間です。15日後に自動的にここへ戻ってくるようになっていますが、もしそれに対して何か抵抗するようなことがあれば、我々が強制的に連れ戻すこととなりますのでくれぐれもご注意下さい」
そう言われて、女性は静かにうなずいた。
「それでは、地上への一時帰還をお楽しみ下さい!」
係員の彼がそう言った後、手紙を多く抱えた彼女はすうっと消えていった。
これでまたしばらくは、帰還者の監視という業務が増えることとなる。

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