Prescription  処方箋

At first, please read the precription. (まず初めに、処方箋をお読み下さい)

それは、成人になるまでにおよそ九割が経験する病です。
症状は、動悸、息切れ、吃り、極度の緊張、涙腺の緩みなど。
大抵の場合、放っておくと治りますが、場合によっては一生治らないこともあります。
特効薬もあるにはありますが、上手く行けば解決、失敗すると大きな傷を負うことになる、危険な賭けでもあります。
また、何かに熱中しているとその病気の存在を忘れがちですが、時々ふとした時に症状が出ることがありますので注意が必要です。特に暇を持て余している時などご注意下さい。
さらに悪いことに、流感性があり、うっかりこの病気を相談などしてしまうと、他の人をも巻き込むことがあります。また、自身の病状が悪化することもあります。くれぐれも相手を選んで行って下さい。
この病気は羅患し、治癒しても再び罹ることが多いものです。一度の羅患である程度耐性ができることもありますが、逆により酷い症状を催すこともあります。また、その時々によって症状が異なることもあります。
病の自認は、ある場合とない場合に分かれます。またふとしたきっかけで自覚してしまうこともあります。そうなると更に悪化してしまう可能性が高いのでご注意下さい。

あら奥さん、私の目をじっと見て。どうしたんですか? もしかしてあなたも? えっ、違う? じゃあ私の顔に何かついているんですか? いや、何でもない? そうですか? では、話の続きを。

仮に、運よく特効薬が効果的に働いて、この病が解決したとしましょう。しかし、この病には実は第二段階がありまして、実はこちらの方が厄介です。
第一段階を見事乗り越えましたから、その特典でしょうか、幾らか満たされた感覚を味わうことができます。しかし、それに慣れてきた頃が要注意です。マンネリと申しまして、ここが一つの山場になります。これに幾多の人が悩まされてきました。
ただ、仮にこの患難を乗り越えたところで少しでも気を許すとまたやってくるのです。難儀ですよね。でもこれを乗り越えた先には、

えっ、できあがったものになんてそれほど興味ない?
そんなものは他所でやってくれ? 叶ったくせに贅沢言うな?
なんですか、急に……。本当はここからが大変なんですよ?
一人で悩んでいるくらい、訳ないんです。相手のいる方が苦労するんですよ。斯く言う私も昔ね……、あれどうしたんですか、急に耳など押さえて。
耳が痛いんですか? それは、ちゃんと検査しないといけませんね。
って、ちょっと! 患者さん! 困ります! 逃げられてしまってはどうしようもないじゃないですか! もう大丈夫、ってそういう訳にも行きませんよ! ほら、頬も赤くなって、熱もあるみたいじゃないですか!
駄目ですって、ちゃんと見せて下さい! 医者として、放っておくわけには行かないでしょう!? ちょ、ちょっと! まだ診察は終わってませんよ!? 患者さん! 患者さんってば!!

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