Outside 外側

Outside and/or Inside.(強がり)

もしかしたら。
次の瞬間、この手に握るケータイがそっと小さな恋のうたを奏でたら。
もしそうなったら、泣いてしまうかもしれない。
たとえここでケータイが鳴り響こうと、きっと私はそのコールに出ないだろう。でも、そうすることがその先にいる人を少しでも気に病ませてしまうのかと思うと心が痛かった。
だから掛けて来て欲しくない。そうしたら、私が想い出すこともないから。
それでも何故か手にしたケータイを手放そうとはしなかった。この部屋に捨ておいてそっとリビングにでも逃げてしまえば、ケータイが鳴ったとしても、落ち着いてから見るだけで済むというのに。
枕に埋めた顔を擦るように首を捻って置き時計を確認する。
手にするケータイを見ればそこに時間が書いてある。ただ、それ以外のことまで確認してしまう自分をいじましいなんて思いたくなかった。
例えばメールのチェックとか。
手がケータイの脇についたボタンをまさぐる。二つあるボタンのうち上のボタンを押せばいい。無意識にそのボタンの上で手を止めて、再び顔を枕に埋める。
何をしているんだろう。何がしたいんだろう。
私は、彼から連絡が来て欲しいとでも思っているんだろうか。こんな風に期待して、バカみたい。
このまま付き合っていても上手く行かないと、そう思い悩んで彼を振ったのは、何より私の方なのに。
鳴らないケータイに安心して。でも同時に寂しくて。結局自分がどうしたいのかよく分からなかった。すぐにでも鳴って欲しいような気もする。このまま鳴らないで欲しいような気もする。
でもそんなことはどうだっていいのかもしれない。ここで泣いてしまうのは時間の問題のような気がしたから。
泣いてしまうかもしれない。
もし、軽く決めたファッションが、たまに見せる隙のある仕草が、語りかける優しい声が、近づく端正な顔が、頼り甲斐のある腕の、感触が、預ける肩の……心地良さが……、そっと浮かんだり、したら……、もう……。
溢れ出した感覚は、留まることを、知らなくて。
何処か底の深いところから、ぐっと、ぐっと、沸き上がって。
止め処なく、止め処なく。
枕は静かに、でもすぐに濡れていった。

ゆっくりとゆっくりと夢に落ちて。
その先でも幾度の出会いを果たし。
飽きる程感情と理性が入り混じり。
でもそれは、夢の中と知りながら。
もう二度と逢わないと決めた寂しさに打ち震えて。
合わない理性と会いたい感情が入り交じってゆく。
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