One’s hometown

この部屋から南に見えるのは、数百メートル先までの田んぼ、それから工場(こうば)。
西には一本の県道。東には線路。
こんな光景を毎日ひにち見ることができるのも、もうすぐ終わり。
静かに輝く工場の光も、時々響くトラックの地鳴りも、線路を電車が駆ける音も。
みんな遠ざかる。彼が私をここから連れ去ってしまうから。
二人には前々から彼を紹介してあるから、きっとこの話には賛成してくれるだろう。
後は彼が何時ここに来るのか、ただそれだけ。
ここまでのゴールと新たなスタートへと向かう道は、もう開けているはずだから。
静かにベッドの上へと倒れて、そばに置いた鞄から一つの箱を取り出す。
それを開けて、歩を進めさせたものを暗がりで眺める。
外の工場の明かりで僅かに光るそれは、値段や重さで計れないもの。
ここには何よりも想いがこもっているはずだから。
柔らかな手触りのクッションに挟まれたそれに優しく触れ、軽く撫でる。
これが二人の至った結果。
そう思うと、金属さえもこんなに愛おしく感じられる。
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