Un ristorante
「俺と、結婚して欲しい」 私がワインの香りを嗅ごうとグラスを回している最中(さなか)。 彼が一度ここで食事がしてみたいと、前々から取りつけていた街のレストラン。 きっと、この台詞はずっと前から用意されていたもの。 そう、予約した時からこうなることは決まっていた──── ワインの色は赤。そして彼の頬も赤。 そして、ここにいる私も恐らくは赤。 喧騒と静寂が包む間に割り入る銀色の輪(シルバーリング)。 その時が来るのを今か今かと待ち構える彼の眼には、もはや私しか映っていなかった。 見抜いていたわけじゃない。 でも、この台詞が来た時の答えは、疾(と)うの昔に決めていた。 今、静寂が喧騒へと開く。 「私でよければ、喜んで」 彼を包む安堵。私を包む信頼。そして、辺りを包む銀(かね)の音。 その全てが愛おしい。 |