マリリン・マンソンは最高のエンターティナーだ。それが初めて生で観た彼らの印象だった。決して期待を裏切らない演出。予想もしていないようなトラップが次々と展開されていく。そこで走り回りながら客をじっと見据えながら叫ぶ! あぁ、本当に歌っている... 左右には、人の脚が扇状に並んだ不思議なオブジェ、バック神殿のような背景が貼られており、中心にマンソンのトレードロゴ"MM"と書かれている。そして左奥には一台のピアノが。もっと奥には三つの台座が設置され、なにやらでっぱりに黒いシートが被さっている。これから一体何が起きるのであろうか?まるで予想ができない。 オープニングアクトはBACK-TICK。ボーカル櫻井の深みのある身体の中にどんどん入り込んでくる声に客は思わず聞き惚れてしまう。存在感抜群のルックス。どこからくるのかわからない威圧感に圧倒されてしまった。昔とは少しジャンルが変わったようだが、相変わらずのかっこよさは衰える事はなかった。男性器?をかたどったマイクをなでつつ、またぎつつ。エロティックな動きをしながら歌う姿は、客を酔わせた。 再び客電がつく。SEにはマリリンマンソンの楽曲が流されている。オーディエンスは思い思いに期待をよせ、少しづつボルテージが上昇していく。何度か歓声が揚るが、まだ始まらない。まだかなとふと思った瞬間客電がバッと消える。 今回のアルバムTHE GOLDEN AGE OF GROTESK第一曲目のイントロが流れ始める。どこから登場してくるんだろう...目をきょろきょろさせていると、ばっと正面にいきなり現れた。 いつものようにボンテージルックで、コルセットを着用。生で観てもやっぱり怖い(笑)アルバム同様THIS IS THE NEW SHIT から始まる。始まったばかりなのに、もうテンションは最高潮。背中がかゆくなってしまいそうな低くて、しっかりと絡みつく独特な声はやっぱり本物だった。この人は絶対期待を裏切らない人だなと思った瞬間だった。身体を前後に揺らし、黒い髪をかきむしり、イッた目線で観客をちらちら見つめながら挑発する。会場中を走り回る姿はモンスターが暴れまわっているように思えるくらい狂気に満ちており、目が離せない。 そしてDISPOSABLE TEENSが披露され、場内は一気に白熱。ブラウン管でしか観た事がなかったイェイイェイイェイと、マンソンが両手を振って煽っているところを目の当たりにし、私自身大興奮だった。周りなんか見えないくらいに。と、いいつつ感じたのが、本当にノリがバラバラだったということ。正直本日のオーディエンスの一体感といったものがあまりなかったように感じる。私のように思いっきりヘドバンで盛り上がってた人もいれば(笑)じーっとその様を冷静に観覧してたような人もいれば、圧倒されたように口をあけたまま動かない人。待ってましたー!といわんばかりの人ばかりというより、新規ファンが増えたのであろうかと。思えば大阪城ホールの周りは黒一色だった。ビジュアル特有の黒服集団。h.NAOTOやBLACK PEACE NOW,ゴルチェの衣装などを身にまとう人々。比率で言えば女性の方が多かった気もする。という話はさておき、本題に戻ろうと思う。 その調子のままだーっと行き、"ROCK!ROCK!ROCK!"とオーディエンスを煽り始め、ROCK IS DEADへ。 そしてバックステージから顔に骸骨のようなメイクを施し、ボンテージ姿をした外人女性と、台座に3つのドラムと警官ちっくな男性が登場。バックには"mBSCENE"と赤く光っている。イッツショウタイム!といわんばかりにmBSCENEがスタート。まるでPVの世界が会場に舞い降りてきたかのような錯覚に陥る。無表情のまま淡々と叩く三人の男、後方の台座でフェロモンをまきながらストリップのような動きをするボンテージ姿の女性達。まるでミュージカルを見てるかのように新鮮で面白い。 今作のアルバムタイトルと同様THE GOLDEN AGE OF GLOTESKでは、ボンテージ姿の黒髪と金髪二人の女性がロボットのような動きをし、ピアノの前にちょこんと座って全身を前後左右にけだるく揺らしながら弾き始める。思えば女性は乳房をむきだしにしていた。(ハリボテらしいが)歌いながらマンソンはピアノの上に乗ってぐっと乳房をつかんだり、上で踊っている女性の上にまたがって、身体を前後に揺らしたり。18金スレスレのきわどさにエロティックな演出は、見るものを圧倒させる。 そのあとも大胆な演出の数々。まるでNIGHTMARE BEFORE CHRISTMASのjackのように手が長くなったり、(その服はジャンポールゴルチェデザインのもので、店頭でも売られており、長い袖を折り返すことによって、手が伸びたようになるらしい)電気がばっと暗くなったと思えば、8m上空にマンソンの顔と手だけが現れたり。その姿はまさに蜘蛛といったところだろうか。前回来日時は、アンチクライストスーパースターで何メートルにもおよぶ高さの鉄でできた竹馬?に乗って登場したこともあった。本当に彼は毎回予想外のことをしてくれる。バックステージから再び出てきたとき、シャンパンをポンっと勢いよく開け、乾杯するシーンもあった。 今回はそれだけではなかった。アンコールではステージ左右にマンソンミッキーの旗がばっとあがり、(ブラックミッキーにホワイトミッキー(笑))後方中央には、大きなマンソンミッキーのオブジェが(空気で膨らませてあるデパートの屋上にありがちなもの)登場。まさかみんなのアイドルミッキーマウスに扮してしまうとは、会場中のオーディエンスは予測しなかったであろう。 思えば某雑誌のインタビューに語っていた言葉で、こういうのがあった。本当は今作のアルバムに、ミッキーに扮したマンソンの写真を掲載する予定であったが、ウォルトディズニー側から禁止されたというものだ。それに対して彼はいろいろ語っている。みんなのアイドルミッキーマウスに扮するにもいろいろ意図があるようだ。彼は今までいろんなものに非難され続けていた。どんなバッシングを受けようが、やりたいものは必ず遂行し、期待を裏切らない素敵なものを届けてくれる。こんなに貫き通すアーティストはいただろうか?話題になったコロンバイン事件でも、マリリンマンソンの音楽が禁止になったりしたのにも関わらず、今作のアルバムはチャート一位をしっかりキープしている。 何があっても必ず彼らは私達の中に堂々とした姿を見せてくれる。何をやっても許されるろいうわけではないが、彼らのやることには必ず「意味」があるのだと私は感じている。見た目で決め付けている人も数多く存在するあもしれないが、彼は仮面を被った天才だ。何も考えていないようで、あらゆる面において計算している。それは彼のインタビューからでもしっかりと伝わってくる。この流れからいくと、もしかしたらウォルトディズニーから訴えられるんじゃ...そう脳裏によぎった時に突然彼が面白いことを始めた。 マンソンに扮したミッキーは両手をあごに乗せてかわいいポーズをしながら、愛想を振りまく。感想は「きもかわいい」といったところだろうか。背中がぞくぞくするけどかわいい。そのままSWEET DREAMSがプレイされる。待ってました〜!といわんばかりに会場内は大盛り上がり。と、またMCが。しばしトークをしつつ、いきなりアカペラでイッツスモールワールドを歌い始める。場内はそわそわしたり、笑い声が聞こえたり。きもかわいいミッキー姿、マンソン声でイッツスモールワールド。この状況を表すならば、ピーターパンのネバーランドに大人がやってきて、大人の世界に誘うサタンといったところだろうか。不気味だけど誘われる。そういった感じだった。 後半はそのまま王道の楽曲のオンパレード!THE FIGHT SONGでは会場全体で拳を上げながら「FIGHT! FIGHT! FIGHT!」と叫び、歌いながらボンテージ姿の女性と妖しく絡んだり、女性のおしりにマイクを突っ込んで、おしりを叩きながら歌ったり。挙句の果てには、女性ダンサーのガーターベルトを口ではずし、くわえたまま歌ったり。時折見せる不敵な笑みは、不気味でぞくぞくする。また淡々と無表情でプレイし続けるクールなメンバーがよりステージを素晴らしいものにしているような気がした。 そして最後はIRRESPONSIBLE HATE ANTHEM。最後まで休む暇も与えない素晴らしいショウだった。そしてバックステージにメンバーがはけたあと、ステージのセットは音を立てて崩れる。こんなところまで演出が!時間にして一時間強。オープニングアクトのBACK-TICKを合わせると、トータル二時間半のステージ。最後にこぼれた私の言葉は「すごかった」だった。 国内外のツアーでは、女性ダンサーが乳房や女性器をむき出しにしていたため、暴動が起きたという事件もあったようだ。もちろんその乳房や女性器はハリボテで、そういうふうに発表している。私が初めて彼らのショウを拝見した感想で言うと、やっぱりマンソン日本ではお行儀が非常にいいということ。他のアーティストに比べれば十分過激なのかもしれないが、マリリンマンソン本来の大胆な過激さをかなり控えめにしてるんではないかと。日本は礼儀に厳しい国だとよく言われる。確かに問題になれば、次の年から呼んでくれなくなってしまう。でも本当はもっと暴れてほしい。そう思い、いつかは外国のステージで歌う彼らが見たくなった。 個人的に私は、最近海外アーティストのライヴを観る事が多かった。それで思ったのは、マリリンマンソンのステージって完璧にショウなのだ。一つのミュージカルのようなもので、一回一回のツアーにはコンセプトや企画が統一されていて、例外があまりない。いっけんそう言ってしまうと面白くなさそうだが、それがはまりまくっているのでつい魅入ってしまうのだ。観るものを決して飽きさせない。 やっぱり彼らが好きだ。今度は何をやらかせてくれるだろう...創りこまれた完璧なショウもいいけど、今度はスタンディングで暴れたいものだ。 参考までに東京N.Kで行われたセットリストを紹介。 |