峠の頂上へ向かって車を走らせていたカップル。 運転していた男は、ドがつく程のヘタクソである。 しばらく走ると、T字路に差し掛かった。 ここを右へ曲がれば、あとは頂上まで一本道であったが、 右折恐怖症の男は、いかにも怪しい左の道へ入ってしまったのだ。 *右折恐怖症* あるとき、遥か前方から車が来ていた。 もちろん行けるタイミングであったので右折をしたのだが、 この男、モタモタしてる間に車が迫ってきて、 危うく事故を起こしかけたのだった。 それ以降、車には乗っていなかったが、 「どうしても行きたいとこがあるの。おねが〜い」 という女の、あま〜いささやきに、一瞬の迷いもなく 「いいよ! まかせとけ!」 可愛さとあま〜いささやきに弱い男。 『何がまかせとけだっ、俺のバカ!』 《決死の覚悟》で運転することになったのだった。 現在午後11時。 道は徐々に細くなり、車も人影もない。 戻るにも切り返しが出来るような場所がない。 いや、場所があってもこの男では無理だろう。 しばらく進むと・・・ 【行き止まり】の看板。 「どうしよう?」 女につぶやいてみたが、女は、 『スヤスヤ、スヤスヤ』 気持ちよさそうに、のんきに寝ていた。 そんな寝顔を見ていると・・・ いかん、いかん。そんな場合ではなかった。 どうするか・・・ ここなら切り返しが出来るスペースはあるが・・・ そのとき、前方に薄っすらと明かりが見えた。 とりあえず女を起こす。 「うん? もう着いた?」 「いや、迷い込んで、行き止まった」 「うっそ〜、でも・・・ドキドキっ」 なんてかわいい。 とりあえず、前方の明かりが気になったのか、 女も興味を示し、二人で行ってみることにした。 そこには大きな建物があった。 入り口を見てみると、 【おはけ屋敷】 という、ふる〜い大きな看板があった。 「ここって、おばけ屋敷だったのかなぁ」 気のせいだろうか・・・女の目が輝いているように見えた。 まさか、入ろうと言う気では・・・ 「なんかぁ、こわ〜い」 気のせいだったみたいだ。 いや、気のせいではない。 すでに入り口を開けている。 「おじゃましま〜す」 昔はこんな言葉があった。 『男は度胸、女は愛嬌』 それが今では、 『男は草食、女は肉食』 まさに女強男弱の時代を迎えている。 結局男も後からついて行く。 「キャっ!」 女が男にしがみついた。 男も女にしがみついた。その声に驚いて。 だが、うまく抱きしめるような形になってしまった。 この瞬間ほどドキドキすることはない。 (天の声「そのうち『ドケドケ』と言われるようになるのにの〜」) 「あっ、ごめんなさ〜い」 「だ、大丈夫?」 「うん。何かにぶつかったみたい」 微かな明かりが燈る中、男が見てみると、 みかん箱程度の木の箱が置いてあった。 よ〜く見てみると、貼り紙がしてある。 『この先、二手に別れて進むこと』 『必ず合流できるから安心せい』 「え〜っ、やだ、やだ」 ダダをこねるとこも、またかわいい。 かわい、かわい したくなりそうだ。 (天の声「いずれ『こわい、こわい』って思うようになるのにの〜」) ここは男らしく、 「合流できなかったら、必ず探し出してやるから」 そういって、男は手を振りながら、 恐る恐る左の道を進んだ。 車でなくても、やっぱり左なんだ、この男。 男が進んだ方向は、これといって何もない。 何もないのが、また不気味であった。 早足で進んでいくと、道をふさぐように立て札があった。 『ここで、もう一方にいる人の愚痴を叫ぶこと』 『叫べばこの先の道が開ける』 『ただし、普段言えない愚痴に限る』 『言わなければ、ここからは出られない』 『聞こえないから安心せい』 特に愚痴ることはなかった。思いつかない・・・ そのとき、向こうから叫び声が聞こえた。 「アホ、ボケ、カス〜」 「お前のせいでこんなとこ連れてきやがって〜」 「何さらしとんねん!」 「ビビリなのは知ってるんやぞ〜」 「それでも付いてるのかぁ」 「まだまだ〜」 『たま』・・・いや、『まだ』あるのかぁ。 「可愛い娘に誘われたら、どこでもついて行きやがって〜」 「この〜、ホイホイ野郎!」 男は半開きの口のまま動けず、ホイホイ状態。 (天の声「ホイホイ・・・失礼、ホラホラ、言わんこっちゃない」) が、バカな男は、とことんバカで臆病であった。 聞こえると思って叫んだ言葉がこれだ。 「ごめんなさ〜い」 情けない上に、女にも届いていなかった。 そう、どちらか一方のいや〜な叫び声がしか聞こえないのだ。 この男の人生は、こんなもんである。 (天の声「こんなもん、こなもん、粉モン。ホットケーキ! 失礼」 「将来、子供にも『ホット粉(こな)〜』って言われるのにの〜」) しかし、道をふさいでいた立て札が勝手に倒れ、 男は脱力の中、再び進み始めた。 しばらく進むと、合流点に着いた。 女もすぐに合流して、男の腕をつかんだ。 「も〜、怖かったし、さみしかった〜」 さすがの男も目が覚めた・・・ いや、まんざらでもない表情をしてやがる。 『やっぱ、かわいい〜』 (天の声「こんな男は、もう、ホット食(く)〜。サラダじゃ、失礼、さらばじゃ!」) この男の人生は、ここで終わるべきだったかもしれない。 男は腕をつかまれたまま出口へと連れて行かれ、 車に戻っていった。 そう、ここはおばけ屋敷ではなく、 まぎれもない『おはけ屋敷』 吐いてしまえばスッキリする『お吐け屋敷』 一方で相手の本性も見えてしまう、恐ろしい屋敷であった。 ちなみに天の声は、ここで人生を終え、住みついたのであった。 その後の二人がどうなったかは定かではない。 ただ、一つ気がかりなこと、それは・・・ 『男の運転』である。 無事に帰れたのか、それとも・・・。 この物語はフィクションである。 |
