はじめてのキスはいつだった? という質問にはいつも困る。子供の頃、クセのように抱いて寝てたクマやウサギには毎晩「おやすみ」のキスをしていたし、手乗りのセキセイインコには毎朝「おはよう」のキスをしていた。中学生の頃、壁に貼ってたザ・タイガースのポスターにはシワが寄るほどキスをした。そんなオモチャや小鳥やアイドルポスター相手のキスじゃなく、人間相手のはじめてのキスはいつ?
と問われたら、それは、中学時代の放課後であったかもしれない。
夏休み前の放課後の教室で、同級生の少女と二人きりでケンケンガクガクと恋愛談義をしていた。その内、まだ知らぬキスへと思いを巡らせた。「キスとはどんなものか?」どちらともなく誘い合い、キスごっこ(疑似体験)をしてみよう、ということになった。
わたしと彼女は儀式のようにおごそかに向かい合い、まずは人さし指でくちづけした。自分のくちびるに触れた人さし指で相手のくちびるに触れる、いわゆる間接キスだ。それを2、3度くり返した後、くちびるとくちびるをそっと寄せ合った。触れそうで触れ合わないかすかな感触で、くちびるとくちびるの間には、薄いベールのような初夏の風が吹いていた。そんな、くちづけ未満の淡い遊戯であった。ゆえに、これもキスの内には入らないだろう。
相手の息吹きを味わい尽くすような熱いキスが本物のキスだというならば、それは、生まれてはじめての母乳が、はじめてのキスであったかもしれない。ギリシャ神話によると、ヘラクレスが赤ん坊の時、女神へーラの乳房をあまりにも強く吸ったため、乳がほとばしって空にかかり「ミルキー・ウェイ」(銀河)になったらしい。
星の美しい夜空を見上げていると、唄をくちずさみたくなるのは何故だろう。無意識の内にくちずさむ唄は、多感な年頃に刷り込まれたものが多い。中学時代に好きだったザ・タイガース(沢田研二ボーカル)の『銀河のロマンスRomance
in the Milky Wey』は今でも時々くちずさむ。
さて、もうじき七夕だ。馴染みの居酒屋の軒端にゆれる笹の葉に、短冊を吊るしに行くのが恒例行事。恋に恋する少女なら「今年の夏こそステキな恋を!」と星に祈るだろうが…。いいトシした大人としては、誰に見られても恥ずかしくない一行をビシッと決めるのみ。いつもながら、やっぱりこれしかないと思う。「いい作品を描けますように!!」
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