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この春70才になった母は、15年前に父が亡くなった直後からアルツハイマーが始まった。母はまだ50代だった。若すぎる痴呆の発病を信じたくなくて、打ち消そうとした。そのため対応が遅れ、色んな人たちに心労をかけた。アルツハイマー初期症状の頃は、隣近所にお世話になりながら独居できていた母も、痴呆の進行とともに独り暮らしが困難になっていった。母の火の不始末で火事にでもなれば取り返しが付かない。とりあえず狭い我が家へ母を引き取り、在宅介護を始めた。 デイサービスを利用して、昼間はイラストの仕事や雑事ができたが、夜は油断大敵。夜中に目を覚ました母が、トイレの代わりに玄関や台所でオシッコやウンチをする。てなわけで、介護人の私としてはウカウカ安眠できない。小さな物音にでも目を覚ますように訓練されていく内に、猫の足音にまで目を覚まし、慢性睡眠不足になった。アルツハイマーは近い将来、自分自身にもやって来るかも知れない。それを見詰めながら10年、20年と在宅介護してる人たちには頭が下がる。 数年間、母を在宅介護した後、特別養護老人ホームへ入所させた。晴れて私は自由の身となったが、母を捨てたような負い目が残った。幼い子供を里子に出したような気分だろうか。母を捨てて手に入れた時間をムダに過ごしてはいけない。で、漫画を描いてます。なんて言ったら「お気楽な」って世間から後ろ指かもね。しかし、3度のゴハンよりお絵描きの好きだった娘を母は許してくれるだろう。どこかノンキな娘、手前勝手なことを考えながら今日も自転車を走らせた。 |
2001年4月桜日 うらたじゅん |