真夏の夜の二十面相 1999.7.9作





乱歩は明治27年三重県で生まれ大正5年早稲田大学卒業後大阪で就職するが長く続かず職を転々とする。大正12年「二銭銅貨」でデビュー。大正13年作家専業を決意。
淀川左岸東海道旧宿場町(守口)の借家で明智小五郎が初登場する「D坂の殺人事件」「心理試験」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」などの短編を次々と書き上げた。



 ぼくはこの近くで生まれたので明智六郎をペンネームにしている。
 夏休みになると同じ川沿いに住む従妹の映子と犬を子分にして、小高い丘の上に隠れ家を作り宝物やオモチャを運び込んだ。いつか川向こうの原っぱに宝物を埋めに行き、大きな宝の地図を作ってみたいと思っていたけどいつの間にか色んな物が建ってしまった。
 ピカピカになっていく表通りになじめず裏道ばかり歩いていた頃、路地裏の古本屋で奴と出逢った。
 映子を誘って壮一のライブへ行った。その夜はじめて映子は酒を呑み壮一に連れ去られた



大正15年(昭和元年)乱歩は家族とともに東京へ転居し、連載小説を開始。昭和11年初の児童小説「怪人二十面相」連載。
 少年探偵団が走った。原っぱが消えていった。東京オリンピックの翌年の夏、乱歩は世を去った。
 その夏の終わり、酒に酔った女子大生が果物ナイフで壮一を刺した。二人の間に何があったのか知らない。何者なのか知らないが年上の女が壮一を連れて店をでた。

 

別れたきり映子は壮一と会うこともなく、やがて顔は忘れたが・・・・・・。微熱を帯びた指の感触は肌の記憶に残り続けた。届けられた愛蔵本には壮一の指紋が生きた証のように点在していた。



 本に埋もれて二晩眠り、三日目に本棚に収めた


28頁

この作品は2000年1月20日発売の『幻燈』2号に発表しました。