〜3〜
 翌朝、宿屋から矢の様に飛びだしたルイルは通りで直角に曲がると真っ直ぐに城の外へ
と走る。
 日は既に登っており、メインストリートの朝市も終わろうかとしている。
 「やべっ、完全に寝過ごした。残しててくれよ〜」
 久し振りのベット。野宿のように火のばんをしながら朝までうたた寝で過ごす事も無い
。
 全速力で『盗賊の洞窟』と呼ばれる所に走る。
 その洞窟は街の東側にあり、城を出てから一度山に向けて進んだあと、街道沿いに進み
再び海に出る。
 山が浸食されて出来た断崖は高く、大きな岩で出来ている。よじ登ったとしても行き場
に詰まるだろう。
 その麓には僅かな磯がある。磯には干潮時にのみ現れる道を通り、数時間歩いた所にそ
の洞窟はある。
 ルイルが駆けつけたころには、所々道が寸断されているものの、向こうには蟻の行列の
最後尾が見えている。
 岩から岩へと、飛び移り、行列の後を追った。

 白い岩肌には道案内の役人を先頭に、様々な姿の影絵が隊列を成して進んでゆく。
 磯の小道を通り、やがてたどり着いた『盗賊の洞窟』。
 浸食によって出来たその洞窟の入口は大きく、船がいっそうまるまる入る大きさ。
 昔は海賊のアジトにも使われていた洞窟だとも伝えられる。
 洞窟の入口にある少しばかりの岩の広場。
 ここにたどり着くまでに既に潮が満ちてきて、いま居る足場でさえ波飛沫が掛かっている。
 「ここが『盗賊の洞窟』とよばれる場所だ。中に入ってから途中二股に別れている。一
つは上に向けて、もう片方は真っ直ぐ奥へと続いている。所々狭いところがあるから気を
つけろ」
 役人は判っている範囲で洞窟の様子をおおまかに説明した。
 「次の引き潮は昼前と夕刻だ。それまでに戻ってこないと、今夜は此処で眠ることにな
るだろう。それでは幸運を祈る」
 役人の言葉に一斉に雄叫びを上げる冒険者。
 元気良く声をだす者もいればうっとうしそうに上げる者もいる。
 そしてゾロゾロと洞窟の中に入っていった。
 「何だよ、結局ただの腕試しじゃないか。」
 「この国に闘技場があるにゃ。そこで戦えばすくるわかるにゃ。」
 「そうれし、そうれし。」
 「これにはきっと裏があるゼ。きっとな。」
 それぞれ独り言を言うような会話を交わす。
 いまいちお互いが信じられず、ある程度の距離を保ったまま奥に進む。
 そのうち、3ッの大きなグループに別れた。
 一つ目のグループは松明を使用する。その面々は戦士、格闘家が多い。
 中には魔道士の姿も見受けられるが、おそらく魔力を温存するために松明を使用するの
であろう。
 二ツ目のグループは魔法の〔明かり〕の呪文を使用するグループ。
 松明より明るいが、魔力の消耗が大きく、よほど魔力の強い者でなければ使わない。そ
の面々はやはり高位の魔道士達である。
 残りのグループは同じく魔法の〔視覚増幅〕を使用するグループ。
 これは白魔法に属する魔法の一種で、一時的に梟のように夜目が効くようになる魔法で
ある。
 一見、これが一番有効に思われるが、重大な欠点がある。それは洞窟など光が全く無い
所では何も見えないという事。
 そのため松明や〔明かり〕の魔法を使用するグループについて回る事になる。
 盗賊などの職業柄の人間が集まっている。
 一行は団子状になり、最初の別れ道にやってきた。
 向かって右側は大きく、左側はやや小さい。
 どちらも人の踏み込んだ後があり、古びた階段、誰も使わなくなんたナベなどの日用品
か 転がっている。
 「確か右側が上に出れると言ってたな」
 血気盛んそうな戦士が一人、左側には脇目も振らず右側の洞窟に入っていった。
 洞窟の濡れた壁に松明の赤い炎だけがユラユラと揺れている。
 その後を数人の人間が追って入った。
 「俺は左巻だから左だ」
 目茶苦茶な理由を付けて行く者もいれば、地面に剣を立て棒倒しで行き先を決める者も
いる。
 未だ、どちらに進むか思案している様子の者も何人かいる。
 そこへ息を切らせたルイルが追いついた。
 「い、いまどうなってる?。魔物はいたか?それから、えっと・・」
 魔道士風の男が答えた。
 「これからこの二股に別れた入口でどちらに進むか決めている所だ。貴様ならどちらに
進むか」
 ルイルは両方の道を見比べた。どちらをみても、大差がないように見える。
 「俺はどっちにしようかな。」
 チラリと後ろを振り替えると小さくなった入口の光が眩しいほど光っている。
 残った人数を見て何を思ったか、来た道を戻りだした。
 「どううた、逃げだすのか?。」
 ルイルを指差し、笑う者がいるがいっこうにお構いなし。
 「俺はひねくれ者だから表から崖伝いに行くだけさ。なにも其だけが道じゃないだろう」
 「そういって逃げるだけだ。とんだチキン野郎だぜ。」
 その男は悪態を付けてそのまま右の洞窟に入っていった。
 未だに行く先を決めかねている者達は顔を見合せたが、やはりひねくれ者はどこにでも
居る様で、ルイルを後を追う者もいた。
 結局、三十数人のパーティもそれぞれに別れ、ルイルと行動を共にするのはルイルを含
めて5人になった。
 先頭を歩くルイル。後ろから着いてくる者に声をかけた。
 「丁度いい人数じゃないのか。ひねくれ者同士。」
 「それは喧嘩売ってるようにも聞こえるぞ。」
 「〔類は友を呼ぶ〕ともいうにゃ。」
 「ん、呼んだか?。」
 一行は出口まで戻ってきた。
 役人は既に戻ったようで、その姿はない。
 ルイルは登れそうな所がないか、辺りき散策を始めた。
 入口まで戻ってきた4人の中で最も年長らしい、ふけ顔の魔導士が話を持ちかけた。
 「ちょうど4人、多からず少なからずちょうどいい人数である。ここで知り合ったのも
何かの縁である。どうだ、このメンバーでパーティを組んでみようではないか。」
 短く刈り込んだ髪に筋肉質な顔。顔だけみればだれがどうみても戦士の顔だが、れっき
とした魔道士。
 左手の黒い革手袋と松明代わりの眩しい光を放っている〔魔法球〕がその目印。
 顔に前髪がすだれの様に垂れ下がり、目を覆い隠している男が言った。
 「いいにゃ。それ賛成にゃ」
 入口の光が届く所でさえもその顔つきどころか表情すら分かちない。
 背丈はこの寄せ集めパーティの中で一番高く、190cmは軽くあるが、いかんせんヒョ
ロッとして頼り無い感じがする。
 細身のレイピアを持った男が言った。
 「ふん、俺様はお前たちがこの洞窟で果てるのが可愛そうだからついて着て
やっただけだ。勘違いをするな」
 サラリと流れる金髪、金属で出来た甲冑。みるからに貴族上がりの冒険者である。
 しかしその身長は低く、130センチにも満たない。
 魔道士は話を続ける。
 「そういえば主らの名はなんと言ふ。私の名前はフェルトン=ペックである。
みての通りの魔道士である」
 「俺様の名前はセラレータJrだ。二度とは言わん、心に刻んでおけ」
 前髪が長い男は手を上げた。
 「僕の名前はアバン=ギャルドにゃ。そういえばもう一人、髪の毛が二色の変なのが居
たにゃ。」
 洞窟の上から逆さまにぶら下がり、アバンの方を指差し怒鳴る。
 「お前に変な奴とはいわれとうない」
 アバンもルイルの方を指差す。
 「やっぱり変わり者にゃ」
 ルイルは一度、洞窟の上に消えたが、スルスルとロープだけが下りてきた。
 地面近くまでその先端が近づくと、続いてルイルが下りてくる。
 「人が居ないと思って好き勝手いいやがって。上ではくしゃみが止まらなかったぞ」
 魔道士フェルトンはルイルを指差す。
 「おい、お前。名前は何である。我々の自己紹介は終わったのである」
 「自己紹介しているだなんて聞いてないぞ」
 「聞かない方が悪いのである」
 アバンが変に元気良く片手を上げる。
 「僕はアバンだにゃ」
 「ほいほい、ニャーニャーうるさいのがアバンだな。そっちの二人は?」
 ルイルは顎先で残り二人を指差す。
 「も、もっと違う意味で覚えてほしいにゃ」
 アバンは一人一人指差しながらさっきの紹介を繰り返した。
 「あの鼻先で笑っている背の低い男がセラレータJrだにゃ。そして魔道士さんが、フ
ェルトンだにゃ」
 「判った判った。チビがラブレータJrで、オッサンがフェルトンだな」
 「ラブレータじゃないにゃ、セラレータにゃ。それに喧嘩売っている態度は印象良くな
いにゃ」
 フェルトンはルイルの前に立つ。
 「そういうお前は何者であるか?。」
 「ルイルだ。ま、変わり者程度の扱いでいいよ」
 アバンはフェルトンの後ろかルイルの方を指差す。
 「やっぱり変わり者だにゃ」
 「お前にだけは言われたくないっ!」
 「一通り自己紹介を終わった様であるな。ここで一つ、作戦会議を始めようではないか」
 かくして洞窟の入口で作戦会議が始まった。
 まず配置から決めるが、作戦会議自体を言いだしたフェルトンが仕切っている。
 メンバーの中で年齢が一番上であるし、これには何の依存も無かった。
 ただ、その仕切り様は半端ではなく、作戦会議の座る位置はもとより聞くときのポーズ
にまで難癖付けてくる。
 「ええい、何度言ったらわかるのであるか。そうではない、こうである」
 一向に本題に入る様子はなく、無駄に時間だけが過ぎる。

 あれから数分が経過した。ようやく次の議題、役割や配置を決める。
 不格好に〔ふ〕と書かれた石を中央に置いた。
 「私は魔道士である。よって中央である」
 通常、パーティを組むときは魔道士を中央に置くのが定石である。
 アバンは〔あ〕と書いた石を〔ふ〕の左側に置いた。
 「僕は左利きにゃ。左翼がいいにゃ」
 左翼に置く者は左利きが都合がいい。なぜならば人間、利き腕の方が守備範囲が広いか
らである。
 ルイルは背中に背負った刀を右側に倒し、〔る〕と書いた石を〔ふ〕の前に置いた。
 「それじゃ俺は両利きだから中央だな」
 そして左手で刀を握ってみせる。セラレータJrがレイピアをスラリと抜いた。
 「何を言う、この俺様が中央に決まっている!!」
 抜いた先で〔る〕と書いた石をよそに飛ばす。
 中央に置くのはルイルの言う通り、両利きもしくは突きを主体にした武器を持つもの、
または防御力の高い者を置く。
 しかし場面が洞窟となれば突き系の武器は狭い所でも使用でき、比較時の使用幅が狭く
、仲間に武器を当たるのをある程度防止できる。
 フェルトンは黙って〔せ〕と書かれた石を先頭に置いた。
 「ルイル君が右翼だ。場面によっては盗賊である君が殿に回ってくれたまえ」
 「ちいっとまて。配置は別に構わないが俺のどこが盗賊なんだ」
 「何をいっているのであるか。その姿をどうみれば魔道士に見えるというのだ」
 「誰がいつ盗賊だといった。俺はれっきとした剣士だ」
 セラレータJrはルイルの方に先程抜いたレイピアを突きつける。
 「ほほう、剣士とならば称号をあるだろう。言ってみろ」
 ルイルはセラレータJrの言葉に詰まった。
 称号とは簡単なランクの様な物で、冒険者ギルドが冒険者の能力管理を行うために使用
していた。
 やがてそれが公になり、一般的に使用されるようになったものである。
 自己申告制で、実力とは必ずしも一致しないがそれなりの目安となる。
 ルイルが持っているのは通常ハンターとしての仕事が貰える最低ライン。
 上のランクに行くほど試験が難しくなるが、ルイルが取らない理由はただ一つ、試験に
は結構な金が掛かるからである。
 セラレータJrは見下したような目つきで見上げる。
 「ほうら、ボロが出た」
 「うっさい、うっさい。盗賊でいいんだろ、盗賊で」
 取り合えず配置も決まった。

 一行はルイルが垂らしたロープを伝い、崖の上によじ登りはじめた。
 荒波に洗われた岸壁は起伏も多く、手を駆ける場所にこまらない。
 海に向けて突き出した様な場所も無く、ロープ無しでも随分簡単に登ることが出来る所
もある。
 スイスイとその崖を登って行くルイル。少し遅れてアバンが登ってきているが、その後
ろが随分遅れている。
 「ルイル。もっと他の人の事を考えるにゃ」
 「どうしたんだ?」
 「最初の垂らしたロープが登れないにゃ」
 「冒険者ならそれぐらい登れよな」
 ルイルはたらしてあるロープを一度引き上げ、手に緩く巻きつけたあと下に向けて投げ
つける。
 ロープはもつれながら地面に落ち、そこには等間隔に結び目が出来ている。
 「これで昇りやすくなっただろ」
 「そんな事できるにゃ。すごいにゃ。尊敬させてほしいにゃ。」
 「尊敬するまえに、覚えろよ。」


 崖を登りきるとそこは一面に背丈ほどの草原になっていた。
 所々に墓標のように岩が突き出しており、その向こうには森が見える。
 両側には延々と同じ様な風景が続いている。
 皆が揃った所でフェルトンが決めた隊列と取ってみる。
 魔道士を中心に、戦士が3人。
 ルイルはかなり攻撃力重偏パーティーである事に気づいた。
 「白魔道士が居ないのが少々危ないな。」
 「大丈夫にゃ、怪我しなきゃいいにゃ」
 「違う違う。白魔道士は治癒の専門家じゃない。治癒の専門家は青魔道士とか治癒師っ
ていうんだ」
 「よく知ってるにゃ」
 「そんなの常識だ、常識」
 唯一の魔道士であるフェルトンだか、その姿はみるからに赤魔道士である。
 「俺が言いたいのは、怪我を治す黒魔道士の治癒を使える奴だ」
 「治療は白魔道士じゃないにゃ?」
 「違う、違う。黒魔道士が傷などの治癒、白魔道士は病気などの治癒だ」
 ルイルはフェルトンの肩を叩く。
 「治癒系の魔法は使えるのか?」
 フェルトンはフッと鼻先で笑った。
 「何を言うか。魔法で治癒するなど軟弱者のなす術。魔術の神髄は炎、破壊、そして破
滅」
 「おいそれじゃ怪我人が出たらどうするんだ」
 「そんなもの、気合で治せ!」
 「治るかっ」
 ルイルも治癒魔法の類は使えない事はないが、効率が悪いために自分だけで精一杯であ
る。
 今更引き返す訳に行かず、まずは崖から洞窟が続く方角に向けて進んでみることにした。
 崖から進み、一つ目の丘を超えたとき、すり鉢状の地形が見えた。
 その地形の底には数人の役人と巨大な檻が見える。
 背の高いアバンが頭のうえに草を乗せ、上から様子を伺う。
 「何をやってるにゃ」
 暫く草葉の影に身を顰め、様子を伺っていると檻には魔物らしき生物が閉じ込められて
おり、役人が棒の様な物で一匹づつ、中央に出来た穴のなかに落としてゆく。
 「あやしい役人が4人にゃ、穴のなかに生きた赤い魔物を落としているにゃ」
 アバンは指差して言う。
 「うむむっ、何故生きた魔物を穴のなかに放り込むのじゃ」
 セラレータJrはレイピアで辺りの草を刈る。
 「全く、馬鹿どもの相手をするのは疲れるな。あの穴は下の洞窟と続いている。つまり
下の者共はははなから生きて返すつもりはないと言う訳だ。」
 「なにっ。すると我々は本来は生贄とされるのかっ。」
 「恐らくな。人身御供が何かにされるに決まっている。つまり我々がその真実を暴き、
英雄になるのだ。」
 「ううむ、許せん輩だ。ここは一つ、我々が成敗すねばなるまい。」
 フェルトンは懐から先程配置決めに使った石を取り出すと、地面に並べはじめた。
 「まず、我輩が魔導により先制攻撃をかけ、足の速い盗賊が攪乱を・・・。」
 敵役に置いた石の方に〔る〕と書いた石を近づける。
 「しかるにお主らが両翼から中央に攻め入り、」
 〔さ〕と〔あ〕と書かれた石を両側から敵役の石に集める。
 アバンが辺りを見回す。
 「ルイルが居ないにゃ。」
 先程までその辺りをうろついていたルイルの姿がどこにも見当たらない。
 「おそれを成して逃げたか。何分盗賊故、そのような姑息な知恵しかまわるまい。」
 〔る〕と書いた石をつまみ上げると、近くの茂みに乱暴に放り込む。
 「あれは誰にゃ?。」
 アバンが指差す方角には役人と何やら話をしているルイルの姿があった。
 なにやら楽しそうに話をしており、時折笑い声が漏れる。
 「うぬぬっ、逃げだすどころか寝返りおって。我が紅蓮の炎で炭になるまで焼きつくし
てくれるわ」
 「焼きつくしたら、灰になると思うにゃ」

 一方、ルイルの方はこっそりと役人の背後に立つ。
 「大変だな。なんで俺がこんな事をしなきゃならないんだよ」
 ルイルの言葉にも手を休めず、役人の一人は文句を言うように答えた。
 「全く、ここの王ときたら、何をしでかすかわかったもんじゃ無いな」
 「本当だ。腕試しなら何もこんな所で実戦しなくても、闘技場ですればいいんだ。
今日なんか娘の誕生日だぞ」
 役人は口を開けば出るのは文句ばかり。ルイルも適当に話を合わせる。
 「全く、ここの王ときたら口を開けば何をいいだすか判らないからなぁ・・・」
 「政に関しては何も言うことはないんだが」
 ようやく、一人違うのが混じっているのに気づいた。
 「おい、お前。そこで何している」
 「言いだすタイミングとしては随分遅いと思うぞ。ま、何者って聞かれれば、下で腕試
しをさせられている連中の一人だ」
 「洞窟の中にいる筈では」
 意味ありそうな笑みを浮かべるルイル。
 「洞窟の別れ道辺りで魔物の死骸を見かけたんだけど、日向にいるような魔物ばっかり
で変だなーって思って。まさか本当に腕試しだったとはな」
 ルイルは親指で低い丘を指差した。
 隠れてはいるものの、アバンの長身ゆえ、草を被ったその頭が茂みから見えかくれして
いる。
 「どうだ、ここで一つ取引しないか」
 役人同士、お互いに顔を見合わせる。
 「取引だと」
 「ああそうだ。別に嫌ならそれでいい。俺も下の連中にこの事を言うだけだから」
 「いや、それは困る。この事は内密にしろと言われている」
 「だろう。だったら取引してくれよ。用件は一つ、俺をお姫様とやらの救出メンバーの
一人に加えくれるだけでいい。面子が足りないなら適当に見繕って5、6人のパーティー
を編成するからさ」
 「しかしそうとなると我々の判断だけでは・・・」
 「なら上に抵当に報告してくれよ。すごい手練りがいるとか何とか言ってさ。こうみえ
ても魔物を退治して飯を食ってるぐらいだからそこそこの腕はあるぞ」
 役人のリーダーらしき男は少し考える。
 「こちらも面倒事はごめんだ。その用件を飲もう。
勿論、この取引の事は他言無用にな」
 「いいね、話が判るじゃないか。」
 「それとこちらも条件があるのだが、魔物の数と質で腕を見分ける事になっているから
一応数は仕留めておいてくれ。でないと報告するも上に示しが付かない。一応3匹以上が
ノルマだ」
 「わかった。ちゃんと水増ししてくれよ。魔物の数。もちろん、ここで始末つけてもい
いのだろ。」
 魔物が入った檻を軽く小突いた。

 取引がついたルイルは丘のうえで待機するアバン達を手招きする。
 「おい、いい話が転がりこんだぞ。俺たちが姫様の捜索隊に入れる事になった」
 迎えにくるルイルに向け、フェルトンの魔法球が迫る。
 その魔法球を追ってセラレーターJrが切り込んできた。
 ルイルは魔法球を避け、草むらの中に頭から飛びこんだ。
 セラレーターJrがその辺りを草に斬り付ける。
 セラレータJrの背後に現れるルイル。
 「おい、仲間に向けて刃を向けるって何の真似だ」
 「何を言う、裏切り者めっ」
 「誤解だ、誤解。まずは俺の話を聞け!。アバン、見物してないで何とかしろ」
 その後もフェルトン、セラレーターの連携のないコンビネーションで攻撃するが、ルイ
ルはそれをのらりくらりとかわす。
 ルイルの動きを先読みして大きめの魔法球を高々と上げるフェルトン。
 アバンはこっそりフェルトンの背後に回ると、足払い一つ。
フェルトンはバランスを崩して魔法球はあさっての方向に。
 「ルイル、一つ貸しにゃ」
 フェルトンは起き上がるやいなや、アバンの首を掴む。
 「アバンめ、貴様もか」
 つるし上げるフェルトンの腕から力が抜け、そのまま地面に倒れ込む。
 その背後にはルイルの姿。ルイルは四方み見渡す。
 「これでチャラな。」