マーズ・パスファインダーは世界を興奮と感動の渦に巻き込みながら、1997年7月4日アメリカの独立記念日に火星に着陸した。
ビーチボールのようなエアーバッグに包まれたランダーは、火星の地表に衝突すると空中に約15m飛び上がった後、15回バウンドして転がり、2分50秒後、最初の着地地点から1km離れた地表に静止した。
着地地点は、火星の北緯19.33度、 西経33.55度に位置するアレス谷であった。
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アレス谷 |
アレス谷は流出した堆積物でできた大平原で、20年前にバイキング1号が着陸したクリュセ平原に近く、そこにはアメリカの五大湖に匹敵する水量の大洪水で形成されたと思われる流床の跡が見られる。
マーズ・パスファインダーは、ランダーとランダーに搭載されたソジャーナーという名前のミニ・ローバー(小型探査車)で構成されていた。7月6日、ソジャーナーは火星の地上に降り立ち、
初めて火星の景色を地球にテレビ中継したほか地表の調査も行った。
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ソジャーナー |
カール・セーガン記念基地 |
ランダーは有名な天文学者でNASAの惑星探査に大きく貢献した故カール・セーガン博士を偲んで、カール・セーガン記念基地と命名された。
マーズ・パスファインダーは「より速く、より良く、より安く」を、モットーとするNASAの新しいディスカバリー計画の方針に基づくミッションの第2弾で、総費用は2億6500万ドルと、1977年のバイキング・ミッションの僅か1/14であった。
着陸方法も革新的で、
直接火星大気に突入して大気の抵抗とパラシュートで減速した後、エアーバッグを膨らませて着陸する今迄に見られなかった方法が採用された。
このミッションの科学的目的は、1)降下中に火星の大気を観測すること、2)地表のクローズアップと遠近画像を撮影すること、
3)岩石と土壌を構成する物質の組成と特性を分析すること、4)気象の調査、そして5)将来の探査に備えて火星環境を探査することであった。
工学的な意味では、地球-ランダー間の交信、カメラとセンサーの性能およびローバーの火星地表での操作性と機能性のテストも兼ねていた。
1996年12月4日、マーズ・パスファインダーはデルタ7925型ロケットに搭載されて打ち上げられた。
双曲線軌道を描きながら飛行を続け、パスファインダーの飛翔ステージから切り離された。ランダーを搭載した大気突入機は、1997年7月4日、火星の周回軌道に乗ることなく、火星の130km上空で秒速7.3kmで大気圏に突入した。火星の着陸5分前であった。3分後、耐熱シールドの働きで、突入機の降下速度は秒速400mに減速された。高度9.3kmでパラシュートが開き、突入機の降下速度は秒速70mに落ちた。20秒後、耐熱シールドが切り離されると、長さ20mの係留ロープの先端に繋がれたランダーがロケットを逆噴射させる突入機から離されて下がり始めた。
高度約1.5kmでランダーの高度計が火星の地表を確認した。
着陸の約10秒前、エアーバッグが直径5.2mの巨大なビーチボールのように脹らんでランダーを包み込んだ。
着陸6秒前、高度98m、3基のロケットが逆噴射して更に減速した。 着陸4秒前、 火星地表の21.5m上空で係留ロープが切断され、
エアーバッグが地表に落下し始めた。 3.8秒後、エアバッグは7月4日米国東部夏時間午後12時56分55秒、秒速18mで火星に衝突した。
最初約12m空中にバウンドした後、 少な くとも15回弾んでから転がり、
衝突の約2.5秒後ほぼ1km離れた地点に静止した。
着陸の87分後、3枚の三角形の太陽電池パネルが花びらのように開き、
24種類のフィルター付きの3Dカメラ(IMP)、
大気と気象データを集める測定機器(ASI/MET)が見え始め、ミニ・ローバーのソジャーナーが姿を現わした。
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ソジャーナーには、火星の岩石と土壌を分析するアルファ・プロトンX線分光器(APXS)とカメラが搭載されていた。
ランダーは、降下中に得た工学と大気の科学データを地球に送信すべくシグナルを送った。
このシグナルは、米国東部夏時間の午後2時34分に地球で受信された。 ランダーの3Dカメラは、
真近かの周囲やソジャーナーの様子と、着陸地点の風景のパノラマ写真を撮って
地球に送った。回収しきれなかったエアーバッグを取り除く作業の後、太陽電池パネルの上でじっと待機していたソジャーナーが、ランダーのランプ(傾斜路)からゆっくり走り出て火星の地表に下り立った。米国東部夏時間で7月6日午後1時40分であった。
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