ミューゼズ−Cミッション
(探査機名:「はやぶさ」)



打ち上げ機関 文部科学省宇宙科学研究所
打ち上げ時期 2003年5月9日
総重量 500kg
ネット重量 227kg

ミッションの目的と課題

 世界初の小惑星サンプルリターン・ミッションである。MUSES−Cとは、Mu型のロケットを用いる工学実験衛星(Mu Space Engineering Spacecraft)のことである。ミッションの目的は、彗星や小惑星のような小天体のサンプルを採取して地球に持ち帰るために必要な、様々な宇宙工学技術のテストである。サンプルリターンの目標となる天体は、大きさが約600mX300mの小惑星1998SF36である。この小惑星は、SタイプのNEA(地球近傍小惑星)でもある。
 ミッションの実験課題は、電気推進エンジンの実用、カメラ、レーザー高度計、近距離センサー及び衝突防止センサーなどを用いて、探査機が自らの判断で小惑星に遭遇するための自律航行技術、微小重力下におけるサンプル採取技術及び再突入サンプル回収カプセルによる地球帰還技術の確立である。
 このミッションで初めて使用される電気推進エンジンは、従来の化学燃料による推進エンジンに比べると効率は10倍も高くしかも長時間の連続加速が可能になるため、小型探査機の惑星間空間の航行には最適であると考えられている。カメラを搭載したミネルバ(小型のホッピング・ロボット)は小惑星に着地して、地表の様子を地球に送ってくる。また、小惑星が非常に小さいために、ターゲット・マーカーと呼ばれるソフトボール大の球を予め地表に落下させて、これを探査機の降下目標地点にする試みもなされる。

ミッション・プロフィール
 M−V型ロケットに搭載された探査機MUSES−Cは、2002年11月、地球から約1.5AU(1AU=約1.5億km)離れた小惑星を目指して、鹿児島県内之浦の鹿児島宇宙空間観測所からで打上げられる。約1年半地球軌道を周回した後、2004年春に地球スイングバイ(重力加速)により加速して惑星間空間の軌道に入る。2005年夏、目標の小惑星の軌道に到着し、サンプル採取を始める前に約3ヵ月間小惑星全体を精査する。

 この科学調査を終えると、探査機は小惑星に向かって降下を開始する。降下には、航法用カメラ、レーザー高度計、近距離感知器、衝突防止センサーなどを使用し、探査機の安全を確保する。また、目標が小さい小惑星であるため、ターゲットマーカーを投下して目標地点を決める。

サンプル収集装置
探査機は、小惑星の表面に接近すると、金属製の弾丸を打ち込んで地表を砕き、それにより放出される細かい破片を探査機の下に取り付けられた長さ1mの円筒形の試料採取装置(サンプラー)で集める。採取されたサンプルは、探査機に内蔵されたサンプル回収専用容器(カプセル)に運び込まれる。サンプルの採取は数回、異なる数箇所について行われる。探査機は地表に数秒間接地してサンプルを採取すると素早く飛び上がる、いわゆるtouch and goを数回繰り返す。

 探査機は、2005年末には小惑星を離れて地球への帰路をたどる。2007年夏には、回収カプセルが探査機から切り離され、大気圏に再突入した後、パラシュートを展開して地上に到着する。このミッションで、世界中から応募した87万7000人の名前が小惑星に届けられる。
          

計画変更                            
「はやぶさ」探査機は、燃料漏洩に起因するガスの噴出と推定される姿勢変動を生じたため、2005年12月9日以来、運用ができない状態が続いており、復旧作業を行っています。長期的には復旧できる可能性は比較的高いものと考えられますが、当初計画されていた2007年6月に地球に帰還させることは難しくなり、飛行を3年間延長して、2010年6月に帰還させる計画へと変更することとしました。



ホッピングロボット・ミネルバ