ジオット
投下時期
軌道上の重量
1985年7月2日
582.7kg

ジオットは、ハレー彗星に最接近した探査機である。 1986年3月14日、ハレー彗星の核から596kmの地点まで最接近して核の撮影に成功した。 ハレー彗星ミッションの冒頭の画像は、ジオットが撮ったハレー彗星の核の画像である。

ジオット・ ミッションの主な目的は、1)ハレー彗星から500km以内に接近して、核のカラー画像を撮影すること、2)彗星のコマ(彗星の核を取り囲んでいるガス体)に存在する揮発性成分の元素と同位元素、特にその素となる粒子の組成の特定、3)彗星の大気と電離層で起る物理的、化学的過程の解明、4)ダスト粒子の元素および同位元素の組成の特定、5)彗星と太陽風の相互作用で生ずるプラズマの流のメカニズムの調査であった。

ジオットの本体は、直径1.85m、高さ1.1mの円筒(上部に取り付けられたアンテナを加えた高さは2.85m)である。 ジオットの前頭部は、厚さ1mmのアルミニュウム製のシールド(防護殻)とその25cm内側に取り付けられた厚さ1.2cmのクッション状のケブラー(Kevler)で保護されている。 この二重の防護殻により、1gまでの粒子の衝突には耐えられるように設計されている。

機体の内部は3つに仕切られており、上部は厚さ30cm、中央がメインのコンパートメントで厚さ40cm、下部は観測用のコンパートメントで厚さ30cm、それぞれ科学機器とサブシステムが収納されている。科学機器には高利得パラボラアンテナ、狭角カメラ、 3基のニュートラル(電荷のない物質)、ダストおよびイオンを測定する質量分光計、種々のダスト検出器、偏光撮影カメラおよびプラズマ測定器が搭載されている。

3月14日、ジオットは、最接近の14秒前までは全く正常に機能していた。しかし、最接近の瞬間ダストの大粒子が衝突して、アンテナが地球から逸れたため、データの送信は32分間断続的になった。 この衝突でカメラは破壊されたが、その直前まで撮られたカラー画像には、核のクローズアップ画像が鮮明に写っており、彗星の核の実態が初めて明らかにされた。 ハレー彗星の核は、予想以上に暗い長さ16km、幅7.5km厚さ8kmのピーナツ型の固体であった。 そして核のほぼ10%以上の表面からガスとダストのジェット噴流が吹き出していることわかった。かくして、ホイップルの提唱した「汚れた雪玉説」は確認されたのである。また、ダストやイオンの質量分析器の測定により、ハレー彗星は質量の80%が水の氷でできていることがわかった。 このようにジオットは、ハレー彗星に関する最も詳しい貴重なデータをもたらしたのである。

ハレー彗星のミッション終了後、ジオットは次の延長ミッションに入った。1992年7月10日、ジオットは地球から1630万kmを通過した。これは探査機の深宇宙からのフライバイによる最初の地球遭遇となった。ジオットはこのフライバイで地球の重力を利用して加速し、目標でであるP.グリッグ・スケレラップ彗星との遭遇(7月10日)に成功した。ジオットは、この彗星に200kmまで最接近した。8基の搭載機器は順調に作動し、驚くほど大量のデータが得られた。 1992年7月23日、残りの燃料が僅か7kgとなり、3度目の休止モードに備えた最終軌道修正と探査機のシステム調整を終えた1992年7月23日、ジオットのミッションは終了した。

ジオットの名前は、1301年に出現したハレー彗星を絵のモチーフに描いた、イタリアの画家ジオット・デイ・ボンドーネに因んだものである。