ガ リ レ オ ・
ミ ッ シ ョ ン

ガリレオ・のオービターから雷鳴轟く木星の大気の中に放たれたプローブ
オービタ ー
打ち上げ時期
  軌道上の重量
1989年10月18日
2380.00kg
プローブ 1995年7月13日
投下時期
軌道上の重量
1995年7月13日
335.00kg


 ガリレオは、木星オービター・プローブ(JOP)と言われるように、オービター(軌道周回機)とプローブ(大気突入探査機)で構成された、史上初の木星軌道周回探査機である。スペースシャトル・アトランティスに搭載されて、ケネディ宇宙センターから打ち上げられた。ガリレオは、打ち上げ後6時間7分でアトランティスのIUS(慣性上段ロケット)の推進により発射された。1時間後、IUSの第1段が点火され、ガリレオは木星に向かった。

ガリレオ・オービターの目的は、
 1) 木星大気の循環と力学の調査
 2) 木星の上層大気と電離層の調査
 3) ガリレオ衛星の形状、地質、物理状態における特性調査
 4) ガリレオ衛星の組成や地表鉱物の分布調査
 5) ガリレオ衛星の重力場、磁場および力学特性
 6) ガリレオ衛星の大気、電離層、ガス状雲の調査
 7) 木星の磁気圏とガリレオ衛星との相互作用
 8) 木星のベクトル磁場とエネルギーのスペクトルと組成の特性、
    および活動粒子とプラズマの角運動分布の調査である。


ガリレオ衛星とは、1610年にイタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイが発見した。
イオ、エウロパ、ガニメテおよびカリストのことである。


 オービターは、回転部と非回転部の二つのモジュールで構成されている。回転部はガリレオの本体で、8角形の箱型をしており、電子機器、荷電粒子検出器、星間塵検出器、プラズマ検出器、スター・トラッカー(星感知器)が収納されており、そこから磁力計やプラズマ波観測アンテナが取り付けられた科学ブームとRTG(ラジオアイソトープ熱電対発電器)が取り付けられたブームが2基伸びている。この本体の上には高利得アンテナと低利得アンテナが装着されている。非回転部には、リモート・センシング計測機器、電荷結合素子カメラ、近赤外線分光計、紫外線分光計などが装着されたスキャン・プラットホームやプローブが収納されている。

 ガリレオ・プローブの目的は、パラシュートを展開して木星の大気の中を75分間降下しながら、次の調査を行なうことである。
 1) 木星大気の化学組成の特徴
 2) 少なくとも、10バール・レベルまでの木星大気の構造特性
 3) 木星雲の粒子の性質および雲の層の位置と構造
 4) 木星の放射熱のバランス
 5) 木星の稲妻
 6) 活動荷電粒子の上層大気への流出量  

 プローブは直径1.25m高さ86cmで、減速モジュールと降下モジュールから成っている。減速モジュールには、前後に熱シールドが取り付けられている。降下モジュールは科学機器とそのサブシステムからなるパッケージで、パラシュートで木星大気の中を降下する。

 1990年2月10日、ガリレオは金星に1万6130kmまで接近し、金星スウィングバイにより加速して秒速30kmで地球に向かい、12月8日、地球上空961kmで1回目の地球スウィングバイを行なった。この時、ガリレオは自転する地球の素晴らしい映像を収めた。1993年8月28日、再度地球に接近(上空304km)して2回目の地球スウィングバイを行い、秒速38.5kmに加速して木星に向かった。

 1995年12月7日、打ち上げから6年強の歳月を経て、遂にガリレオは木星に到着した。同時にプローブが発射された。プローブは時速10万8000kmの速度で木星の上層大気に突入し、23バール・レベルに達する57分間、搭載送信機がオーバーヒートで焼き切れるまで、太陽系最大の惑星の大気に関する史上初の数々のデータをオービター経由で地球に送り続けた。

 木星へ向かう途中の1991年10月29日と1993年8月28日、ガリレオは小惑星ガスプラとアイダの初のクローズアップ画像を撮影した。また、アイダが自前の衛星ダクティルを持っていることも発見した。


gaspra-001.jpg
小惑星ガスプラ
Ida-0002.jpg
小惑星アイダ、右側の小さな点が衛星のダクティル
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衛星ダクティル


この他ガリレオの主な発見は次のとおりである。
月の裏側の南半球の太古の巨大衝突ベースン(アポロ計画のデータでその存在は示唆されていたが、確認には至らなかった)
月の火山活動が従来の予測より広範囲であったこと
今までで最も激しい惑星間の塵嵐
木星の上層雲の上に存在する幅約5万kmの新しい放射線帯
時速600kmを超える木星風
木星大気の水の量が、ボイジャーの観測やシューメーカー
レビー第9彗星の衝突で推定された量よりもはるかに少いこと
木星の稲妻の頻度は予測よりもはるかに少なく地球の約10%であるが、エネルギーは、地球の稲妻の約10倍も強力であること
木星のヘリウムの存在比は24%で、太陽(25%)とほとんど同じであること
連続的な火山活動のため、衛星イオの地表は絶えず再生され、1979年にボイジャーの接近通過時よりも大幅に変わっていたこと
衛星イオとガニメデに固有の磁場が存在するという仮説をデータで裏付けたこと
衛星エウロパの地表下に、衛星規模の液体の水の海洋が存在する証拠発見したこと


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ガリレオが1996年(左)、ボイジャーが1979年(右)に撮ったイオの火山の比較

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エウロパと水の海洋の存在を示唆する表面の模様


 数々の新発見をしたガリレオは、1997年12月末で1回目のミッションを終了し、引き続き2回目のミッションに入った。ガリレオが撮影した衛星エウロパのアーク状の表面地形は、氷殻下の海洋の潮の満ち干によるもので、地球以外の生命が存在する可能性が示唆されたことと、太陽系随一の火山性天体、衛星イオの最接近撮影である。


エウロパのアーク状の表面地形
gal_io2_47971.jpg
衛星イオの全体画像


              1999年10月10日、ガリレオは上空500kmまで接近し、噴火する火山や溶岩流やの生々しい画像を送ってきた。
PIA02510.jpg
                    1999年11月25日、ガリレオは高度を下げて、ツバシュター火山が噴火する瞬間をとらえた。

ツバシュター火山の巨大なカルデラの中を走る長さ100kmの亀裂から、カーテン状の溶岩が高さ1.5kmにまで噴き上がっていた(この現象は、溶岩噴泉と呼ばれる)。最高1317℃にも達した溶岩の高温と強い光のため、ガリレオのカメラは露出過多となり溶岩の部分は白く写ってしまった。 これは、溶岩が噴き出す様子をコンピュータ処理で再生したものである。


 ガリレオは2000年1月3日エウロパのフライバイを行い、1997年12月から始まった第2次ミッションを終えた。2000年2月1日より、名前をガリレオ・ミレニアム・ミッションと改め、2000年12月末まで続く新たな観測活動に入った。2月22日、高度199kmまで降下してイオとエウロパの最新画像を撮影した。

イオ

エウロパ


 ガリレオは引き続き、5月20日と12月28日に太陽系最大の衛星ガニメデを高解像度で撮影した。目的は、ガニメデの地質過程と水の探査である。更に12月には、木星軌道に到着する土星探査機カッシーニと木星の磁気圏を観測するジョイント・ミッションを行なった。

 このように、ガリレオは木星系の多岐にわたる観測を成功させてきた費用対効果の高い希有なミッションである。 2000年末までのミッションをつつがなく完了した暁には、 ガリレオの総飛行距離は約45億2500万kmと、太陽と海王星の平均距離に相当する長旅を続けたことになる。ガリレオ・ミッションは、2003年8月まで続けられる。

 ガリレオは、NASAが打ち上げた探査機の中で最も複雑で精巧に設計された探査機で、9年の歳月と総費用12億ドル(約1700億円)をかけて開発、製作された。当初は、1986年5月に打ち上げられる予定であったが、1986年に起こったスペースシャトル・チャレンジャーの爆発事故と、その後にガリレオを搭載する液体酸素と液体水素を推進剤とするセントール・ロケットをスペースシャトルに搭載することは危険であるとの決定がなされ、スペースシャトルとセントール・ロケットの併用は中止された。このため、セントール・ロケットの代替として、推力の弱いIUSが使われることになった。この欠点を克服する方法として、ベガ(VEEGA:Venus-Earth-Earth-Gravity Assist)と呼ばれる金星と地球の重力を利用して加速するスウィングバイ方式が採用された。つまり、ガリレオは金星―地球―地球の順にスイングバイを行って加速して木星に向かった。

2月28日、ほぼ8年間続いたガリレオ・ミッションが終了した。この日、ジェット推進研究所のミッション管制官により、探査機ガリレオに搭載された測定データを記録するテープレコーダーとデータを地球に送る発信機の電源が切られた。昨年11月5日、木星に最接近して衛星アマルテアを探査した時点で、ガリレオ・ミッションは実質的に終っていた。 燃料がほぼ尽きたガリレオは、 今後長円軌道を描きながら次第に高度を下げ、今年の9月21日に木星の赤道上空から厚さ約6万キロの大気に突入して燃え尽きる。

 1989年10月18日の打上げから6年2ヵ月後の1995年12月7日、ガリレオは木星の上層大気の領域に達した。以後、3回のミッションで木星系を34回周回し、木星および衛星(特にエウロパとイオ)を探査し、驚異に満ちた画像を含む貴重なデータを地球に送り届けた。また、ガリレオが木星軌道に到着する前の1995年7月13日に放出されたプローブは、超高温・超高圧の木星大気に耐えて57分間降下し、大気の特性や雲の構造、木星の放射熱のレベルや稲妻などについて詳しいデータを送ってきた。

 ガリレオ・ミッションは、探査機に搭載された高利得アンテナが故障したために使用できず、データの送信を低利得アンテナに依存しなければならないハンディキャップを背負いさらに設計より数倍の量の木星の放射線の猛攻に耐えて、1995年12月〜1997年12月の第1次ミッション、引き続き1997年12月〜2000年1月の第2次ミッション、そして2000年2月〜2003年2月の第3次ミッションを終えた。

 特に際立った成果としては、衛星イオが太陽系で最も活発な火山性天体であること、衛星エウロパの氷地殻下に液体の水の海洋が存在して地球以外の生命体が生息している可能性を示唆する証拠を発見したことである。 さらに木星に向かう途中で小惑星ガスプラに遭遇したほか、小惑星アイダを回る衛星ダクティルを発見した。

 このほか、1994年7月に分解したシューメーカー・レビー第9彗星の破片が木星に衝突するすさまじい様子を捉え、2000年12月には木星に接近した土星探査機カッシニとの共同観測で木星磁場の実態を明らかにした。

 ガリレオ・ミッションが終了したことにより、1997年から始った「より速く、より良く、より安く(Faster, Better, Cheaper)」を標榜するNASAのディスカバリー計画が始まる前に打上げられた大型ミッションの一つが姿を消すことになった。